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ナスダック・ジャパンの問題点を探る“ベンチャー2000 KANSAI”(その5)

2000年09月08日 14時15分更新

文● 服部貴美子 kimiko@oct.zaq.ne.jp

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ナスダック・ジャパンをはじめ、新しい株式市場が開設・整備されることに伴って、ベンチャー起業にとって“直接金融”という、新たな資金調達の可能性が高まってきた。

本稿では、“ベンチャー2000 KANSAI”の初日の最後に行なわれたシンポジウム“ベンチャー新市場が飛躍のバネに”および、ベンチャー支援事業の説明会やベンチャー企業の新製品、新技術の展示会である“ベンチャーエキスポ2000”の模様をお伝えする。

ベンチャー企業に、資金調達の道をひらいた新市場

大阪証券取引所の巽悟朗理事長は、「市場間競争のために、(大阪証券取引所大阪証券取引所と)ナスダックとの連携は必須だった」と語った。オプションや先物取引では、高い売買シェアをキープしているものの、市場全体に占める大証の売買比率はジリ貧状態。地方証券取引所が閉鎖に追い込まれていることは、決して他人事ではなくなってきた。だからこそ「完成すれば、世界とつながる」(巽氏)ナスダック・ジャパンの国際性やブランド力に寄せる、市場関係者の期待は大きい。

ナスダックジャパン創設後に大阪証券取引所の理事長に就任した巽氏(左)。かつては若手経営者として注目を浴びた鈴木氏だが「新市場に出てくる企業の顔ぶれをみれば、年長の部類では?」と、公開企業トップの年齢低下について触れた

デジキューブの鈴木尚氏は、「スクエアを公開した'94年と、デジキューブを公開した'98年との間に、上場の審査や基準に、いろいろな変化があったことを感じる」と言い、株式公開へのハードルが、やや低くなった実感を語った。また、ナスダックジャパンへの市場変更に際しては、投資家から「なぜ、安定的な店頭から移るのか」、「いい格好をしても、株価は下がっているし、出来高も少ないのに……」と責めがあったという裏話も披露した。

 

新市場に生みの苦しみがあるのと同様に、申請会社にも苦労は多い。オプテックス(株)の小林徹社長は、「ニッチゆえに、株価算定の基になる類似会社がなかなか決まらなかった。公開してからも、出来高や株価を上げるためのIR活動が難しい」と語る。

さらに、京都大学大学院の吉田和男教授は、「上場基準が厳しいことによって、投資から回収までの時間が長すぎることは、上場できそうな状態=LaterStageの企業にしか、資金が流れていかないということにつながり、シーズ・インベストメントをしようという動きにつながりにくい」と指摘。

巽氏が、本当の意味でのエンジェルが出てくるためには、「企業サイドからのタイムリーディスクローズが必要」と訴えると、鈴木氏は「四半期決算の開示はナスダック・ジャパンでは当たり前」と、市場による対応の違いを説明。「経営情報のディスクローズを行なうことによって、市場の発展と投資家保護が実現する」と、ナスダック・ジャパンの方針を評価した。

しかし、新市場は流通株式数が絶対的に少ないという背景もあり、価格が乱高下しているのも事実。「機関投資家が、横並びの投資行動をやめれば改善されるはず」と小林氏が述べると、巽氏が「質のいいアナリストを育てることによって、企業価値が市場に反映させやすくすべきだ」とまとめた。

新市場の問題点や、日本のベンチャー育成風土への不安を述べた小林氏(左)と吉田氏

ものづくりベンチャーのプレゼンテーションや支援団体の相談窓口も手応え十分

オープニングセレモニーで、太田房江知事が口にしたように、大阪は“府と市”、“官と民”といった垣根をこえて連携し、関西の産業創生と活性化に力を入れていこうとしている。9月4日に催されていたベンチャー支援事業の説明会&相談会にも、さまざまな支援団体が参加し、無料相談の会場には、列ができるほどの盛況ぶりだった。

プレゼンテーションを行なう、大阪市中小企業支援センター(あきない・えーど)の吉田雅紀氏。利用者の視点にたったコンサルティングサービスについて説明していた。近寄りがたいイメージがつきまとっていた官主導型の支援施設にも、変化が起こり始めているようだ

また、事業会社側からも、最新の技術やビジネスモデルについて展示、紹介できるブースが数多く準備されていた。「ベンチャーキャピタルの来訪が多い」、「提携先として考えられる企業との出会いもあった」(参加企業)との声もあるが、それが実現するかどうかは、今後の営業次第だろう。

技術者と製造メーカーの距離を近づけるためのポータルサイト“テックジャム”を運営しているクリエーションシステムズも、プレゼンテーションに立った

大阪府・八尾市に本社を置くミレニアムトレードは、ネットと人的サービスによる、製造業のグローバル資材調達および受発注支援などを行なうサイト“ものづくりタウン21”を出展。

国内に留まらず、海外の中小企業ともネットワークを作り、適時・適価・適品・適地・適量供給を目指した、グローバルなネット調達の実現を目指す。「すでに3000社という、予想を上回る引き合いがあり、驚いている。日本国内より、アジア各国――特に韓国企業の反応がいい」(広報企画部長・金谷淳子氏)といい、シンガポールについても準備中。

今のところネットを中心に参加企業を募っているが、まだパソコンを導入しきれていない企業をも取りこぼさないために、今秋からは営業マンを増員してアナログな手法で中小のメーカーに働きかけ、情報を収集していく予定だ。

ミレニアムトレードの“ものづくりタウン21”

シンポジウムは、IT関連の話題が多かったのに比べ、展示ブースでは高い技術力をもった製造業の健闘が目立つ。大阪市・中央区のアドフォレストは、エレクトロルミネッセンスを用いたフラットディスプレーを展示。16色のやわらかな光源は電力消費コストも安く、熱を持たないのも特徴。フィルム転写した写真を付けかえるだけで、ポップな広告ができあがる。店頭ディスプレーはもちろん、証明の落ちた場所で使用するネームプレートやバリアフリー用品など、応用範囲はさまざま。

折り曲げに強い、EL(エレクトロルミネッセンス)

さらに別フロアーでは、ベンチャービジネスの総合的支援を目指す職能横断的な専門家たちが結成した協同組合“関西ブレインコンソーシアム”からの出展やプレゼンテーションが行なわれていた。

円形立体駐車場システムで、交通渋滞の解消を提案するアイアンドアイマネージメント(I & I)や、すでに、回転すし店などで実用化されている画像食品認識システム、在庫管理や出退勤管理などにも利用できる部分形状認識システムなどを開発した、インキューブなど、ユニークなアイデアと高い技術力を備えたシステムが注目を集めていた。

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