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【Inter BEE '99 レポート Vol.4】ソニーvs松下、そしてHDTVの未来--Inter BEE総括

1999年11月19日 00時00分更新

文● メディア アナリスト 高橋孝蔵

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(社)日本電子機械工業会(EIJA)の主催で、映像・放送関連技術の専門展である“第35回 1999年国際放送機器展(Inter BEE'99)”が、千葉・日本コンベンションセンター(幕張メッセ)で17日からの3日間に渡って開催された。

本稿では、メディアアナリストの高橋孝蔵氏の手による、Inter BEEの総括とデジタルテレビ放送の今後についての展望を紹介する。

BSデジタル放送に向かってHD(高品位テレビ)化

華やかなショーの背後でしばしば大きなドラマが進行する。放送事業者にとってのドラマとは大競争時代への突入にもなろうBSデジタル放送開始であろう。2000年12月に放送予定のBSテレビ放送に新たに6社が新規参入し、デジタル放送を行なう。その中でNHKハイビジョン並びに民放系5局とWOWOWの7チャンネルが高画質のHDTV(高品位テレビ)放送をする。BSデジタル放送の主流はHDTV。Inter BEEの見所も当然HDTV機器に集中する。

ソニーと松下の熾烈な競争

世界の放送機器市場で圧倒的なシェアーを誇るのはソニーと松下電器。Inter BEEでも毎年恒例の如く主役である。ソニーはHDCAMで既に1200台の販売実績をあげ一歩先んじ、松下DVCPRO HDがそれを追いかける構図である。

松下が来年3月に販売を予定し、会場で注目をあびていたのは220万画素のカメラレコーダー『AJ-HDC20A』、110万画素の『AJ-HDC10A』、スタジオレコーダー『AJ-HDC150』の3機種。思い切った価格で一気に売上げを伸ばす作戦を取るだろうと云われている。

松下は、シドニーオリンピックの公式スポンサー。オリンピックという世界的な舞台で、同社のカメラコーダーをアピールする腹づもりだ
松下は、シドニーオリンピックの公式スポンサー。オリンピックという世界的な舞台で、同社のカメラコーダーをアピールする腹づもりだ



ソニーHD機器のラインナップは、カムコーダー(VTR一体型のカメラ)『HDW-700』、VTR『HDW-500』と『HDW-250』。そして、SD(標準テレビ)制作と同様の制作環境で使用可能のABロールリニア編集及びHD/SDのスイッチャブル編集システムも用意した。また、映画フィルムと親和性の高い24P系(35mmフィルムは24フレーム。同じフィルムレートを採用)機器にも重点を注ぐ。米国プライムタイムの番組、コマーシャルがフイルムで制作されているのを考えれば、相当な需要が見込める。反対に映画の方でも24P系のHD機器を使い、映画製作を行なうという可能性さえ出てくる。

ソニー、松下の熾烈な競争の中で、それぞれの仲間づくりという作戦がある。番組制作、伝送、放送と一般家庭に映像が届くまで様々な機器が使用される。1社で全ての機器を製作することは出来ない。そこで松下はDVCPROの信号フォーマットを各社に公開するだけでなく、技術支援も行なう。一方、ソニーは圧縮技術の国際標準であるMPEGについてのProMPEGフォーラムを通じ、仲良しグループをつくる。互いに自社製品の売りやすい販売環境を構築する工夫だ。

ソニーのブースでは、同社のMPEG技術とHDCAM製品を大きくアピールしていた
ソニーのブースでは、同社のMPEG技術とHDCAM製品を大きくアピールしていた



クォンテルのHD対応画像処理装置、アビッドのHD対応ノンリニア編集システムなどの新鋭機器や開発中の機器がメイン会場とは別の部屋で限られた重要顧客に限定した説明会が開かれていた。伝送技術も含めまだまだHD用に開発を必要とする分野が残っているようだ。

アビッドのブース、同社は幕張メッセに隣接したホテルで、大規模なプライベートショーを開催していた
アビッドのブース、同社は幕張メッセに隣接したホテルで、大規模なプライベートショーを開催していた



テレビは益々面白くなるか。危惧と期待

ところでBSデジタル放送の業界目標は放送開始から1000日で1000万世帯の普及だ。1000万世帯普及すれば、広告収入に弾みがつき、黒字も見えてくると云うものだ。しかし、これを危惧する向きも決して少なくはない。HDTVは誰もが容易に買えるような値段になるのだろうか。例えば取りあえず20万円くらいで販売されるのだろうか。

だが、家電メーカーに云わせれば需要次第、それだけ魅力のある番組を放映して下さいということになろう。一方民放側にしてみれば、HD番組制作コストはSDの1.5倍はかかろうといわれているなかで、どうやって限られた予算で魅力ある番組編成するかという苦労がある。それに広告では同じ系列のテレビ局で地上波とBS放送とスポンサーの争奪戦を行なうことにもなりかねない。安値競争をするようなことがあれば、経営基盤さえ危ふくする。

欧米における地上波デジタル放送の現状は?

日本にとってメディア環境は違うが、デジタル放送の先輩米国ではその後どういう進展を見せているのか大いに参考になる。メイン会場に隣接する国際会議場で11月18日午後、国際フォーラム“米国・欧州における地上デジタル放送の最新事情-今後のサービス展開を考える-”が開かれた。

その中から、メインゲスト役の全米放送事業者協会(NAB)上席副会長チャールズ・シャーマン博士のスピーチに焦点を合わせてみよう。

「米国で地上波のデジタル放送を始めたのは'98年の11月1日。しかし、既に陰口を叩かれる。例えば“HDTVの世界が来ることはないだろう”“デジタル移行は失速した”等々。しかし、白黒テレビからカラーテレビに移行する時も、“白黒で十分”“米国大衆はカラーだからといって余分の金は払わない”と言われていたものだ。視聴者同様、業界関係者は辛抱が足りない」

「デジタル移行は他のメディアより上手くいってる。通常のテレビ放送が'48年に開始され、その6年後の'54年でも16都市で108局が放映していたに過ぎない。デジタル放送ではこの10月1日現在34のマーケットで75局が、ミレニアムを迎える頃には40マーケット、120局で放映されることになろう。人口の60パーセントをカヴァーする」

「“ビット”は18世紀における石油のようなもの」

「番組についても同じだ。カラーに入って最初の5年間はカラー番組は僅かだった。しかもその大半はNBCが提供するものだった。ところがHDTV番組はABC、CBS、NBCがほぼ週25時間放映している。ネットワークだけでなく、KOMO(シアトルのABC系放送局)とかKING(シアトルのFM放送局)などのローカル局も、HDのニュース番組を制作するようになった。HDTV放映時間は急速に上昇するだろう」

「受像機もフィリップス、シャープ、富士通、日立や中国製も登場し、価格が大きく下がる見通しがある。問題はデジタル移行に伴う多額の投資をどう回収するかだ。その鍵は6MHz帯域のビットの中にあるだろう」

「ビットは18世紀後半にペンシルバニアで発見された時の石油のようなものだ。当時石油にどんな使途があるのか想像もできなかった。今では石油は自動車のガソリンからポリバケツに至るまで数限りない用途がある。ビットをどう活用するかはこれからの問題。データ放送、電子商取引、双方向性テレビ、チャンネルガイド、デジタルレコーディングなどにチャンスがあるだろう」

「乗り越えねばならないハードルは多い。中でも急ぎ解決しなければならない課題はケーブルテレビ事業者へのマストキャリー、著作権保護、インターフェアランスの中でシグナルを確実にピックアップする受像機の性能だ」--。

シャーマン博士の発言は非常に示唆に富むものだ。テレビが益々面白くなるものか、消費者を魅せることが出来るのかどうかは放送事業関係者の双肩にかかっている。

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