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【INTERVIEW】「公設電子市場を設け、サイバー札幌市民を募る」--札幌市の先端産業係長、町田隆敏氏に聞く

1999年05月17日 00時00分更新

文● 聞き手/文:尽田 万策

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札幌市は、'80年代中ごろから、テクノパークの造成や、情報技術関連のベンチャー育成、誘致に力を入れてきた。(株)ビー・ユー・ジー、(株)ハドソンなどを筆頭に、いまも企業勃興のダイナミズムが働いている。札幌市の経済局産業振興部産業開発課先端産業係長の町田隆敏氏に、情報産業育成の現状と将来について聞いた。聞き手は、札幌在住のジャーナリスト、尽田万策氏。


公設電子市場とサイバー札幌市民

--最近、町田さんが取り組んでいることについて、説明していただけますか?

「はい。昨年から、電子商取引の普及推進団体を組織して具体的なプロジェクト活動に取り組んでおり、自分のところがその事務局機能を担っています。さて、札幌市中央卸売市場というのがあります。みなさん意外と知らないのですが、実は市役所が運営しているものなんです。だったら、それの新しい時代に見合った電子市場版を作ろう、ということで、現在、公的な実験インフラを作っているところです。これからいろいろな人たちがその市場にやってきて店を開いたり買い物をしたり、どんなことになるか楽しみです」

札幌市の経済局産業振興部産業開発課先端産業係長の町田隆敏氏
札幌市の経済局産業振興部産業開発課先端産業係長の町田隆敏氏



「電子商取引が面白いのは、新しい“商い”の仕組みを作っていけるからです。これまでの、農家が物を作って農協から卸売市場、そこから小売店を通じて消費者へと流通するシステムは、それはそれであって良くて、また別に新しく自分の作った物を注文に応じて消費者に届けられる。これまでのシステムを壊すのではなくて、もうひとつプラスする。そういう考え方が私は大事だと思っています」

北海道物産モールの企画を推進している凸版印刷北海道事業部の桝谷稔氏
北海道物産モールの企画を推進している凸版印刷北海道事業部の桝谷稔氏



--市場を作ったら、そこに人を呼ぶ仕掛けが必要になりますよね?

「もう1つ、この公設インフラを使って“札幌新市民10万人事業”というプロジェクトを展開します。言葉にするとなんだか堅いですが、要はインターネットを活用した札幌ファンクラブを開設するのです。会員登録してもらった札幌ファン(札幌新市民)のみなさんに、いろいろな札幌の情報やツアーをはじめとしたコミュニティーサービスを行なおうというものです。3年間で10万人の新市民の登録を目指していますが、ネットワーク時代の“地域”と“市民”の新しい関係を築くためのきっかけの事業にしたいと考えています」

EC実験サーバー環境が置かれる“札幌市ネットワークプラザ”
EC実験サーバー環境が置かれる“札幌市ネットワークプラザ”



“情報結縁都市札幌”

--札幌市では、これまで地域情報化をどういったかたちで推進してきたのでしょう?

「札幌市では、'86年(昭和61年)ごろから情報産業を札幌市の産業振興分野の1つとして位置づけて、施策を展開してきました。堅い分野では札幌テクノパークという名前の情報産業向け工業団地の造成と企業誘致の推進などから、柔らかい部分では区単位レベルでの市民ネットワークコミュニティーづくりに対する支援など、かなり広い視野に立って取り組んでいます」

緑豊かな札幌テクノパーク
緑豊かな札幌テクノパーク



--情報化推進の目的というものを、確認しておきたいのですが?

「では、情報化に対する基本的な考えをお話ししましょう。産業振興の面では、情報産業の振興を通じて地域の産業全体の情報化・高度化を図ることを考えています。また市民生活の面ではこれまでの町内会に代表される“地縁”にプラスして、ネットワークでつながる“知縁”と言うべき地域コミュニティーの形成を目指しています」

「そしてその先に、地域の経済分野とコミュニティ分野がお互いに重なり合う“情報結縁都市サッポロ”のような姿をイメージしています。これは、最近よく話題になるサスティナブルコミュニティー(持続可能な地域社会)の考えに似ていますが、そうしたコミュニティーが成立するには、地域の中で“仕事”と“暮らし”とがうまく混ざり合っていることが大事ではないかと思います」

--札幌の情報関連企業の新しい動きについて教えてください。

「ビジネスや暮らし良さのための都市環境や域内の市場規模、因習に囚われない風土慣習など、情報産業自体の立地適性として札幌は全国的に見て比較優位があると思います。さらに札幌の中を細かく見ていくと、最近の面白い傾向が読み取れます。札幌駅の北口周辺に独自技術を持ったベンチャー系のソフトウェア企業やデジタルプロダクションが集中してきているのです。正確に調査したわけではないですが、この何年かで30社程度集まっている。理由として北大が近いということもあるかもしれませんが、むしろ駅が近い(空港までの時間)、テナント料が安いといった基本的な立地条件が影響しているようです」

集積の効用を説く町田係長 集積の効用を説く町田係長



「しかし実はこの、歩いて集まれる範囲のエリア内に集積が進んでいる、そして北大という技術研究基盤が背後に控えている、という事実は、今後の札幌の情報産業を展望するうえでとても大きな意味を持っていると見ています」

「どうしてかというと、はじめは立地条件を理由とした小規模な企業集積であったとして、そこを中心としてだんだんと人的な交流が進み、次第に共同開発やスピンアウトなどが行なわれて、ある段階で急激にクラスター化していくといった可能性が十分あるからです」

--北大や交通の便が最初のきっかけだっとしても、集積が始まると、集積自身を原因としたプラスの循環が回り出すのですね?

「今の札幌は、情報関連分野がそうしたクラスター化に向かうための初期段階にあると思います。その際に意図的なことを何か行なうとすれば、人的な交流が自然に深まる仕組みを、あらかじめ盛り込んでおくことだと思います。これはお金の掛かる仕事ではないのですが、手間の掛かる仕事です。人間関係の多層化によって集積効果が加速されるはずです。大げさな構想よりもちょっとした仕掛けが大事じゃないでしょうか」


情報産業は他産業の浮上のテコになる産業

--情報産業が北海道を牽引する時代が来るでしょうか?

「拓銀の崩壊に象徴されるように、今の北海道はとても厳しい状況ですが、私は、情報産業が北海道全体の経済状況を突破する鍵だと思います。でも、それは札幌の情報産業が飛躍して北海道を引っ張るという意味ではないです」

「現実には、北海道全体でみると農業や水産業、観光などが、札幌について言えば流通・サービス業が地域の主要な産業であって、それはこれからもそう大きく変わらないはずです。しかし、それらの産業を高度化するために情報技術をいかにうまく活用するか、がポイントです。つまり情報技術は、これからの地域産業全体にとっての基盤インフラと言えます。例えば、バイオや情報技術の活用で北海道の農業が国際的に飛躍する可能性は非常に高いわけです」

「だから、その情報技術を提供する情報産業が地域の中に存在することのアドバンテージはすごく大きい。おかげさまで現在、札幌では、情報関連企業の集積が進みつつあります。この10年間で、例えば売り上げ高では4倍の経済規模に拡大しました。この技術集積を活用して、札幌の情報産業と北海道の産業全体がいかに結合して相互に飛躍するかという、新しいフェーズにすでに入っていると思います」

--これからの情報産業の姿、それから行政としてどんなことをやりたいですか?

「情報産業の未来像について、漠然と4つぐらいのイメージがあります。1つは情報技術を売る分野、次にその技術を使って他産業に情報システムを提供する分野。それからデジタルコンテンツを売ったり買ったりといったようなメディアサービスに近い範疇(はんちゅう)。そして最後にメディアと情報技術を活用して知的・物的サービスの仕組みそのものを再構築する新しいカテゴリーで、現在その部分が急激に拡張しつつあるんだと思います」

情報技術の分野では“時”が勝負。“時”を象徴する札幌の顔“時計台”と札幌市役所庁舎 情報技術の分野では“時”が勝負。“時”を象徴する札幌の顔“時計台”と札幌市役所庁舎



「では、その部分に対して行政はどんな支援ができるか、です。何せこの世界は動きが速いので、支援だと思って引っ張っているのが“足”だったりするかもしれないです。まずは同じスピードで走る体力を付けて、立ち遅れないようにがんばっていきたいですね」

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