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デジタル資産管理に進出するIBM、ソニー、SGI--NAB'99から

1999年05月07日 00時00分更新

文● 寺本昌作

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4月に米ラスベガスで開催されたNAB(全米放送事業者大会)の展示会および会議の“NAB'99”について、業界をウォッチしてきた寺本昌作氏の寄稿でお伝えする。全3回の予定。第2回の本稿では、展示会と、そこから見える企業戦略を中心に紹介する。キーワードは、“デジタル・アセット・マネジメント(デジタル資産管理)・システム”。

侵食してきたコンピューター産業

NABは例年、ラスベガス・ヒルトンに隣接するラスベガス・コンベンション・センターと、そこから2キロ~3キロメートル離れたサンズ・コンベンションセンターの2ヵ所に別れて開催されている。NABの会長、エディー・フリッツ氏によれば、「1400社の出展がある」ということで、数えたことはないけれど、もう1人じゃ回り切れないなあ、という大きさである。

会場は、大きく5つの展示分野に分かれている。(1)テレビ、ビデオ系展示、(2)ラジオ、オーディオ系展示、(3)衛星、通信系展示、(4)NABマルチメディア・ワールド、(5)インターネット@NAB99--という具合である。

前者3つが放送系、後者2つがコンピューター系と見られているが、コンピューター産業は従来分野も侵食している。マイクロソフト、IBM、HPといった企業のブースが堂々と“テレビ、ビデオ系”に進出しているところをみると、近年言われている“放送とコンピューターの融合”が実感として肌で感じられる。それでは、出展物とそこから垣間見ることのできる企業戦略について、いくつかご紹介しよう。

デジタル資産管理でソニーとIBMが提携

毎年NABをめがけて、提携、買収や新製品の発表といった話題が多くの企業から仕掛けられる。今年は、目立った動きは少なかったが、“デジタル・アセット・マネジメント・システム”でソニーと米IBMが提携したことが、話題を呼んでいた。

会場で最大規模を誇るソニーブースの賑わい
会場で最大規模を誇るソニーブースの賑わい



コンテンツをどのように管理して、有効に使い回していくかは、放送事業者にとっては大きな課題で、この分野に力をおいた展示はあちこちにあった。その中でも、IBMがデジタルライブラリーというアーキテクチャーを中心に主としてソフト系を、ソニーが『ペタサイト』というアーカイブ装置を中心にハード系を、それぞれ分担しての開発には、今後も期待が持てそうである。

ペタサイトというのは、1本42ギガバイトのデジタルテープを保管庫に収容し、最大2.3ペタバイト(2300兆バイト)という巨大なアーカイバを構成するものである。ソニーの担当者の話では「2000年にテープ1本200ギガバイトになる」とのことで、そうなると収容データ量がもっと増える。

装置は、テープ保管庫からロボットアームで取り出して、ハードディスクにステージングする、といったもの。昔、IBMに『マス・ストレージ・システム』という数百億から数千億バイト規模の同種の製品があり、銀行や保険会社といった“巨大なデータを必要とする大企業”のコンピューターシステムに利用されていたことがある。それがマルチメディア映像時代のシステムとして甦ったようなものである。

ソニーと共同開発を表明したIBMの“デジタル・アセット・マネジメント・システム”説明風景
ソニーと共同開発を表明したIBMの“デジタル・アセット・マネジメント・システム”説明風景



IBMのブースでは、このプロジェクトのデジタルライブラリー利用のソフト部分をイメージ展示していた。そのほか、『インテリステーション』の上に『Avidメディア・コンポーザー』、『同ショウ・ビズ・プロデューサー』といった“売れ筋”の他社ソフトを乗せて、低価格(1万ドル以下)を売り物にしたデジタル編集システムを展示。腰の軽くなったIBMを印象づけていた。

マイクロソフトはWebTV一色

マイクロソフトは毎年巨大なブースを出しており、テーマを設けて展示している。昨年までのオーサリングツール主体の展示から、一変して今年はWebTV一色になった。記者(寺本)の個人的な感覚としては、WebTVが思ったほどに伸びていなくて、ここらで大きくてこ入れを図るか、といった雰囲気だった。それでも、WebTVが、ノンPC環境でのインターネットアクセスの代表選手であることに変わりはなく、今後も注目する必要はありそうだ。

また、マイクロソフトが後援する形で、“インターネット・シアター”が運営され、協賛企業も含めて多くのデモが行なわれた。目立ったものは、やはりマイクロソフトの“Windowsメディア・テクノロジー4.0”。これは、MP3オーディオやビデオを中心としたデモンストレーションで構成されていた。

アップルはQuicktime4

アップルは、Quicktime4を、MP3オーディオ、インターネットオーディオ、インターネットビデオ、ビデオオンデマンド、インターネットオーサリングの核に位置づけ、iMacを並べてデモを行なっている。また、サーバーシステムにQuicktime4を導入した提携企業を“ストリーミング・サーバー・パートナー”としている。これらの企業、すなわち、IBM、SGI、サンのサーバーシステムを並べて展示している。

一方、Macintosh上のビデオ編集システムとして“プロフェッショナルDV”、“プロシューマーDV”と銘打ち、『FinalCutPro』を前面に出している。

HPはプロを相手のアーキテクチャー勝負

HPは、IBM同様、コンピューター系ではなくテレビ、ビデオ系への展示。それも放送事業者を相手のプロ向けの仕様で、ニュース&エディット/アクイジション/デリバリー/コントロール/マネジメントといった全体の体系をまとめた“HPオープン・ビデオ・アーキテクチャー”として紹介している。

“一般のテレビ、ビデオ”の入り口にヒューレット・パッカードのバナー(横断幕)。融和ととるか、侵食ととるか
“一般のテレビ、ビデオ”の入り口にヒューレット・パッカードのバナー(横断幕)。融和ととるか、侵食ととるか



このアーキテクチャーの中核になるのが、HPメディア・ストリーム・サーバーである。同時に16チャンネルをサポートし、外部接続のハードディスクを含めて、1000時間以上のMPEG2データストリームを収容した。これにより、番組配信の自動化を達成できるように設計されている。

シリコングラフィックスのソリューション

SGIもまた、放送局のプロフェッショナル向けに注目を集める展示を行なった。製品としては、1080Pまでをサポートする“非圧縮型HDTVプレイバック”、要するにデジタル編集システムになる。制作の現場では歓迎されそうである。このほか、HDTVサーバーといったハード系の展示や、お得意の3Dアニメーションにも力が入っていた。

大きなスペースを割いていたのは、“デジタル・アセット・マネジメント”というトータルソリューションである。これは、IBMにも見られた内容であるが、ビデオやフィルムといったコンテンツのアーカイビングから管理まで、いっさいを、システム化しようとするものである。コンテンツの有効活用を図る放送事業者にとっては必須課題ともいえる。日本企業の展示には、このような提案はほとんどなく、あらためて日米の物の見方の差を感じる1コマになった。

リアル・ネットワークスと『Village』

リアル・ネットワークスの展示は、リアルシステムG2を中心に、提携企業も加えたものとなった。リアルシステムG2を“ウェブ上の次世代メディアデリバリーシステム”と位置づけ、多くのデモを行なっていた。

展示提携企業の中に、おもしろいものを発見した。Village(ビラージュ)という会社がリアルネットワークスのブースを借りて展示しているだけだが、次のようなものである。音声認識/テキスト変換技術を利用して、“ビデオ検索システム”を構築。画面と、タイムコードと出演者のせりふを変換したテキストが一体となってデータベース化される。せりふや登場人物名を入力して検索すると、たちどころに結果が表示される。

ビデオ情報の蓄積と検索は、放送局にとっては大きな課題で、ここに着目したシステムは大企業からベンチャーまで多くの企業から提案されている。今回紹介した『Village』が、そのベスト製品である保証は、確かに何もないが、このような“明日の成功を夢見る起業家が、ごろごろいる”ことが米国の活力なのだろう。

カナル・プリュスの進出

カナル・プリュスは、フランスのテレビ局である。ここは、いちはやく放送のデジタル化に取り組み、すでに300万台のセットトップボックスを出荷しているという。その先進性が評価されている。

カナル・プリュスでは“メディアハイウェー”というデータ放送のアプリケーションを展示している。高速インターネットアクセス、ホームバンキングサービス、ゲーム配信サービス、インタラクティブアドバタイジング等々、多くのサービスメニューを提示していた。DVBというヨーロッパのデジタル規格だけではなく、「ATSC(米国のデジタル規格)にも対応する」という点にも、自社で開発したものを米国市場にも売り込もう、という意気込みがありありと感じ取れる。

カナル・プリュスだけではなく、ドイツ・テレコムやユーテルサットといったヨーロッパ系企業が、自社のソリューションをひっさげて乗り込んでいる。その姿には、(もちろん、放送機器にはフィリップスやトムソンといった老舗がいるにしても)この分野で先行したヨーロッパのビジネスが浮き彫りになっている。

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