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最先端のバーチャルリアリティを紹介、“第5回複合現実感研究会”レポート

1999年04月17日 00時00分更新

文● 編集部 原武士

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 16日、福島県・会津大学にてヴァーチャルリアリティ(VR、仮想現実感)と、ミックスドリアリティ(MR、複合現実感)に関するCG研究の成果を報告する“第5回複合現実感研究会”が始まった。この研究会は2日間にわたって開催される。主催は、3月上旬に開催された複合現実感に関するシンポジウム“ISMR'99”を主催した日本バーチャルリアリティ学会複合現実感研究会。

 初日の今日は、お茶の水女子大学理学部教授、理学博士の藤代一成氏による“複合現実感のためのvisual computing技術”と、会津大学コンピュータハードウェア学科コンピュータ構築学、工学博士教授池戸恒雄氏と、同氏の研究室を今年卒業した(株)ソニー木原研究所、開発部の佐藤仁氏による“次世代マルチメディアシステムに対応したリアルタイムCG技術”という2つの実験報告が行なわれた。

複合現実に必要なのは時間解像度の高さ

 藤代氏は、同氏がこれまで進めてきた4つの研究について報告・紹介した。その中から2つを紹介する。

MRに心理学を取り入れたりと、多様な研究をする藤代氏
MRに心理学を取り入れたりと、多様な研究をする藤代氏



・MRの没入感を向上させる“タイムクリティカルレンダリング”

 この研究は、仮想美術館を探索し、絵画などを鑑賞するためのもの。絵画を鑑賞するには、高解像度のテクスチャーが必要となるが、処理速度が遅くなってしまい没入感を失ってしまう。その解決策として、鑑賞者の視点の動きに応じてテクスチャーの解像度を変化させ、ユーザーからの入力に対する反応速度の向上を図っている。

藤代「MRに必要なのは、一定の応答性と多感覚情報の同期にある。いくらきれいな画面でも、カクカクした動きや、システムの反応速度が遅いと没入感が大幅に減少する。MRに関しては画像解像度よりも時間解像度のほうが重要である。しかし、仮想美術館では、絵画を鑑賞する場合に解像度が低くては意味がない。そこで、鑑賞者の行動モデルを“探索モード”と“鑑賞モード”に分類し、探索モードのときは画質を落として高速化をはかり、鑑賞モードに入ると解像度をあげオブジェクトの細部まで見えるようにした」

 藤代氏は、仮想空間内に作成したサッカーボール状の仮想美術館を使い、タイムクリティカルレンダリングを紹介した。美術館は5角形で構成される巨大なサッカーボールの平面部分に絵画を貼り付けてあるもの。鑑賞者はサッカーボールの内部から自分の見たい絵画を選び、その場まで移動して絵画を鑑賞する。

 同氏の作ったシステムでは、ユーザーの視線の動きで鑑賞モードと探索モードが切り換わる。鑑賞者の視点が定まっておらず、動きが速い場合は自動的に探索モードになり、システムの反応速度が向上する。それに対し、動きが遅い場合は鑑賞モードになり、オブジェクトに張られているテクスチャーが高解像度のものに切り替わる。

・3Dオブジェクト風化させる“volume metamorphosisによるオブジェクトの風化と拡張現実感への応用”

 この研究は、3Dオブジェクトを、より自然に表現する研究。パソコンで作られた3次元画像にありがちな、つるりとした物体ではなく、自然に転がる石のように、一見丸いが表面はでこぼこしているものを表現する。

藤代「私はまず石に着目した。石は風化するし、ひびが入って割れたり欠けたりする。これを計算で再現できないかと考えた」

 同氏の考えたシステムは、図形解析などで使用されるオープニングという手法を利用している。まず通常の3次元オブジェクトを作成し、その全表面を一定の半径rをもつ“ストラクチュアエレメント”という球体で削り取る、次にその削り取った表面に、乱数で半径R(r>R)が決まるストラクチュアエレメントで埋め尽くし、でこぼこした表面を形成する。これを3次元オブジェクトに何度か適用することで、物体が風化していく様子を再現したという。半径Rを決定する乱数の発生アルゴリズムを変化させれば、数種類の素材から構成される複合物体の風化の様子を再現することもできる。また、半径Rをrより大きくすることで鉄につく錆なども再現できるという。

煙やガスを表現するチップを作成

 続いて、池戸氏と佐藤氏が“次世代マルチメディアシステムに対応したリアルタイムCG技術”について報告・紹介した。これは、VRのなかでも特に計算に時間のかかる液体やガスをリアルタイムに表現させるためのハードウェアアーキテクチャ研究。

「リアルな画像には10万ポリゴン以上が必要」という池戸氏
「リアルな画像には10万ポリゴン以上が必要」という池戸氏



池戸「テクスチャーマップ、バンプマップ、シェーディング、ソフトシャドウキャステング、ガス状物体など、計算に数百Gflopsを要する密粒子演算はソフトウェアによる計算は不可能。VLSI化が望まれている。家庭用ゲーム機でも、完全に対応しているのはテクスチャー処理だけだ。それ以外はテクスチャーを使った擬似的な表現に過ぎない。またリアルタイムに密粒子計算をするには、これらの機能をもつ独立したチップ(プロセッシングユニット)のすべてが同時に並行動作する必要がある」

池戸「現在のボトルネックは、各プロセッシンッグユニットを接続した場合のデータバッファの転送スピードにある。現在、光ファイバーによるプロセッシングユニットの接続を研究している」

 佐藤氏は、池戸研究室在籍中に研究していた、3次元CGによる煙の表現を、実際にパソコンを使って紹介した。線(スプライン)で構成されるベースの周囲を複雑なカーブを描いて、煙の粒子が上昇していく。これらの粒子は、風などの影響を受けて大きくゆれたりしながら立ち上っていった。その動きは実際の煙をよく再現していた。

次世代プレイステーション開発にも関わるという佐藤氏
次世代プレイステーション開発にも関わるという佐藤氏



 池戸研究室では、3次元による表現の難しい人の髪の毛の動きや、影の屈折をチップに組み込む研究を行なう予定。国内の大学にはハードウェアによるCG研究はあまりないという。そのためか、同研究室には、ゲーム機メーカーからのチップ共同開発の話もよくあるという。

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