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【INTERVIEW】“9万9800円ショック”で横浜ランドマークタワーの電話がダウン----ソーテックのパソコン販売戦略

1999年03月30日 00時00分更新

文● 報道局 白神貴司

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 '98年10月、日本のパソコン市場にインパクトを与える製品が登場した。パソコンの本体に、15インチCRTディスプレーが付属する『Micro PC STATION 300(MT1MS333-L151)』の価格は、9万9800円。パソコン本体には、CPUとしてCeleron-300AMHz(Celeronとしては当時最速)を、メモリーとしてSDRAMを32MB、HDDを3.2GB、最大24倍速CD-ROMドライブを搭載。モデムとしてV.90対応のFAXモデムを内蔵し、Windows 98プレインストールという構成であった。

中尾俊哉取締役
中尾俊哉取締役



 ディスプレーが付属して10万円を切るという大胆な価格設定に、一般のユーザーのみならず日本のパソコン業界は衝撃を受けた。この製品を発売したのは、横浜市に本拠を構える(株)ソーテック。かつてはハイエンド向けのノートパソコンをBTO(Build To Order)方式で販売していたパソコンメーカーだ。同社ではほかにも、'98年シーズンに38年ぶりに日本一となった地元プロ野球球団・横浜ベイスターズの“優勝記念限定モデル”を限定発売したりと、話題に事欠かない。

 今回は、同社でパソコン事業を統括する中尾俊哉取締役に、同社が見据えるパソコンの将来像も含めて、その販売戦略について話をうかがった。



“9万9800円ショック”でランドマークタワーの電話回線がパンク!

----'98年10月に発売した『Micro PC STATION 300』の9万9800円という価格は話題になりましたね。

「率直にいって、予想をはるかに上回る反響に大変驚きました。製品に関する問い合わせがあまりに多く、電話回線が一時的にパンクという事態にまでなっています。この影響は社内だけでなく、ソーテックが本社を構える横浜ランドマークタワー全体に及んでしまいました。電話回線を全館で一括して管理、運用しているため、回線ストップの影響がビル全体に及んでしまったのです。こんなことは恐らくランドマークタワーが開業してから初めてでしょう」

「個人ユーザーだけでなく、販売店や法人からの問い合わせも殺到しました。それまでこちらからいくらアプローチしても購入してもらえなかったところから、“ぜひ欲しい”という電話が何本も掛かってきました。とても現在の営業スタッフでは対応しきれず、泣く泣くお断りしているような状態です。問い合わせを含めると1日平均2400コールの電話が掛かってきます」

Trigemとの提携なしに実現はありえなかった

----低価格を実現した理由はどこにあるのでしょうか。

「韓国のコンピューターメーカー、Trigem Computer社(以下トライジェム)との関係強化がやはり最大の理由でしょう。トライジェムとの提携は、'96年前半にノートパソコンのOEM販売で提携したことから始まりました」

「この協力関係を続けるうちに、当社の大邊創一社長がトライジェムのCEO、ポール・リー氏と意気投合し、'97年10月ごろからデスクトップパソコンの生産に関する協力関係に関する検討が始まりました」

「ちょうどそのころ、米国で登場した1000ドルを切る低価格パソコンが話題となり、当社でも、日本でできないか、という議論が起こりました。トライジェムとソーテックで、1000ドルパソコンを作ろう。意思統一から実行まで、およそ1年の準備期間を経て、'98年10月の発表となったのです」

「なお、本体とセットで販売しているディスプレーの製造元である韓国のディスプレーメーカー、Korea Data Systems社をソーテックに紹介したのもポール・リー氏です」

入管手続きの手間も省いてコスト削減

----製品はすべてトライジェムの工場で組み立てているのですか。

「基本的な組立作業はすべてトライジェムの韓国工場で済ませ、半完成品をソーテックの横浜工場でカスタマイズして出荷するという方式を採用しました。工場といっても、以前から使用していた倉庫を改築し、そこにラインを設置したもので、いうならば“BTO工場”とでも言うべきものですが」

 ソーテックの横浜工場は、横浜港内の保税区域にある。韓国から陸揚げされた“半完成品”に、ここで“仕上げ”のBTO作業が施される。その後、通関手続きを経て、ソーテック製パソコンとして出荷される。保税区域に工場を設置したのは、部品の輸送コスト削減と、通関の時間削減という2つのねらいがあった。

----トライジェムは現在、米国内で“emachines(イーマシンズ)”というブランド名で500ドルを切る価格設定の低価格パソコンを販売しています。ソーテックで同様の低価格モデルを販売する予定はありますか。

「現在、具体的な予定はありません。ただ、市場のニーズは低価格なものを求める方向へ確実にシフトしていると考えています。もし、国内でのニーズが高まれば、いつでも開発、生産に入ります」

「出荷が受注に追いつかない!」

----現在、月産でどれぐらいの出荷台数なのでしょうか。

「デスクトップでは上位機種の『PC STATION』シリーズと、エントリーモデルの『Micro PC STATION』シリーズの両方で月産1万~1万2000台です。出荷台数の比率は、上位機種3割、エントリー7割程度です」

「“9万9800円モデル”の発売以来、慢性的に受注に出荷が追いつかない状態が続いています。生産体制の強化をさらに進める予定です。'99年通算での目標出荷台数は、15万台です」

----ノートパソコンとデスクトップパソコンの出荷台数の比率は。

「1:9でデスクトップの方が圧倒的に多いです。完全にデスクトップが主力になりました」

----今後の製品開発戦略について教えてください。

「今後も9万9800円という価格にこだわっていきます。この価格で、その時点で可能な限りのスペックを詰めこんだマシンを提供したい。この価格帯をひとつのスタンダードとして確立できればと思います。発表以来、会う人すべてが“安いですね”と言います。そこで私は、安いんじゃない、よそが高いんです、といつも言うようにしています」

「また、詳細は言えませんが、4月にはノートパソコンの新製品を発表できると思います。これは“9万9800円モデル”と同じぐらいのインパクトを与えられる製品だと自信を持っています」

「デスクトップパソコンでも、市場のニーズにさえマッチすれば、さらに低価格なマシンを発売するつもりです。大手メーカーにはないフットワークを生かして、どんどん旋風を巻き起こしますよ」

Pentium IIIも低価格

 ソーテックは、2日にインテルが発表したPentium IIIを搭載した製品の広告に、こんなキャッチコピーを付けている。

--しまった。Pentium IIIプロセッサマシーンまで安くしてしまった。習慣とはおそろしい--

 この『Micro PC STATION 3500』、Pentium III-500MHz、メモリー64MB(SDRAM)、Ultra ATA33対応6.4GBHDD、最大32倍速CD-ROMドライブを搭載し、V.90対応56kbpsモデムを内蔵という構成で、Windows 98プレインストール。これに17インチCRTディスプレーが付属して、19万8000円。さすがに9万9800円とはいかなかったようだが、それでもかなりの低価格といえるだろう。好調な売れ行きだという。

 ちなみに、“9万9800円ショック”以来、ソーテックでは問い合わせ専用の回線を別に引いた。ランドマークタワーの電話回線がパンクするといったことは、もうないという。

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