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【岡部通信 特約】家電チェーンで売られる500ドルパソコン

1999年03月15日 00時00分更新

文● 在米ライター 岡部一明

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500ドルパソコンは文具店で売っている

 文具スーパー・チェーンのOffice Depoが今、“499ドル99セント”のコンピューターを売っています(約6万円)。メーカーはemachines社で、スペックはAMD-K6-2-333MHz、32MBのSDRAM、3.2GBのHDD、24倍速CD-ROMドライブ、56Kモデム。モニターを付けると599ドル98セント(約7万2000円)になりますが、なかなかの仕様ではないですか。

 一方、大型電器店チェーンのCircuit Cityはちょっと前、モニター、プリンター付きで599ドル99セントのemachines社製モデルを広告に出していました。スペックはCyrix M-II-300MHz(MMX 512KBキャッシュ)、32MBのSDRAM、2.1GBのHDD、24倍速CD-ROMドライブ、56Kモデムに加え、Proview 14インチ・モニターとLexmark Color Jetprinterが付きます。きのう行ったら、もう売り切れとのことで、1週間くらいしたらまた新しいのが入るので来いと言われました。

 emachines社のホームページを見ると、モニター付きで499ドル98セントというシステムもあるようです。

 私が2年前に買ったペンティアム機に比べ、性能は2~3倍で値段は2~3分の1。普通にワープロ、インターネット、ゲームに使うには十分過ぎる機械です(何しろ、2年前の機械でもまだこれといった不満はないのだから)。

 パソコンの値段はさらに下がるでしょう。最終的には(モニター抜きで)2~300ドルになり、その辺で安定すると私は予測しています。根拠はテレビ、ビデオの値段です。その辺の電器屋で3万円くらいで買ってくるのがパソコン。

 去年の8月くらい、初めて500ドルを切るコンピューターを広告で見ました。行ってみると、中国系のおじさんがやっている小さな店で、自分のところで組み立てたコンピューターを売っていました。それが今は、巨大な文具スーパーチェーンが500ドルコンピューターを売るようになった、という違いでしょうか。

「クラスで家にパソコンがないのはウチの息子だけ」

 パソコンの急速な低価格化の中で、アメリカのパソコン普及率(世帯当たり)は毎年7~8パーセントの勢いで伸び、昨年にはついに50パーセントを越えました(DataQuest社調査)。インターネットへの接続率はその半分の25パーセントになっています。

 息子の小学校のクラスメートの母親から、パソコン買いの相談を受けました。「クラスで家にパソコンがないのはウチの息子だけ」。だから買わないわけにはいかなくなったと焦っていました。正確に調べたことではありませんが、確かにそうなっている感じはあります。全米が50パーセントなら、シリコンバレーとマルチメディアガルチをひかえたサンフランシスコがそれくらいでおかしくありません。

編集部注:マルチメディアガルチとは、ハイテク企業が数多く集まっているサンフランシスコ市内の一角を指す言葉。場所はマーケット通りから数ブロック南東に下ったところで、元は倉庫街だった。家賃が安くしかも都心に近いことから、スタートしたばかりのベンチャー企業が集まっている。近年は再開発も進み、ZDNNなど有名企業が入居したオフィスビルも増えてきた。

 アメリカでは1~2年後に、3万円でパソコンを買ってきて、月5000円で1.5Mbpsの高速インターネットを使う(ADSL、ケーブルモデム)、という環境になるでしょう。

 一方、地元の新聞に「アメリカに進出している日系パソコン企業が、軒並み振るわないのはなぜか」という新聞記事が出ました(“Why Japanese Haven't Cracked U.S. PC Market”『San Francisco Chronicle』紙、'99年2月5日付け)。いろいろ原因を挙げた中に、“パソコンがコモディティー(日用商品)化した”という商品コンセプトの変化に追い付いていない、という指摘がありました。なるほど、と納得。そういえば、日本では今でも、さっそうとしたお姉さんやお兄さんが最新鋭マシンを使うという大変きれいなイメージ広告が多いです。アメリカでは、「これとこれとこれと合わせて(組み立てて)いくら、どうだ」といったバナナのたたき売り式のパソコン広告が多いです。

毎日4000台以上も売れる無名パソコン

 こっそりあなただけにいい取材ネタを教えます。パソコン低価格化の台風の目になっているeMachines社。日本のメディアは、「安い安い」という話は見落とす傾向がありますから、これはいい狙い所です。

 昨年8月シリコンバレーのフリーモントで設立されたeMachines社は、11月に低価格パソコンの販売を始め、最初の6週間で18万台を売り、12月にたちまち全米第6位の販売台数を記録しました。アップルのiMacに匹敵する販売ピッチですが、iMacほど過熱しては取り上げられていません(日本ではほとんど無視?)。

 しかし、見る人が見れば、これは「コンピューターの歴史でさらに大きな役割を果たし得る」(『Boston Globe』紙)とのことです。今までのほぼ半額という価格破壊、購入者の約半数がパソコン新規購入者という市場拡大効果など、パソコンの社会的意味に大きな変化を起こすと言われます。アップルのiMacの成功もパソコンの庶民化、日用品化の中で起こったことでしょう。「日用品ならかわいいアクセサリーがいいじゃん?」。これを、再び同社の気品高い孤高路線への復帰に結び付けると、元の木阿弥。

 eMachinesは、今年の第1四半期に30万台を売る予定で早くも黒字を計上する見込み。今年中に200万台のパソコンを売り、10億ドル(約1200億円)の収入を上げる計画とのことです。

 eMachines社は韓国系企業。パソコン本体は韓国のコンピューター会社、TriGem Computerの工場で組み立てられ、モニターは韓国の有力モニター会社KDS(韓国データ・システム)社から供給されています。韓国で閑呼鳥が鳴いていた工場がフル回転しはじめ、不況脱出効果も期待されています。

 eMachines社長のStephen Dukker(ステファン・ダッカー)氏はコンピューター大規模チェーンでの経験が長く、販売の神様(グールー)と言われた人。eMachines低価格機も大規模コンピューター・事務機器チェーン(Best Buy、Office Depo、Costco、Circuit City、Fry's Electronics、Micro Centerなど)を中心に販売されています。「ハンバーガーのようによく売れる」ので商品の回転がよく、また、大きな買物ではないせいか返品率も低く(通常なら10~12パーセントのところ、4~5パーセント留まり)、販売上さまざまなメリットが出ているそうです。

パソコン誌の評価はどうだ?

 最近の地元コンピューター誌『Computer Currents』が、低価格パソコンの比較特集をしました(『Computer Currents』誌、'99年2月9日号)。モニター、プリンター、ソフトその他一式そろったフルシステムの比較ですが、638ドルのeMachines機を、1198ドル、1048ドルのコンパックやヒューレット・パッカード(HP)の“低価格機”と比較しています。何だ、この雑誌はここまで大口広告主にゴマをするのか、と思いましたが、読んで誤解が解けました。

 「これは実は、まるで勝負(コンテスト)ではなかった」「eMachinesの『eTower 333c』の安さ、品質、機能、性能のコンビネーションは抜群」、「HPやコンパックの約半分の値段にすぎないにもかかわらず、同じような『箱から出してすぐ使える』快適さを提供し、さらにセットアップシート、読み易いマニュアル、色コード化されたポート、適合したモニターとCPUも完璧だ」などなど。何のことはない、eMachinesの一方的ベタぼめ記事でした。

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