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生活をデザインするTRON---“TRONSHOW'99”

1999年03月11日 00時00分更新

文● 報道局 伊藤咲子

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 (社)トロン協会が主催する“TRONSHOW'99”が10日に開幕した。今年はTRON Project開始15年にあたり、トロンプロジェクト国際シンポジウム実行委員長を勤める坂村健氏による15年の軌跡を振り返る記念講演や記念展示が行なわれた。このイベントは、東京の青山TEPIAを会場に12日まで開催される。

15年の軌跡

 TRON(トロン:The Real-time Operating system Nucleus)Projectは、'83年に提出された(社)日本電子工業振興協会(JEIDA)の国内のコンピューター開発ビジョンに関する報告書を受け、'84年に東京大学の坂村健氏らが中心となり発足した産学共同のプロジェクトである。このプロジェクトの目的は、プロセッサーを組み込んだ生活機器がネットワークで相互接続され協調して動作するシステム(HFDS:超機能分散システム)の実現にある。

 TRONSHOW'99会場の“トロンプロジェクトの15年”コーナーは、'82年に考えられた未来のコンピューター環境想像図から、セイコーインスツルメンツ(株)のPDA『BrainPad TiPO PLUS』など'98年に発表された製品までを網羅している。その分野は、TRON仕様のチップ、マシンから、HFDSシステムで制御された住宅までと幅広く、47の図版が展示されている。

壁の除き穴から過去のマシンを見る来場者
壁の除き穴から過去のマシンを見る来場者



 展示フロアーには、トロン協会をはじめ(株)アプリックスやパーソナルメディア(株)など9つの企業・団体がブースを構え、TRON仕様のOSやアプリケーションが紹介されていた。アプリックスは、JTRON仕様に準拠したOS『JBlend』を、パーソナルメディアは、PC/AT互換機で動作するμITRON3.0仕様のOS『I-right/V』とJavaOSを融合させた『J-right/V』を展示した。

 中でも来場者の注目を集めたのは、東京大学坂村研究室が展示する、BTRON上で動作するインターネットブラウザーや電子メールソフト、それに会議支援グループウェアの『SmartPoint』。この電子メールソフトは、WindowsやMacintoshプラットフォームのマシンにメールを出すことも可能。BTRON上で動作するインターネットツール群は、同研究室の最新の開発テーマの1つとして注目されている。また、TRONのユーザーグループである“トロン・ファン・フォーラム”は、ユーザーが考案した多機能可変住宅の模型を展示していた。多機能可変住宅とは、壁や床、天井といいった基本構造以外の構造物をすべて、日曜大工程度の労力で交換できるというものだ。

『JBlend』が移植されたCPUボード
『JBlend』が移植されたCPUボード



『J-right/V』が動作するマシン。ハードウェアの設定で、WindowsとJ-right/Vを切り替えて起動できる
『J-right/V』が動作するマシン。ハードウェアの設定で、WindowsとJ-right/Vを切り替えて起動できる



BTRON上で動作する電子メールソフト。アドレス帳に送信先の情報を記録・蓄積しする。そのアドレス帳からメールのサブジェクトやアドレスを“荷札仮身”として編集し、それをエディターで作成した本文に張りつければ送信される仕組み
BTRON上で動作する電子メールソフト。アドレス帳に送信先の情報を記録・蓄積しする。そのアドレス帳からメールのサブジェクトやアドレスを“荷札仮身”として編集し、それをエディターで作成した本文に張りつければ送信される仕組み



多機能可変住宅の模型。この模型の構造は、実際のサイズにも十分適応できる設計となっているという
多機能可変住宅の模型。この模型の構造は、実際のサイズにも十分適応できる設計となっているという



生活をデザインする

 開催初日の10日は、会場ホールで坂村健氏による講演が行なわれた。これは本日発行された『TRON DESIGN 1980~1999 by Ken Sakamura』(パーソナルメディア刊)で紹介している写真をスライドで紹介しながらの講演となった。スライドは150枚以上にもおよび、TRON Projectで開発された文房具、CPU、マシンなどが次々に紹介された。特に竹中工務店が制作した、TRONで風呂釜や照明、システムキッチンなどの生活機器を制御した住宅に、来場者の関心が集まった。この住宅はトイレの流水まで自動化されているという。

TRON Project国際シンポジウム実行委員長を勤める坂村健氏
TRON Project国際シンポジウム実行委員長を勤める坂村健氏



 坂村氏は、キーボードのキー配列や文字コードを例にとりあげ「コンピュータが生活に入ってくる時代になりましたが、そのアーキテクチャーはアメリカ産ばかりです。日本としてもコンピューターの発展に貢献すべきであるし、開発の基盤を持つべきでしょう」と強く語った。この考えは、15年前より変わっていないという。

 氏は、「'87年ころ32bitのマイクロプロセッサーを開発しており、東芝や日立など6社から製品が作られました。TRON仕様のチップ『GMICRO/500』が出たのは、最初にPentiumが出た時期と同じで、性能も同等でした。日本は独力でコンピューターのエンジンを作る力があったのです」

 現在、TRONは電話の交換機や通信衛星に組み込まれているが、PentiumプロセッサーがCPUのイニシアチブを取った理由として、氏はマーケティング戦略と価格に問題があったという。「モノがいいとか悪いとかではなく、どのようにして広めていくかが重要。技術開発戦略と同様にマーケティング戦略が必要です」と振り返った。

 「昔は、まずハードウェアやOSを作らなければならず、そちらに関心があったのですが、現在はミドルウェア、さらにはコンテンツに移行しつつあります。電子商取引やデジタルミュージアムといった、コンピューターの新しい分野において、どのような記述言語が最適なのかということを考えています」

 最後に氏は、「コンピューターは情報機器ですが、実生活との融合を図らなければなりません。“生活をデザインする”、“オープンアーキテクチャー”、これを昔から言い続けていますが、この2つがTRON Projectが目指すものです」と講演を締めくくった。

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