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【『共生する/進化するロボット』展】「バーチャルリアリティーは子供によくない」~レゴ研究所長のルンド氏が語る“ロボットと教育”

1999年02月01日 00時00分更新

文● 報道局 西川ゆずこ、佐藤和彦

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 (株)NTTインターコミュニケーション・センター(NTT ICC)が東京・初台の東京オペラシティーで3月22日まで開催中の“『共生する/進化するロボット』展”で、デンマークのAarhus(オーフス)大学インターメディア・レゴラボ所長のヘンリック・ハウトップ・ルンド(Henrik Hautop Lund)氏によって、“ロボットと教育”と題する講演が行なわれた。



 同氏が所属する研究所は、レゴブロックでロボットを作ることのできる『LEGO MINDSTORMS』を用いてロボット工学、自然科学の学習を推進している。これまでに同研究所では、約4000人余りの子供と『LEGO MINDSTORMS』のロボットを制作する機会を設けてきた。この経験を元に、同氏は、『LEGO MINDSTORMS』を用いた教育について語った。

「昨今、子供の遊びはコンピューターゲームなど、バーチャルな世界とインタラクトするものが多くなっています。しかし、これは実世界に関する知識のない大人が増えることを暗示しており、非常に危険なことであると思っています。物理的世界、実際に存在するものに触れて遊ぶことは、とても重要だと考えています。そういった意味でも、実際にものに触れて学習することのできるロボット教育は非常に効果があると考えています。

 コンピューターゲームは、子供に人気がありますし、面白い部分もあります。ですから、コンピューターゲーム、すなわちバーチャルな世界から、おもしろさや興味を引きつけるエッセンスを引き出して、現実世界に戻すような努力をしています。例えば、わたしたちは'70年代にヒットしたゲーム『パックマン』を、『LEGO MINDSTORMS』で再現しています。また、水のでる消防車、食べたレゴブロックの色によって、表情を変える人間ロボットを制作して、教育に用いています。楽しさというエッセンスを加えることによって、子供たちの注意や興味を引き出すように努力しています。

 これは学問への関心、興味にもつながっていくと思います。『LEGO MINDSTORMS』の制作過程を通して、日常生活にはあまり必要ないために敬遠されがちな数学、物理などにも興味を持ってもらいたいと思っています。例えば、摩擦の問題などは日常生活では認識しにくいことでしょうが、ロボットと遊ぶことによって自然に学ぶことができると思います。

 これまで、ロボットの研究は多額の研究費で1対のロボットを製作するのに時間をかけてきました。しかし、『LEGO MINDSTORMS』を用いればロボット製作が容易に行えます。あらゆる形態、目的のためのロボットを多数製作することが可能となります。、これはロボットの構造・形態を研究する上で、非常に意味のあることだと思います」と、同氏は語った。

●Lund氏にインタビュー

 シンポジウム終了後、ASCII24と(株)アスキーの各雑誌と共同でルンド氏にインタビューを行なった。




----レゴ研究所の活動内容を教えてください。


「デンマークのAarhus(オーフス)大学内に設置されている研究所で、運営費用はレゴ社とデンマーク政府が半分ずつ出し合っています。しかし、研究や運営に関しては、まったく独立しています。所長の私のほか、2人の講師がおり、学生も含めれば全体で35人います。『LEGO MINDSTORMS』を教育に役立てるための研究を行なっています」

----先程のシンポジウムの中で、「ゲームのようなバーチャルリアリティーで子供が遊ぶのはよくない」とおっしっゃていましたが、その真意は。

「これはあくまでも私の意見であって、レゴ社の意見ではありませんが・・、現代の子供たちは、バーチャルリアリティーの中に住んでいるような状態だ思います。1日中ゲームをしている子供は、現実に対する見方をおかしくしているのではないかと思います」

「バーチャルな世界での経験を現実の世界にあてはめるとギャップが生じてしまうことは多々あります。たとえば、学生にプログラムをかかせると、まず必要なことを抽象化してから、プログラムを書くのですが、たいていその抽象化の段階で間違いを犯しています。現実に必要なことを知らないために、現実にそくしたプログラムを書くことができないのです」

「バーチャルな世界の中だけで育った子供は、高いところから落ちたら痛いということを学ばずに、ゲームの中と同じように何十メートルもジャンプできると勘違いしてしまいます。ゲームの中の体験だけでなく、実際に肉体を動かして体験する必要があると思います。私は、ことさら悲観論を述べているわけではありません。ただ、教育問題を研究する学者として、問題提起をする必要があると考えています。子供たちは、バーチャルリアリティーの世界から戻ってきて、現実の世界で遊ぶようにしないと駄目だと思っています」

----「『LEGO MINDSTORMS』は、リアルな実態のある玩具ということで子供の教育の役に立つ」ともおっしゃっていました。しかし、もし朝から晩まで『LEGO MINDSTORMS』で遊んでいる子供がいたら、その子供に対して何と言いますか。

「『外に出て、人生を楽しめ』と言うでしょう。『LEGO MINDSTORMS』は、確かに子供の教育に役立つすぐれた玩具ですが、かといってどっぷりとはまるのも良いことではありません。何事もバランスをとることが必要です」

 このインタビューの詳細は、『週刊アスキー』、『月刊アスキー』、『月刊アスキー DOS/V ISSUE』の近日発売号においても、紹介されるので、そちらもあわせてご覧いただきたい。

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