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「ベルリンでは都市全体をバーチャル化」“デジタルアーカイブ・ビッグバン京都'98”

1998年12月14日 00時00分更新

文● 船木万里

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 “デジタルアーカイブ・ビッグバン京都'98”が8日より10日まで、国立京都国際会館で開催された。3日間を通して、延べ6500人が来場したという。最終日の10日は、“京都のデジタル新世紀”と題したセッションを実施。デジタルアーカイブが京都にもたらすものとは何か、また京都はどのように再生されて行くべきなのか、などについて議論を展開した。

ベルリンでは、都市全体をバーチャル化

 基調講演では、米トロント大学情報学部のデリック・デ・ケリコフ(Derrick de Kerckhove)教授が登壇。“デジタル京都…歴史文化都市の未来像”というテーマで講演した。

米トロント大学情報学部教デリック・デ・ケリコフ教授米トロント大学情報学部教デリック・デ・ケリコフ教授



 最初に、デジタルアーカイブ化を進めている都市、ベルリンの3Dデジタル映像を紹介した。「画面上で市内を自由に探索できる。例えばレストランに入ってメニューを眺められるなど、都市全体をバーチャル化するという構想だ。このように都市をデジタルデータベースとして再構築し、情報を世界に発信することにより、今後の商業の発展、伝統文化の活性化、文化教育の充実などが期待できる」とデリコフ氏は具体例を挙げながら語った。

デジタルバーチャル都市には、過去の映像も取り込み、時空を超えた検索を可能にするという試みがなされている
デジタルバーチャル都市には、過去の映像も取り込み、時空を超えた検索を可能にするという試みがなされている



 「文化が曲解される、などの反対意見もあるが、京都の伝統文化をグローバルに発信できるのは、京都市民自身である。デジタル化に伴うコストは、大きな見返りのある投資と考え、行政や地元企業などが協力するべきである」とデリコフ氏は説く。テレビのような一方的な情報供給ではなく、自らが情報を発信するということから考えても、現在は市民一人ひとりのデジタル化への意識向上が、最重要課題であるといえる。

 デジタルアーカイブ化に向けての対応として、デリコフ氏は「ケーブルシステムによる通信の低料金化実現や市民が利用できる公共施設の充実」などを挙げた。デジタル化はすべての芸術、文化をこれまで以上に保護し、促進させるという方向で進めていくべきだとの考えを示した。

デジタルコピーは、“保存”において信頼性が薄い

 米Imaging Solution社社長で、元米Corbis社長のダグ・ロワン(Doug Rowan)氏は、“デジタルアーカイブの産業的視点”をテーマに、商業利用におけるデジタルコンテンツの保護の問題についてプレゼンテーションをした。

米Imaging Solution社のダグ・ロワン氏
米Imaging Solution社のダグ・ロワン氏



 まず、自ら撮影した高台寺の360度パノラマ映像を紹介。米LivePicture社のソフトによって合成加工したものである。画面内で自由に寺の庭を歩き回れるなど、バーチャルリアリティーの世界を作成できる機能について説明した。また、米コルビス社の翻訳ソフトなど、今後インターネットでも利用が望まれる、デジタル分野での新しい可能性について紹介した。

 このように、デジタルコンテンツによって人々の文化への理解を深め、興味を引き出すことはできる。一方で、デジタルコピーというものは残念ながら“保存”における信頼性が薄いという。また、コンテンツの所有権、アクセス権など、これからクリアすべき問題が山積みされている。ロワン氏は「デジタルルールによって、利用回数や利用条件などアクセスを制限し、コンテンツの安全性を保証するシステム構築が今後の課題」と結んだ。

“デジタルアーカイブで京都は発展するか”

 京都大学の柏倉康夫教授をコーディネーターに、カリフォルニア大学バークレー校博物館リチャード・ラインハート(Richard Rinehart)情報学教授、ウペポ&マジ(株)一筆芳巳社長、京都市工業試験場産業工芸部の佐藤敬二部長、京都造形芸術大学メディア美学研究センター武邑光裕所長、高台寺副執事の寺前浄因氏、(株)しょうざんの松山靖史社長をパネリストに迎え、デジタルアーカイブの意義や目的についてディスカッションした。

シンポジウム風景
シンポジウム風景



 京都デジタルアーカイブの目的としては、京都の歴史や文化、伝統資産をデジタル化すること。この中には、伝統資産の次世代への継承、有効活用による新産業の創出、著作権など知的財産権を円滑に処理する環境の整備などが挙げられる。

 パネリストはラインハート教授以外、全員京都市民。各々が芸術家、宗教家、企業家などの立場から、デジタルアーカイブ構築についての意見を述べた。すべての伝統的な文化をデジタル化できるのか、知的所有権はどのように保護されるのかなどの問題についても意見交換された。ラインハート教授は、美術館や博物館の国際組織であるミュージアムコンピューターネットワーク会長としての経験から、デジタル化による文化の保護や商業発展の可能性などについて具体例を挙げながら語った。

 共通の見解として、1000年の歴史に育まれた京都の持つ伝統的資産をデジタル化して全世界に開示することで、情報の価値を共有し再発見していきたいという姿勢を各人が示した。伝統文化を守るだけではなく、デジタルという道具を使って“京都”という都市が自らを再確認し、新しい活力を生み出す機会にしたい、という期待が語られた。

 このセッションの模様は、29日16時よりNHK衛星第一放送で放映される予定である。

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