ユーザービリティーテストが注目されている
テクニカルコミュニケーター協会が主催する技術セミナーが東京芸術劇場で開催された。“マニュアルのユーザービリティテスト”というテーマで、(株)ヒューマンインターフェイス代表取締役の小畑貢氏が講演した。ユーザービリティーテストとは、製品が発売され、購入したユーザーが実際に製品を使うときの状況を、(開発の過程で)テスト室の中で引き起こし、開発者が観察するものである。
何かわからないことが起きた時にマニュアルを見ることで解決できるかを発売前に観察する。発売後のクレームや問い合わせの量を少なくするための有効な手段として近年注目を集めている。そのためには、マニュアル評価で何が知りたいのかという目標をはっきりさせることが重要である。
(株)ヒューマンインターフェイス代表取締役の小畑貢氏 |
テストには、被験者、観察者、テストの状況をビデオカメラに記録するカメラマン、そしてテストの計画や準備、進行をする人が必要である。被験者には、ターゲットユーザーと同じ属性を備え、実験に直接関わることについてまったく知らない人を選ぶ。その際、被験者が実験に関する予備知識を予習してこないように配慮しなければならない。観察者には製品の企画者や開発者、マニュアル制作者などをあてる。テストの場所は、被験者がリラックスできる所で、小会議室程度の広さが望ましいという。
誘導行為は禁止
テストでは、被験者をリラックスさせ、テストの趣旨をしっかり伝えること、被験者の感じたままのことを正直に話させることが大切である。また、被験者が主体的にタスク(課題)に取り組むことができるように配慮し、また作業操作の指示をするといった誘導行為を排除しなければならない。テストでは、用語の意味がわからなくて行き詰まったり、文章の表現としては理解できても、操作の進め方がわからなくて停滞したりする例が非常に多い。
マニュアルを評価するテストには、利点もあるが、欠点もある。マニュアルを調べて読んだりする作業が入るので時間が掛かる、読む作業のため発話が少ない、見ているのか読んでいるのかわからないといった点である。
小畑氏は、長年ユーザービリティーテストを実地してきた。使い手の世界を想像できる作り手が必要であること、ユーザーは製品の知識ではなく操作を知りたがっているということ、セットアップがうまくできないのはマニュアルの責任であることなどを感じるという。
目的は粗探しではない
また、同テストの企画者やマニュアルのライターは、以下のようなことに留意すべきであると語った。まず同テストは、少々の無理をして発売後のユーザーの姿を予測するので、問題として明らかにわかることと、問題の可能性はあるがそうでないかもしれないことを分けて認識すること。次に、自分の製品の粗探しをすると考えるのではなく、自分のマニュアルの考え方がユーザーに合っている個所とそうでない個所をはっきりさせること。ただし、個々の誤りを探すためだけではなく、次のマニュアルに反映すべき考え方を見出すツールと捉える必要がある。なぜなら、製品の粗探しをするのでは目標設定がはっきりせず、なかなか結果を生かしにくい状況にあるからである。
最後に、自分の仮説の有効性を他の人に納得させる武器と考え、制作作過程で自分の仮説を確かめるツールと捉えるべきことだと述べた。
マニュアルは、製品を使う際のユーザーの関心事項に合わせて、製品の思想をわかりやすく伝えるツールと考えるべきだという。そして、マニュアルは人と製品を繋ぐものであるから、人側に寄ったマニュアルの研究が必要であると強調した。