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【米国ベンチャーレポートVol.2】テレビにCG技術を融合し、スポーツ中継をショーアップする米Shoreline Studios社

1998年12月08日 00時00分更新

文● 報道局 佐藤和彦

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 米カリフォルニア州マウンテン・ビューにある米Shoreline Studios(ショーライン・スタジオズ)社は、既存のテレビ放送にCGを融合することによって、アイスホッケーやアメリカンフットボールなどのスポーツ中継をショーアップする技術を有することで、知られている。同社は、米シリコン・グラフィックス社を経て独立したTim Heidman(ティム・ハイドマン)同社CEOが、'95年に設立した会社である。

 同社が開発したシステムの中でも、もっとも代表的なものが、米FOX TVの依頼によって製作した“FoxTrax(フォックス・トラックス)”である。これは、スポーツ中継を専門に行なう米FOX Sportsが、アイスホッケーを生中継する際に用いている技術である。アイスホッケーの試合では、黒くて小さなパックが、ものすごいスピードでリンク上を行き来するが、この黒いパックをCGによって、あたかも発光しているかのように着色し見やすく、かつゲームの迫力をアップする、というシステムである。

 

リンク上のパックは、テレビ画面上では紫色に発光しているかのように表示される(左)。シュートなどにより、スピードが上がるとパックは赤に色が変わり、軌跡が彗星の尾のように示される(右)リンク上のパックは、テレビ画面上では紫色に発光しているかのように表示される(左)。シュートなどにより、スピードが上がるとパックは赤に色が変わり、軌跡が彗星の尾のように示される(右)



 リンク上のパックは、通常は紫色に発光しているかのように表示されるが、パックのスピードが上がると、赤に色が変わる。米FOX TVでは、すでに'96年からアイスホッケーの中継に“FoxTrax”を使用しているという。この“FoxTrax”開発の経緯やシステムの仕組み、そして、現在開発中のシステムなどについて、同社の創設者でありCEOのTim Heidman氏に伺った。

Tejbir Sidhu(テジブ・シドゥ)社長(左)は'98年1月に社長として招かれた。写真右が、創設者でありCEOのTim Heidman氏
Tejbir Sidhu(テジブ・シドゥ)社長(左)は'98年1月に社長として招かれた。写真右が、創設者でありCEOのTim Heidman氏



●プロ野球中継への応用も検討している

----“FoxTrax”は、そもそもどのような経緯で開発されたのでしょうか。

Heidman「もともと当社は、テレビ中継用に、CGを使ったシステムを構築するのが業務の中心でした。すでに発売しているものに、プロ野球中継で得点などを表示する『Rocket Boards』、アメフトの戦略分析を行なう『Rocket 3D』などがあります」

 

『Rocket Boards』。一塁ランナーがアウトになると粉々に砕け散る(左)。攻守交代をアニメーションで表示(右) 『Rocket Boards』。一塁ランナーがアウトになると粉々に砕け散る(左)。攻守交代をアニメーションで表示(右)



『Rocket 3D』。アメフトの戦略分析を行なうシステムで、アメフトの中継にはかかせないものとなっている『Rocket 3D』。アメフトの戦略分析を行なうシステムで、アメフトの中継にはかかせないものとなっている



「また、ヨットレースのアメリカズカップに参加するヨットの軌跡を表示するシステムや、テレビの選挙速報番組で州ごとの得票数を示す地図の表示システムなども手がけてきました。当社の主要な顧客は、3大ネットワークのNBCやCBSのほか、スポーツや天気予報の専門局です。こうした実績がある中で、米FOX Sportsから、アイスホッケーをショーアップするシステムを作ってほしいと頼まれて作ったものが“FoxTrax”なのです」

----アイスホッケーの黒いパックを、リアルタイムでCG処理していると伺っているのですが、どのような仕組みで処理をしているのでしょうか。

Heidman「アイスホッケーのパックは黒いので、これをどう捕捉するかが課題だったのですが、結局、パックの中に、人の目には見えない光線を発する仕組みを内蔵することで解決しました。この光線を、アイスホッケーのリンクの天井に仕掛けたカメラでとらえて、パックの位置を割り出して、紫や赤などの色をテレビ放送用のデータに重ねて放送します」

左はシステムを説明するための模型。四方八方に光線を発する
左はシステムを説明するための模型。四方八方に光線を発する



----光線を捕捉するカメラは、テレビカメラとは別のものなのでしょうか。

Heidman「そうです。テレビカメラとは別に、パックの光線をとらえるためのカメラを12台設置します。カメラの位置や配列については、特に決まったポジションはありません。パックの光線をキャッチするカメラと放送用のテレビカメラの位置は、ホッケー会場の天井の状況に合わせて、その都度決めています。位置を測定する訳ですから、最低でも2台、できれば3台のカメラがパックの光線をキャッチする必要があります。こうして、ミリ単位まで割り出したパックの位置をもとに、中継用のデータの上にCGを重ねて、生放送するのです」

「また、パックのスピードに応じて着色する色を赤に変更するのですが、これもパックの位置のデータから計算して行なっています。実際の中継では、選手や壁にパックが隠れていたり、キーパーがパックを手に持っているような状態でも、パックが存在する位置にCGによる発光処理が施されます。このため、どんなに激しい試合でも視聴者は、パックを見失うことがありません」

----日本では、野球が非常に人気があるのですが、この技術は野球にも応用できるのでしょうか。

Heidman「ええ、できます。ただし、“FoxTrax”については、パテントは米FOX Sportsが保有しているため、使用料を払う必要がありますが・・。アイスホッケーのパックは、黒くて小さくカメラで捕捉するのが難しいので、パックに光線を発するシステムを内蔵させる必要がありました。しかし、野球のボールはは、白いので何も細工をしなくても、位置を捕捉するのは簡単です」

「現在、メジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツが新しい球場を建設していますが、そこに、これと同じようなシステムを導入する計画が進んでいます。ジャイアンツの担当者と、『ホームランはどこまで飛ぶのだろうか』といった実務的な話を進めている段階です」

----日本の放送局が、ビジネスのために米Shoreline Studios社に接触したことはありますか。

Heidman「天気予報と選挙に関しては、以前、ビジネスの話をした記憶があります。しかし、“FoxTrax”や、その応用技術に関しては、話をしたことはありません。日本のプロ野球中継でも、十分効果を発揮すると思っているのですが・・」

----現在、開発中のシステムはありますか。

Heidman「インターネットを利用して、F1などのカーレースを中継するシステムを開発しています。テレビ中継では、トップを走っている車を中心に中継しますが、特定のレーサーやチームに関心がある人には、物足りない部分があると思います。当社が現在開発しているシステムは、そうした不満を解消できるものだと思います。つまり、インターネットによる中継で、好きなレーサーを選択して、そのレーサーを中心にしたF1中継をみることが可能となります」

「技術的には、VRML(Virtual Reality Modeling Language)とJavaを使用しています。地形や車体などの形の決まっているデータをあらかじめダウンロードしておき、変化のあった部分を随時更新する、という方法です。技術的には自信を持っています。ただ、従来の放送とは異なるものなので、放送局以外でこの中継を行なうパートナーを探している段階です」

 ここで、このシステムのデモを見ることができた。シリコンバレーをレース場に見立たもので、地図の精密さはそれほど高くなく、道路と地形が線で示されている程度のものだが、それでもレース全体や、各車ごとにみたレースの状況がスムーズに表示されている。使用したパソコンは、CPUにMMX Pentium-150MHzを搭載したノートパソコンだが、レース状況の表示はかなりスムーズに行なわれている。

 また、各車のコックピット内も表示可能で、スピード、エンジンの回転数、レーサーの心拍数も表示できるという。Heidman氏は、「F1ならば、各チームがレース中に蓄積している膨大なデータがあるので、その一部を活用するだけで、臨場感のある中継が可能になる」と語っている。

----最後に、米Shoreline Studios社の今後についてお聞かせください。

Heidman「現在、社員は6人です。主要顧客は、大手の放送局が中心となっており、会社の規模をこれ以上大きくするつもりはありません。株式を公開する予定もありません。むしろ、当社のシステムや技術を実現するパートナー企業を探しています。アメリカだけでなく、日本のメーカーや放送局とも提携していきたい、と思っています」

Tim Heidman氏は、CGを使用した映画の特殊効果のパイオニア的な存在という。米シリコン・グラフィックス社に7年間在籍し、『ジュラシック・パーク』の製作にも関わったことがある。写真の背景となっている、米シリコン・グラフィックス社の恐竜を描いたポスターの左下の人物は、同氏である
Tim Heidman氏は、CGを使用した映画の特殊効果のパイオニア的な存在という。米シリコン・グラフィックス社に7年間在籍し、『ジュラシック・パーク』の製作にも関わったことがある。写真の背景となっている、米シリコン・グラフィックス社の恐竜を描いたポスターの左下の人物は、同氏である



(現地時間11月23日、米カリフォルニア州Mountain View,Shoreline Blvd.の本社にて)

  • 米Shoreline Studios社
  • 取材協力:Othmar J. Meier米Leadership Logic社社長問い合わせ先:TEL.+1-650-638-7555

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