このページの本文へ

デジタルパブリッシングの観点から見た“COMDEX/Fall'98”と米国流通業

1998年12月02日 00時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷


 デジタルパブリッシング、デジタル技術を使った“マーケティングコミュニケーション”に、長く取り組んでいる伊藤博氏に、その観点から見た“COMDEX/Fall'98”について寄稿していただいた。伊藤氏は、印刷会社であるコーヨー21で、顧客データベースや商品マスターデータベースと、紙の販促物やインターネットによる販促メール、販促ページとを組み合わせるといった事業を手掛けてきた。発注元である企業に対し、統合的なマーケティングソリューションを提供するのである。また、同様のテーマを追求する研究会、スユアデジタルパブリッシング研究会を主宰している。

Windows DTPが見当たらない

COMDEXの開催会場、ラスベガスのコンベンションセンター
COMDEXの開催会場、ラスベガスのコンベンションセンター



 “COMDEX/Fall'98”についての速報は、このASCII24などで既に伝えられている。紙の専門誌には詳報も掲載され始めるころである。個々の商品に関する情報はそれらを御覧いただきたい。私(伊藤)の興味は“マーケティングコミュニケーション”にあるので、それを切り口にしてリポートしたい。

マイクロソフトのどでかいブースが目立つ
マイクロソフトのどでかいブースが目立つ



 今回のCOMDEXでは、場外での話題に事欠かなかった。IBMやNetscapeが、その効果に疑問を投げ掛けて参加を見合わせ、多くのコマが埋まらずに残っているかもしれないといった話である。マイクロソフトと周辺機器メーカーばかりが目立っていたことは否めないが、実は、世界中から二十数万の人を集めて、イベントとしては大盛況だった。インターネットのホームページブラウジングコーナーに黒山の人だかりができていたところをみると、まだしばらくはこうした展示会も必要とされているようである。

 実は、アップルコンピュータやアドビ、クォーク社も参加していない。私のようなデジタルパブリッシング研究会の人間が何を見に行ったのかということになる。“マーケティングコミュニケーション”などと大ぶろしきを広げてばかりもいられない。この秋、日本におけるこの種の展示会では、Windows DTPやクロスメディア関連が大きく取り上げられた。このため、あるいはと期待もしたのだが、予想通り、それらしいものはほとんど見当たらなかった。企業内の文書作成にただのワープロソフトを持ち出して、Windows DTPなどと突然呼び出すようなことは、ここでは通用しないのだろう。

知識の源泉、ギリシャとナレッジマネジメント

 パブリッシングに近いところでは、ゼロックスが『ドキュカラー』などを展示し、プレゼンテーションをギリシャ演劇仕立てで見せていた。オンデマンドプリンティングとネットワークにより、文書情報を蓄積、共有し、さらにナレッジマネジメントに活用するというものである。ゼロックスに限らず米国流のプレゼンテーションは実に巧みである。セクシーなユニフォームを身に付け、ニコニコ笑っているだけのコンパニオンは例外的にしか見られなかった。

 我が国でもそろそろオチャラカシに予算を使うのは止めて、情報を分かりやすく的確に伝えるために使うべきだと感じた。システムが理解できない広告代理店まかせではだめだ。

 日本メーカーは相変わらずの横並び出展で目新しさがない。それでもソニーブースでは、スペースは小さいが、『VAIO』やデジタルカメラなどに人だかりがしていた。カシオでは、WindowsCEのカシオペアシリーズに人気が集まっていた。余談だが日本のビジネスマンがザウルスなど電子手帳を持っている以上に、米国でパームトップの普及度が高いのに驚いた。ビジネスマンもビジネスウーマンも、携帯電話以上に持っている。利用内容は、スケジュール管理とメールとメモ程度だということだから、WindowsCEマシンまでは要らないという人も多かったが・・・。

 そんなこんなでメジャー中心のコンベンションセンター(COMDEXのメーン会場)は、実はあまり面白くなかった。ちょっと驚いたのはシティーバンクがパソコンを並べて出展していたことである。何のことはない、オンラインサインアップによるインターネットバンキングサービスの会員募集だったのだが、日本の銀行もコンピュータの展示会に出展するようにならないと、横並びで目指しているリテール部門も危ない。外資系の柔軟な攻撃に顧客を盗られそうな気がした。

マルチメディアキオスクが目立つ

 一方、分散した会場の1つ、サンズエクスポスセンターには、活気があふれていた。非常に多くのベンチャーやスモールビジネス、台湾や韓国などアジア系、フランスなどヨーロッパ系の企業が出展しており、見るべきものが多い。ハード中心ではあるが、特に台湾企業の健闘が目立っていた。

 

マルチメディアキオスクおよびPOS(左)とPOSマルチメディアキオスクおよびPOS(左)とPOS



 私のテーマでいうと、インターネットやエレクトロニックコマース関連のハードやソフト、POS端末やマルチメディアキオスクなどが目に付いた。メジャーが出展していない分、多くの中小ベンチャー企業の製品を見ることができた。これらの企業の製品は、概して単純な基本機能に限定して、コストの安さを強調している。評価できる姿勢である。実際、価格を問うと、日本でのメジャーなメーカーの同等製品の価格に対して60パーセントから20パーセント程度の信じられない答えが返ってきた。システムで考えなければならないから、直ぐに使えるのか、本当に安いのかは断言できないのだが。

マルチメディアキオスクのいろいろ。右はATM(現金自動支払機)付きマルチメディアキオスクのいろいろ。右はATM(現金自動支払機)付き



 マルチメディアキオスクは、米国では空港や道端など公共の場所や、ショッピングセンター、スーパーマーケットの中など、どこにでもある。日本の銀行のATMなおに比べるとスマートだ。しかも画面が楽しい。本来の利用がされていないときでも、ビデオやコマーシャルが流れていたりする。PCのOSとウェブ環境とが、低コストでタイムリーなコンテンツの製作、配信を可能にしているのだろう。POS端末も含めて、これらの多くが、Windows95/98やWindowsNTをOSとしてネットワークに繋がるオープン環境に対応している。価格が安く、アプリケーションも作りやすいため、普及しやすそうである。

大手スーパーマッケットのVONS
大手スーパーマッケットのVONS



 米国の小売業では、これらを利用したインストアバンキングが普通になっている。前述のようにインターネットバンキングも普及し始めている。生活者にとっては実に便利であり、手数料も安い。ローソンが三和銀行と組んで始めたキャッシングサービスもコンビニエンスストアにはいいだろう。しかし、大型の小売店ではやはり、キャッシングだけでなく銀行の営業店並みのサービスが受けられる、インストアバンキングの方が便利である。

VONS内部のインストアバンクとしてカリフォルニア地場の銀行、WELLS FARGOが出店していた
VONS内部のインストアバンクとしてカリフォルニア地場の銀行、WELLS FARGOが出店していた



顧客識別マーケティングへの急速な転換

 また、小売業の現場では、マスマーケティングから顧客識別マーケティングへの急速に転換がなされている。顧客識別マーケティングは、顧客カードなどにより顧客を特定し、その来店頻度や購買金額に応じて、差別的に顧客に還元することによって、顧客の固定化を図るマーケティング手法である。その劇的な変革の様子は、FSP(フリークエントショッパーズプログラム)として我が国にも紹介されている。ロイヤルカスタマーマーケティングとも呼ばれる。大手チェーンストアが育っている業態の多くで、取り入れられている。特に、スーパーマーケット、ディスカウンター、カテゴリーキラー、サービス業などで盛んである。

アーケード天井の210万個数の電球に映し出される映像と208個のスピーカーの音響によるショー。数十台のコンピューターで制御される。顧客識別マーケティングが徹底すれば、選ばれた顧客だけを対象として、そのとき店内にいる顧客に配慮したアトラクションを見せるようになるかもしれないアーケード天井の210万個数の電球に映し出される映像と208個のスピーカーの音響によるショー。数十台のコンピューターで制御される。顧客識別マーケティングが徹底すれば、選ばれた顧客だけを対象として、そのとき店内にいる顧客に配慮したアトラクションを見せるようになるかもしれない



 顧客識別マーケティングでは、顧客とのコミュニケーションの方法も当然、ワン・トゥー・ワンに近いものに変わらざるを得ない。究極の形はもちろん、インターネットやDigital CATVを通じたものになるわけである。しかし、現時点で現実性のあるマーケティングを考えれば、個別クーポンやダイレクトメールが中核的なメディアとなろう。システム面でみると、オープン環境のPOSシステムのバックエンドに、PCサーバーを追加するだけの簡単なものが主流である。このPCサーバーに、顧客ごとのポイントを管理するデータベースを搭載する。

高級ショッピングモールのフォーラム・ショップス。人工の空が刻々と変化する。空模様を操作して購買行動を左右する時代が来るのか
高級ショッピングモールのフォーラム・ショップス。人工の空が刻々と変化する。空模様を操作して購買行動を左右する時代が来るのか



 我が国においても、小売業の置かれた現状を考えれば、FSP採用が必然的流れである。FSPは、POSシステムの2000年対応が終わる来年から、オープン化とともに導入されていくに違いない。

次世代カーナビ。特定の車に乗るのは普通、所有者とその家族と友人に限られているから、カーナビを表示装置としたワン・トゥー・ワン・マーケティングは有効な手法
次世代カーナビ。特定の車に乗るのは普通、所有者とその家族と友人に限られているから、カーナビを表示装置としたワン・トゥー・ワン・マーケティングは有効な手法



 最後にいつも思うことだが、米国人はコンピューターの使い方が実にうまい。ゲームソフトを除けば、我々の頭は、コンピューターを電子計算機としてしか捉えられないのではないか。せめて中国人のように“電脳”と言えるように活用したいものだ。日本では、システム系の展示会でもいまだにブースごとに名刺を求められる。しかもその名刺が活用可能なデータベースにはなっていない例が多い。一般企業はいうに及ばず、システム会社でもウェブやEメールがうまく使われていない。こういう状況が続くかぎり、見直し気運が高まっても、日本人の“COMDEX詣で”は終わらないだろう。ばかばかしくも勉強になった1週間ではあった。

スユアデジタルパブリッシング研究会
 コーヨー21 伊藤 博》

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン