このページの本文へ

【INTERVIEW】アジアよりも日本の危機をどうするか--アジアネットワーク研究所 会津泉氏

1998年12月01日 00時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 11月19日、神戸商工会議所で開催された国際シンポジウム“インフォテック'98”の講師として、アジアネットワーク研究所の会津泉氏が神戸を訪れていた。同氏に、最近の活動について、また講演のテーマでもあるアジアのサイバー事情について話を伺った。会津氏は世界中を飛び回る生活を続けており、この日もボストンから直行で神戸に駆けつけたという。

アジアネットワーク研究所 会津泉氏
アジアネットワーク研究所 会津泉氏



「アジアの不況より日本の脱力が問題」

----最近の活動についてお聞かせください

「今、メインといえるのは“APIA(Asia&Pacific Internet Association)”への参加でしょう。主な活動内容は、アジアでのドメインネーム問題についての取り組みです。オープンエコノミーがアジア経済全体を牽引している状態。それに伴なってインターネットの伸び率も急上昇しており、ドメイン不足などの問題も表面化しつつある。そうした問題にいち早く取り組むのが“APIA”の役割です」

----アジアにおける、日本の位置付けは

「アジアが不況といわれる中でも、特に台湾、中国は元気である。一方、日本の落ち込みはひどく、アメリカの企業家たちも日本の状況をひどく気にしています。アジアからは“日本のパイオニア精神はどこへいったのか”、“はたしてアジアの一員なのか?”といった声も聞こえている。いずれにしても、期待に対して実績が上がらないという状況は、放置できません。アジアはもちろん世界経済に対する影響も懸念されており、早急な対策が必要です」

「マレーシアではリストラしてもシステムは導入」

----日本では、インターネットもシステム導入も伸び悩んでいるます。隣国の取り組みはどうなっていますか。

「マレーシアの場合、リストラはしてもシステムは導入しています。11月に誕生したマルチメディア省では、放送、通信、インターネットを統合している。こうした分野がばらばらなのは日本だけ。マレーシアではサイバー法や電子政府法なども整備されつつあります」

----マレーシアの具体的な取り組みは。

「マレーシアの国家プロジェクトである“MSC(マルチメディア・スーパー・コリドー)”には、世界から180社の企業が参加しています。マレーシアには欧米からの投資が集まっています。一方、言語の問題もあるが、参加認定企業のうち、日本企業はわずか3パーセント。空港も7月には2本目の4000メートル級の滑走路を整備し、合計5本の滑走路を整備する予定です。こうした投資によって21世紀には先進国入りを狙っている、それがマレーシアという国です」

「オンライン入札から次世代インターネットへ」

----急速に近代化が進んでいるシンガポールの状況はどうか。

「確かにシンガポールでも、サイバービジネスに対する環境が整いつつあります。国家規模での取り組みは世界唯一で、すでに入札などもオンラインで実施されています。とはいえ、ATMにケーブルモデムというインフラは伸び悩んでおり、シンガレン(singAREN=Singapore Advanced Research and Education Network、次世代インターネット高度研究教育ネットワーク)のような、次世代に向けたインターネットの開発を進めています。こちらには日本の郵政省が実験、研究開発で協力をしているようです」

APIAのパンフレット
APIAのパンフレット



----インターネットに対する意識は。

「マレーシアに話を戻せば、アンワル副首相の解任劇の影響で、9月中インターネットのトラフィックが20パーセントも増加しました。そうしたインターネットの成長に対し、ネットでデマが流されているといいがかりをつけられ、ネットワークの監視が指示されました。そのため、かえってネットの信頼性が高まり、情報は朝にネットでチェックせよ、といった声が広まった」

「予測困難な事故にはコミュニティーの結束で対処」

----アジアの今後の可能性は。

「欧米での“Look East”の波に乗ることで高まっていくでしょう。特に若い世代は、留学体験を積み、ベンチャーで成功し、これまでの経済モデル国であった日本を越えようとしています。また、いつまでもアメリカをお手本としている日本と異なり、独自の道を築きつつある。ベンチャーの土壌が未だにできないといった問題をはじめ、足踏み度が最も高いのが日本です。2000年問題にしても、日本の対応は低く、アメリカの指示でやっと重い腰を上げた状態です」

----2000年問題をどう考えますか。

「来年は必ず世界的規模の問題になっていくはずです。しかし、予測不可能な部分があまりにも大きく、技術面だけでこの災難に対応することはあまりにも難しい。私自身、こうした問題は技術面よりも、むしろ神戸の震災時のようなコミュニティー単位での対応が重要だと考えています。たとえば、システムの不都合でインフラに問題がおきた場合も、コミュニティー同士のつながりがあれば状況を補完できる。ここで神戸の負の遺産が生かされていくともいえます」

「いずれにしても、日本はもっと自己認識を高め、世界を見つめた政治経済を築くことが必要だと思います」

----今後の予定は。

「現在住んでいるマレーシアについての研究ももっと進めていきたいのだが、なかなか時間がない状態。アジア全体への興味はますます高まっているので、これからはもっといろいろと研究を進めていけるでしょう」

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン