新100校プロジェクトは、財団法人コンピュータ開発センター(CEC)内の1プロジェクトである。前の100校プロジェクトは、平成6年度から8年度まで、ネットワーク利用環境を提供する事業として実施された。新100校プロジェクトでは、その成果と課題を踏まえて、全国小学校、中学校、高等学校などとインターネット上で先進的なネットワークの教育利用に関する実証研究を行なっている。
活動内容として、海外の教育関連機関と連携し学校間で情報交換すること、ネットワークを利用した国際交流を通じて国際理解や語学力を向上させること、国際交流を目的として“国際化”の企画することなどが挙げられる。
2002年に高校の新教科『情報』が登場
11月18日、新100校プロジェクト東海・北陸地区活用研究会が愛知県女性総合センター(ウィルあいち)で開かれた。はじめに、“インターネットの学習方法”というテーマで、東京工業大学大学理工学研究科長清水教授が基調講演を行なった。
東京工業大学大学理工学研究科長清水教授 |
2002年に高等学校普通教科となる『情報』について「高等学校におけるインターネット活用に関する教育はインターネットで得た情報をどのように活用していくかということに関する教育、いわゆる情報教育と、コンピューター、インターネットを活用して行う効果的な既存教科の学習方法の追求、ということの2本建てでいく」と語った。また、清水教授の研究室では、ホームページを小学校のある学年までに学習した漢字以外の漢字はひらがなに変換する「漢字かな変換サーバー」の開発も行っていると語った。
続いて事例発表が行なわれた。
アジア各地と連携
名古屋市立西陵商業高等学校影戸教諭、三重県四日市商業高等学校清水豊教諭は、インターネット電話を使った通信を交え、アジアセッションと題して事例発表した。事例としてとりあげたプロジェクトは、もともと、'95年に大学の組織の協力を経てネパールの病院をサポートする目的で多数のコンピュータを贈ったことからを始まった。その際、現地の学校と日本の学校との交流をなんとかして深めるためのツールとしてインターネットを使いたいとパソコンを両国の教室に入れた。それと同様の方法で続いてフィリピンの教室、インドネシアの教室にもパソコンを導入した。
今年度の活動として“京田辺市における交流合宿”を7月に実施した。
廃材パソコンと手作りネット
滋賀県大津市平野小学校の石原教諭は、“平野小学校のインターネット活用”と題した実践発表を行なった。平野小学校では18台のパソコンとサーバーで情報教育を実施している。「パソコンは廃材置場から拾ってきたものを修理して使っているし、LANケーブルも先生自身が引っ張っている」という本当の手作り校内LANである。LANケーブルは階と階との間の校舎の壁面を窓から窓へ這わせてある。
滋賀県大津市平野小学校の石原教諭 |
『みーつけた!』
生徒はおもに地域学習にホームページを使うこと、イントラネット内の教材を利用して利用することでインターネットを学習に取り入れている。また、キーボードローマ字入力練習用ソフト『みーつけた!』を小学校2年生から使用している。ローマ字の入力スキルを身に付けるという実験的学習である。
ローマ字を学習する小学校4年生ではなくてなぜ2年生なのかという質問には次のように答える。「小学校年生ではひらがなを教える。それではその次の学年である小学校2年生でキーボード入力を教えてもおかしくないのではないか」----。
“みんなでつくる教材データベース”
岐阜大学教育学部付属カリキュラム開発研究センターの堀教諭は、“地域でつくる教材データベースの活用”について事例発表した。これによると岐阜県ではインターネットの学校接続率が100パーセントとなった'97年度から現場の教員向け研修である“インターネット通信講座”をインターネット上で発足させた。
続いて'98年からは“子供が調べる環境ウォッチングプロジェクト”、“みんなでつくる教材データベース”を発足させた。“みんなでつくる教材データベース”は、現場の先生の持っている情報を集め、ウェブ上で公開して、先生同士での情報の共有をはかるというもの。これらは従来のトップダウン型(教育委員会などがつくる)に対して“ボトムアップ型の情報提供”と呼べると同氏は語る。
岐阜大学教育学部付属カリキュラム開発研究センターの堀教諭 |
敵は防火壁
三重県立菰野高等学校の浦田教諭は、“本校におけるネットワーク構築と活用について”の事例発表をした。同校ではproxyサーバー、ファイルサーバー、メールサーバー、ウェブサーバー、DNSサーバーを現在構築している。同校は新100校には含まれていないが、やることは積極的というか勇猛果敢。「自前ケーブル、PC-LINUXによるサーバー構築、ドメイン取得に始まってルーターまで全部で30万円でやりましょうというポリシーで校内にネットワークを構築した」と語り、その秘訣の一担を披露した。LANケーブルを通すために「他の電気工事のために来校していた業者に頼み込んで防火壁を突貫した」。「校内LANの敵は防火壁」と笑いを誘う。LANを外からの攻撃から守るのがファイヤーウォール(防火壁)だが、物理世界の防火壁は逆に作用した。
ここまでしてネットを導入している同校でも、「女子高生の間では“メール”という言葉は携帯電話やPHSで交換するメールのことを指すのだ」とも。
三重県立菰野高等学校の浦田教諭 |
学校向けプロバイダーが活躍
愛知県教育センターの水井研究指導主事は、自身のセンター『エースネット』を「学校向けのプロバイダーであると考えてもらっていい」と話し始めた。「一般のプロバイダーとは異なるサービスとしてはフィルタリングくらいのもの」と語った。現在3400名の生徒、教員に対してメールアカウントを発行し、OCN接続(INS接続の学校もある)の学校には仮想専用線として利用できるようサブドメインを提供している。また、教育現場専用の内部サーバーも構築している。愛知県教育センターの水井研究指導主事 |
以上のような基調講演と事例発表で東海・北陸活用研究会の前半プログラムを終了した。
教育の現場でネットの世界に触れるとき、それが開いた世界として子供達の前に現れるかどうかは定かではない。しかしながら、先生方が“壁の突貫写真”を提示したときの誇らしげな感じは、印象的だった。このようにネットの面白さ、便利さを身をもって教えてくれる教師がいたならば、生徒達もきっとネットを好きになってくれて、ずっとネットと一緒に生活してくれるに違いない、と思わせるほどだった。
編集部注:(下)は26日に掲載する予定である。