このページの本文へ

【INTERVIEW】コダック、紫藤秀正氏、「スクリプトでデジタルカメラの可能性が広がる」

1998年11月18日 00時00分更新

文● 報道局 小林久

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 デジタルカメラ用OSの市場が活発しそうな気配がある。デジタルカメラ用OS『Digita』用のスクリプトの増加や国内市場に新たな企業の参入があったことなどが主な理由だ。また、国内企業ではある大手システムベンダーが年内の発表は見送ったものの同OSを搭載したデジタルカメラを発表する様子であるという話も聞く。今回は、コダック(株)デジタルイメージング事業部デジタル本部マーケティング部紫藤秀久マネージャーに、OS搭載デジタルカメラの現状と同社の取り組みなどについて聞いた。

コダック デジタルイメージング事業部デジタル本部マーケティング部マネージャーの紫藤秀久氏
コダック デジタルイメージング事業部デジタル本部マーケティング部マネージャーの紫藤秀久氏



デジタルカメラ用OS市場がようやく面白くなってきた

----まず始めに、デジタルカメラ用OSの現状からお聞きしたいのですが。

「市場全般的な方向から言うと、ようやく盛り上がってきたなという感じですね。弊社は6月に『DC-260』を発売して以来、汎用型デジタルカメラ用OS搭載機の市場で先駆者的な役割を果たしてきました。ここへきて、他社さんによる搭載機市場への参入があったり、『Digita』対応のスクリプトが豊富に開発されるなど、がぜん活気が出てきたように感じています」

----『Digita』搭載のデジタルカメラの開発には、ミノルタさん以外にも複数社が名乗りを挙げているという話を聞きますが。

「ええ。そのようですね。一番乗りのときにはいろいろ不安な面もありましたが、追従してくれる他社さんも出てきました、もっと盛り上がってほしいと思います。スクリプトもようやく増えてきました。こういう状況の中で市場に参入できる他社さんがうらやましいと思う面もいろいろありますね」

----でも、例えば、各社の特集記事などで『DC-260』が紹介されるなど、先駆者ゆえの利点が御社にもあったのではないですか。

「ええ、『DC-260』の発売時には、各メディアさんに、ずいぶん取り上げられてもらいました。でも、結局、OS搭載という目新しさばかりが強調されて、OSを搭載していることの意義をなかなか認めてもらえなかったように思います」

----OS搭載の本当の意義とは何ですか。

「それは、やはりスクリプトに集約されるのではないかと思います。それから、共通なUI(ユーザーインターフェース)の提供です。筋の通ったUIの提供によって、ユーザーは戸惑わず、デジタルカメラを使用できます」

----拡張性が重要ということですか。

「コダックはポリシーとして“進化するデジカメ”を掲げています。デジカメは今後さらに多機能化の方向に進んでいくと考えられます。そんな中、過度にハードウェアに依存せずファームウェアやスクリプトの追加で機能を拡張できたほうが、より良いというのが弊社の見解です」

----ユーザーにメリットがあるというわけですね。

「メーカー、ユーザー双方のメリットを感じています。現在多くのデジタルカメラは、組み込み向けの専用OSが搭載されています。しかし、それでは、ハードを開発しながら、ソフトもやらなければならない。これでは大変です。デジタルカメラ用のOSが一般化すれば、メーカーは、ハードに集中しコストの削減ができます。これは価格低下としてユーザーに直接返ってきます。だから、開発メーカー、ユーザーの双方にメリットがあるといえると思います」


『Digita』搭載の『DC-260』

スクリプトの利点

----先ほど、多くのスクリプトが発売されて、がぜん面白くなってきたとおっしゃいましたが、スクリプトについてもっと詳しく聞かせていただけますか。

「発売されている『Digita』搭載のデジタルカメラはもともと弊社のものしかありませんでした。そのため、弊社の『DC-260』をいかに有効に使いこなすかという意図を込めて開発されたスクリプトが多いですね。ホワイトバランスの設定を追加するもの、起動が遅いという最大の問題点に対処するために、サスペンドしないようにするスクリプトなどが公開されています。また、現実的な話としては、スクリプトを制作する会社が商売として成り立とうとしています」

----商業的な利用法としてはどんなものが考えられるのですか。

「例えば、不動産業では、物件のデータベース用の画像を作成しなければなりません。しかし、写真を撮り忘れたり、取る場所を間違えたりと、同じ条件で撮影できないことが多いのです。そんな時、撮影の順番や方法を入力したスクリプトをインストールしておきます。そうすれば、住所、立地条件など基本項目を選択し、まず玄関、次に台所などとスクリプトの指示にしたがって、撮影していけば良い。そして、その結果は,HTMLデータとして自動的に作成される。そうすれば、自動的に全国一律のデータベースを作成することができます。これは1例です」

----今後はこういった業務用途のスクリプトが増えていくと。

「デジタルカメラは、今後仕事で多く使われるようになっていくでしょうが、使う人が必ずしもその操作に慣れているわけではない。そんな人にも使いやすいものを提供するのが、有力になっていくのではないかと思います」

----一般ユーザー向けのスクリプトではどうでしょう。

「例えば、コンシューマー向けのゲームなどもあります。旗振りゲームやブロック崩しなどもあるようです。デジタルカメラで撮影した写真をブロックに貼り付けるなど、結構遊べますよ。スクリプトに関しては、CLUB Degita(http://www.so-net.or.jp/DCEXPRESS/digicam/digita/index.html)というホームページがあります。そこでは、ユーザーの草の根的な活動が繰り広げられています。また、フラッシュポイントさん(米フラッシュポイントテクノロジー社、『Digita』の開発元)を中心としたアプリケーション開発の動きもあるようです。いずれにしても、面白スクリプト,ビジネススクリプトを中心として、ちゃんとしたソフトが生まれてくるようになったのではないでしょうか」

今後の展開に関して

----御社の今後の製品開発について教えていただけますか。

「年内は現行機種の販売を続け、地味ながらファームウェアのアップグレードなどを行なっていきます。正直な話、販売店さんなどをまわると少々見飽きたかなという部分もないではないのですが・・・。しかし、すべての人が毎週秋葉原に買い物に出掛けるわけではありません。新しいもの、最先端のものを求める人は1部のマニアだけではないかと考えています。モデルチェンジするたびに新機種に飛びつくヘビー・ユーザーではない、一般的なユーザーにとって、一番必要なのは、簡単に、きれいだと納得できる写真が取れることです。その点では、他社製品に決して負けない自信があります。弊社製品は、他社製品が極端に性能アップしない限り当面十分な性能を持っています」

----長く売っているということでコスト面でのメリットもありますね。

「ええ、メーカーにとってのコストメリットは、ユーザーに跳ね返って来ます。同じ製品をずっと作り続けることで、当然コストが下がってきます。弊社の『DC-210』の量販店での価格を見ても3、4万円程度と非常にお買い求めやすくなってきているのかなという気はします。また、品質を下げて安くしているわけではないので安心できます。市場全般を見てみて、デジタルカメラの量産効果はまだまだです。現状のままでは今のユーザーしかついてこない。価格は3、4万程度、ちょっといいものでも10万円以下という買いやすい価格になっていく必要があると思いますね」

----新製品を発売しないということは、そのへんを視野に入れてのことですか。

「一番必要なのは、簡単に、きれいだと納得できる写真が取れることだと思います。ほかの機能はその付録みたいなものです。ですから、そのために、必要以上のコストや、スキルを共用するのは良いことではありません。しかし、それを機能を犠牲にしないでやりたいというのが弊社のコンセプトなんです。特に画素の面では、現状で十分なレベルに達しているように思います。大きくするのなら別ですが、フィルムメーカーとして、普通の人は大きく伸ばさないというのはよく知っている(笑)。ネガの再利用率、焼き増し、伸ばす、ポストカードにするなどの再利用率はなきたくなる程少ないんです。だから、性能的にはオーバースペックにならない範囲で、コストを追及していこうと考えています」


----売り上げに関する手ごたえはどうですか。

「おおむね予想通りです。『DC-210A』の値段が3~4万円程度と下がって,性能もそこそこいいという価値がわかってもらえてきたのがいいですね。また、『DC-260』の健闘がうれしいです。デジカメの黎明期だった数年前は、カメラに託すものもメーカーによって違っていました。その中で、コダックはデジタルカメラは写真を撮る機会だと始めから主張してきました。機能やデザインでは多少劣っていても画質では胸を張れると思います」

-----最後に今後の展望に関して教えてください。

「弊社としては、写真のすべてがデジタルになるとは考えていません。また、デジタルカメラだけがデジタルの恩恵を与えてくれるものではないと認識しています。ですから、今後は、ホビー、業務系を問わず、ネットワークを利用したサービスなども展開していくつもりです。業務系に関しては、大手家電メーカーさんと協力してやっていきます。コダックの目標は、静止画像の世界でナンバー・ワンになることです。デジタルの世界でナンバー・ワンになるためには日本中心にならざるを得ない。そこで、今年末には技術・マーケティング部門を日本に移し、日本中心でマーケティング展開を行なっていくつもりです」

 インタビュー中にスクリプトを使った、カメラの面白い使用法に関して話が広がった。

 デジタルカメラによって、カメラはコミュニケーションツールとして捉えられるようになってきている。「個人的には篠山記信モードみたいなのがあったら面白いのではないか」と思うんですよと語る紫藤氏。ちょっとした発想から、カメラに機能を付加できる。デジタルカメラ用のスクリプトの良さは、そこにある。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン