CATV局がインターネットサービスを開始するケースが増えている。2年ほど前から、地方のCATV局がサービスを開始、今年4月には東急ケーブルテレビなど第二陣が参入した。さらに、CATV大手のタイタスコミュニケーションにつづき、ジュピターテレコムもインターネットサービスを開始する。CATVのインターネットがめざすものは何か。(株)タウンテレビ金沢、(株)東急ケーブルレビジョン、(有)ジュピターインターネットの各担当者に伺った。
CATV会社が運営するインターネットサービス |
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社名 |
本社 |
最大伝送速度(送信/受信:bps) |
料金 |
サービス開始 |
武蔵野三鷹ケーブルテレビ |
東京都 三鷹市 |
10M/10M |
時間 課金 |
96年10月 |
タウンテレビ金沢 |
横浜市 金沢区 |
768K/30M |
月額 6500円 |
97年9月 |
東急ケーブルテレビジョン |
横浜市 青葉区 |
14M/14M |
月額 5200円 |
98年4月 |
タイタス・コミュニケーションズ |
東京都 渋谷区 |
最大3M/256K |
回線別 固定料金 |
98年10月 |
●インターネットサービスは儲からない!?
(株)タウンテレビ金沢・原俊章取締役技術部長 |
(株)タウンテレビ金沢が、インターネット接続サービスを開始したのは'97年9月。これは、全国で3番目、関東圏では東京三鷹市の武蔵野三鷹ケーブルテレビに次ぐ。インターネット接続サービスの会員数は、10月中旬の時点で約1500件と、前2社を上回っている。同社がCATVサービスを提供しているエリアは横浜市金沢区(約7万世帯)で、多チャンネルサービスの会員は約5000世帯。インターネット接続サービスに加入している比率は比較的高いほうだという。
同社では、伝送周波数が770MHzの光同軸ハイブリッドケーブルを採用、550MHz以上の周波数帯をインターネット通信に利用している。データ送信速度は、下り10Mbps(最大30Mbps)、上り750Kbps(最大768Kbps)。モトローラ製のケーブルモデムを使用。料金は月額6500円、新規加入の際の工事費は、通常2万5000円。
同社は、自社で回線を保有して通信事業を営む第一種電気通信事業者だが、プロバイダー(第二種電気通信事業者)は、親会社の丸紅(株)系列のインターラクティブケーブル通信(株)が運営する“しーぷるねっと”のため、メールアドレスなどのドメイン名は“seaple.icc.ne.jp”となる。
インターネット接続サービスの料金は、モデム使用料込みで月額6500円だが、同社の原俊章取締役技術部長は、「6500円のうち、ケーブルタウン金沢の取り分は、正確には言えませんが、その半分以下で、残りはプロバイダーに支払っています。ケーブルタウン金沢にとっては、ほとんど利益はないですね。インターネット接続サービスで儲けよう、というつもりはまったくありません。パンフレットの片隅に小さくインターネットと書いてあるだけで、特に宣伝しているわけではありませんが、口コミで会員が増えました。それでも、既存のインフラで提供できる情報コンテンツのひとつという位置づけです」と語っている。
また、原氏は、「横浜市金沢区という狭いエリアの中に会員がいますので、電子メールやホームページを地域の情報交換に使っていることが多いようです。インターネットというとワールドワイドというイメージがありますが、意外にローカルな使われ方をしています」と、CATVというローカルなメディアの持つ特色を指摘している。
●放送と通信の融合を睨んで
(株)東急ケーブルテレビジョン・山本伸一朗通信事業部係長 |
(株)東急ケーブルテレビがインターネット接続サービスを“@CATV(かっとび)”を開始したのは、今年の4月から。山本伸一朗通信事業部係長によると、「もっと早くサービスを開始するつもりだったが、ケーブルモデムが調達できず遅れてしまった」という。当初は、米ヒューレット・パッカード社のケーブルモデムを採用するつもりだったのが、昨年突如生産中止を表明、米TERAYON社のモデムを採用しサービス開始にこぎつけた。
同社のサービス対象エリアは、渋谷区、世田谷区、川崎市、横浜市など東急線沿線。多チャンネルサービスの会員は約5万人で、“@CATV”の会員数は、9月末で約2000人という。
東急ケーブルテレビは、一種(通信事業者)と二種(プロバイダー)の兼業事業者。“@CATV”のユーザーは、6つの放送局を結ぶ622MbpsのATM回線網に接続されている。同社の山本伸一朗通信事業部係長は、「会社のLANをイメージしていただければわかりやすいのですが、“@CATV”の会員は東急ケーブルテレビという大きなLANに接続しているのと同じ状態です」と説明している。そのため、各会員に割り当てられるIPアドレスも、社内LANと同様にプロキシーサーバーによって割り振られたローカルなものとなる。したがって、「自分のサーバーをおくことはできず、また、一部のインターネット対戦ゲームはできない」(山本氏)という。
回線の周波数は、70~450MHzを映像の下りに使用し、通信の上りには30~36MHz、通信の下りには36~42MHzを使用している。データ通信速度は、上り、下りともに14.3Mbps。ただし、山本氏によると、「東急ケーブルテレビの外部に出るインターネット接続は、ほぼ400Kbps程度になる」という。料金は、新規加入料2万円、工事費2万1000円で、月額5200円の固定料金制。ただし、多チャンネルサービスの加入者は、多チャンネルサービス+インターネットサービスの料金が7000円と、2000円の割引を受けられる。
山本氏は、「東急ケーブルテレビは、CATVのネットワーク自体が双方向に通信できるようなシステムを、当初より採用していました。インターネット接続サービスを始めたのも、いずれは放送と通信が融合すると見ているからで、使うメディアはかわっても、提供するコンテンツはかわらない、と考えています。自社でプロバイダー機能も兼業するのは、内製化することでノウハウを蓄積させるためです」と、今後の展望を語っている。
●独自コンテンツの提供を核に
9月18日、(有)ジュピターインターネット(住友商事と米TCIが出資)と国際電信電話(株)(KDD)が共同出資をして、インターネットプロバイダーとして(有)ジェイコムインターネットを設立した。同社は、'99年1月よりサービスを開始する。すでに、住友商事と米TCIは、(株)ジュピターテレコムを設立し、日本でもCATVサービスを展開している。米TCIは、米国で米タイムワーナーグループと1、2位を争っているMSO(Multipule System Operator)。そして、日本国内で、住友商事が出資して設立したCATV局は、今後順次ジュピターテレコムの傘下に入れていく。ジュピターテレコム傘下のCATV局は、現在23局で、多チャンネルサービスの会員数は、総計約28万世帯でトップクラス。ジュピターテレコム傘下のCATV局の1社が、東京都杉並区でサービスを提供しているJ-COM杉並で、ジェイコムインターネットは、当面はJ-COM杉並の会員を対象にインターネット接続サービスを提供する。J-COM杉並が第一種事業者、ジェイコムインターネットがプロバイダー(第2種通信事業者)という位置づけである。
回線の伝送周波数は770MHz。うち、200~400MHzは、映像の送信に使う。データの下りは500MHz台。上りは18~24MHzの帯域を使用する。ちなみに、30MHz前後の周波数帯は、電話サービスで使用する。データ伝送速度は、上りも下りも14Mbps(実効速度は8.19Mbps)。ケーブルモデムは、東急ケーブルテレビと同様に、米TERAYON社のものを採用している。
インターネット事業を統括するジェイコムインターネットの国光孝洋氏は、「インターネットサービスの開始は、タイミングが少し遅れてしまいました。'97年7月から、CATV回線を利用した電話のサービスを開始しました。これは、現在杉並区の加入者が4500人くらいです。当初は、安さがセールスポイントでしたが、NTT(日本電信電話(株))と新電電の間で値下げ競争が始まってしまい、その点のメリットはなくなってしまいました。また、交換機の運用や維持管理に相当な資金が必要なこともわかりました。インターネットを先に始めて、後からインターネット電話を開始する、という選択肢もあったかな、と今では思っています」と語っている。
また、「ようやくインターネットのサービスを始めることにしましたが、単独で提供するのではなく、CATV、電話、インターネットの3つをセットにして販売していこうと思っています。まだ料金は決めていませんが、3つセットに加入すれば、工事費も割引、月額料金も割引にするつもりです」
そして、国光氏は、「ただ、インターネットに接続できるというだけでは売りにならないので、住友商事グループのクロスビーム・ネットワーク(株)が11月から運営を開始する、CATVインターネット専用のサイト“Webプラス”で、CATVインターネット独自のコンテンツを提供していきます。“Webプラス”は、カラオケやショッピング、ゲームなどが楽しめるサイトです。動画がスムーズに表示できるサイトで、1つのページの容量が2~3MBはあります。一般的なホームページの容量の10~20倍と、非常に重く、ダイヤルアップ接続では、とても使用できません。“Webプラス”は、高品質のCATVインターネット独自のコンテンツといえるでしょう。住友商事グループの運営するサイトですが、ジュピターのライバルのタイタスや、老舗の武蔵野三鷹ケーブルテレビもポータルサイトとして採用する予定です」
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国光氏の話の中で出てきた、ライバルのタイタスとは、CATV大手の(株)タイタス・コミュニケーションズ(伊藤忠、東芝、米タイムワーナーグループが出資)のこと。タイタスも、この10月にインターネット接続サービスを、千葉県の柏市と我孫子市で始めたばかりである。
タイタスは、一種(通信事業者)と二種(プロバイダー)の兼業事業者で、インターネット接続サービスは、月額料金が6000円の“ベーシック”が下り最大512Kbps、また、月額料金が25万円の“ウルトラハイスピードLAN”は、下り最大3Mbps、上りは最低保証速度が256Kbpsという高速通信が行なえる。同社も、'97年6月から電話サービスを開始している。この10月からは、CATV、電話、インターネットの3つをセットにして“ALL”というブランド名をつけている。ジュピター・テレコムと同様、3つをセットにすることでユーザーへのアピールを強めるのが狙いのようだ。
儲かるかどうかは別にして、多チャンネルサービス用のケーブルという、すでに構築されているインフラを利用して、インターネット接続サービスを提供しようとするCATV会社は増えている。9月以降、徳島県のケーブルテレビ徳島と、福井県の福井ケーブルテレビが、それぞれ'99年春よりサービスを開始することを表明。10月には、静岡県のTOKAIがサービスを開始。また、岡山県の岡山ネットワークが11月からインターネット接続実験を開始することを発表しており、もはやひとつのトレンドとなっている。
当面は、高品質の回線を利用した“Webプラス”のような、CATVインターネット独自のコンテンツが提供されるようになるだろう。そして、放送と通信の融合にも、積極的に取り組んでいくことになるのだろう。日本では、アメリカほとは発展していないCATVだが、放送と通信が融合された時代には、ひとつの有力な事業形態へと大きく変貌するかもしれない。