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ネットワーク社会を考える“シリコンバレー地域ビジネス事情講演会”開催

1998年08月28日 00時00分更新

文● 報道局 清水久美子

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 最新の技術を持ったベンチャー企業が次々と誕生しているアメリカシリコンバレー。成功の秘訣は完成されたネットワーク社会といわれる。シリコンバレーをモデルに日本のネットワーク社会を考えようと、(財)川崎市産業振興財団主催による、“シリコンバレー地域ビジネス事情講演会”が川崎市産業振興会館で行なわれた。

小泉幸洋氏 小泉幸洋氏



 講演会では、まず川崎市経済局産業政策部の小泉幸洋氏により、“ベンチャーを育むネットワーク文化~シリコンバレーNPOに学ぶ”と題した講演が行なわれた。同氏は川崎市の国際経済担当として、シリコンバレーに駐在。行政を含む、ベンチャー企業を支援する周辺環境について語った。

 同氏は、シリコンバレーではベンチャー企業のサクセスストーリーが、ごく身近で語られることを紹介した。「例えば29歳で、株額面で10億円の資産家が生まれている。才能やアイデアさえあれば、成功のチャンスがある証拠だ。また、システムも非常に流動的。それぞれのベンチャー企業間で、ビジネスにメリットになると判断すれば人材の移動も多く行なわれる。また、キャピタリストからの資金の調達も迅速」とシリコンバレーの地域性について紹介した。ネットワーク形成が容易なオープンな社会であることが大きなポイントである。

 「こうした中、多様なNPOによる支援策がとられているのも特徴。連邦政府のコミュニティーカレッジ、いわゆる市立大学などと共同で、経営者、社会人向けセミナーを催している。また、退職後の経験豊かなビジネスマンが中心となってコンサルティングを行なう、“SCORE”という中小企業カウンセリングボランティアグループもある」と地域住民全体で、ベンチャーを支えていこうとする風土が整っていると述べた。

 こうした中、雇用も5年間で100万人から120万人と20パーセント増加しているという。一方で、「住宅戸数は3万8000戸しか増えていない。アパートの賃料も約30パーセント上昇している。こうした住宅施設をはじめとするインフラ整備や、税金手続きの簡略化を、自治体、地方行政が行なおうとしている。日本もぜひ見習わなくてはいけないことだ。行政主導のベンチャーコンサルティングは、マーケティングの視点が欠落しやすいのが弱点。行政がネットワーク環境など、インフラを整備すること、また優秀な人材を産業支援に積極活用できるシステムをつくることが重要」とNPO、行政の役割分担について語った。

八木博氏 八木博氏


 続いて、米バーベイタム社ハードウェア開発担当ディレクターの八木博氏が“21世紀ネットワーク社会を展望する”と題して講演。三菱化学(株)の子会社である同社で、CDやMOなどの光学的記憶装置の開発に携わるかたわら、シリコンバレーのビジネスモデルを日本にも採り入れようと活動している。

 「シリコンバレーは、犬の1歳が人間の7歳に相当するのと同様に、時が速く流れる“Dog Year”世界。日本では、秘書や広報を通したりで、アポイントメントを取るのにも2、3ヶ月かかる場合も多い。シリコンバレーで1年気合を入れて、事業に取り組めば、日本でいう7年間位の経験を得ることができる。名誉や地位がなくても社長や、成功者に対面できる。そういうチャンスがいくらでもある」と個人の意思が尊重されやすい社会であることを紹介した。

 「日本では“出る杭は打たれる”という風土があるが、これではだめ。異質なものを受け入れる度量を身に付けなくてはいけない。それには、まず身近にあるできることから始めるのがよい。例えば、世界のマーケットに向けて英語のホームページを作ってみるなど。日本のインフラ対策で何を優先させなければならないかといえば、道路や橋を作ることより、ネットワークインフラだろう」と最初のアプローチについてアドバイスした。

 同氏は今後の予定として、「2000年までに個人投資家のエンジェルの誕生を試みたい。最終的には、NPOの一つでもある米スタンフォード大学のような、大学も作りたい」と、意欲を見せた。

Venkat Lyer氏Venkat Lyer氏



 また、実際シリコンバレーでベンチャー企業家として活躍している、米COMIT SYSTEMS社のVenkat Lyer氏も緊急来日。従業員72人の同社は半導体開発、製造業務を行なっており、年間4億円の売り上げだという。独自のデザインルームを置くことで、開発、製造の行程を縮めている。10月には日本拠点の進出も決定しており、神奈川県のインキュベーター、“かながわサイエンスパークネットワークサロンにオフィス”を構える予定とのことだ。

 弁護士、インキュベーターコンサルタントなど100人以上が参加した今回の講演。参加者からは、「日本でも、インキュベーターの仕組みなどぜひ採り入れていけたらいい」、「同じことが本当に日本でも可能なのか」といった質問や意見も飛び交い、ネットワーク作りへの関心の高さを伺わせた。

    問い合わせ先:川崎市経済局産業対策部国際経済担当TEL.044-200-2336

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