全世界に先駆けて8月15日、ついにアメリカで発売されたiMac。ここでは、アップル社の本拠地であるクパチーノから遠く離れた東海岸はボストン周辺での、当日の模様を中心にお伝えする。
静かな興奮に満ちたスタート
西海岸では午前0時1分から開店してお祭りムードを盛り上げたショップもあったようだが、ここボストン周辺での反応は弾けるように爆発的と言うよりは、時とともにジワジワと盛り上がる静かな興奮に満ちたものだった。これは、一つには大陸の西と東に住む人々の気質的な違いによるところもあろう。いくつか足を運んだショップでは、軒並み30台以上の事前予約注文を受けており、必要とする人々は、別に1番乗りしなくとも、その日のうちにゆっくりと発注分を取りに行けば良いと考えたようだ。
また、MITやハーバードの学生たちは大学内のショップのアカデミックディスカウント(iMacは元々利幅が小さいので、50ドル程度の値引きだが)を利用して購入しており、そういうショップの商品引き渡しセンターは週末が休みなため、「お楽しみ」が週明けの月曜日にずれ込んだという事情もある。
そういうわけで、MIT近くのCompu USAでは、午前9時の開店5分前になってようやく10人ほどの人が集まるような状況だったが、次に足を運んだボストン近郊のブライトンの店舗では昼近くになるにしたがってiMacを見に来る客が増え、自分の目で確かめて納得した上で購入するケースが目に付いた。
取り立ててイベントらしいイベントはなかったものの、各ショップともボンダイブルーのバルーンを飾り、iMacのボックスを積み上げてその存在をアピールし、アップル社から直接派遣された説明員ら(営業スタッフではなく技術職も総動員されていた)が熱心な客の質問に答えていた。
ただし、どのショップもまだiMac用のUSB機器の展示はなく、当日、同時発売予定だったSuperDriveも、ハード的には完成しているもののドライバソフトのトラブルで月末まで出荷が延期されるとのことだった。しかし、どの客もあまりそのあたりのことは気にする風でもなく、増設メモリなどを買い求めて店を出ていく。その顔には、一様に満足げな笑みが浮かんでいた。
発売開始前日のMicro Center。チャールズリバー沿いのMicro Centerでは、2、3日前からiMacの実機を展示してデモを行っていた。客層としては、割と年配の人が多いように感じられた |
発売当日のCompu USAブライトン店。昼が近づくに連れて、予約分を受け取ったり、直接店頭で触って購入を決める客の姿が目立つようになった |
さまざまなユーザー層
事前予約をしていたり、早々と購入を決めたユーザー層には、若者よりも働き盛りの30代の男女や年配のカップル、家族連れなどが多く、アップル社のコンシューマーマーケットへの復帰という目的が達せられつつあるという印象を受ける。
何人かにインタビューを試みたところ、その職業も建築デザイナー、看護婦、弁護士とさまざまであり、中には、コンピューターのことはまったくわからないがニュースでの評判が非常に高かったので店に足を運び、初めてのコンピューターとして購入したという人もいた。
彼(彼女)らのiMacの評価のポイントは処理能力の高さ、フットプリントの小ささ、デザインの優秀さといったところに集中しており、この意味でもアップル社の戦略は功を奏しているようだ。また、その用途はインターネットを核としたコミュニケーションを中心として、日常的な文書やグラフィックスの作成、DTP、エデュテイメントというようにMacが得意とするジャンルを網羅していた。
MIT近くのCompu USAに一番乗りしたKincaid氏(左)。彼はMIT出身の建築デザイナー兼Macコンサルタント。この日は母のために事前予約していたiMacを受け取りに来たが、もう1台、自分の兄弟用にも購入予定だと言う。専用の駐車場を持たないこの店では、大きな商品は客が店先に車を付けると右のようにカートで運んできてくれる |
Compu USAブライトン店の店頭で購入を決めたPaul氏。アジア系のPaul氏は、小学校4年生になる娘さんのためにiMacを購入した。店頭で販売スタッフの話に耳を傾け、じっくりと品定めをしてから購入を決めた姿が印象的だった |
シンプルで効果的なパッケージ
iMacと言えば、ボンダイブルーとアイスホワイトの本体カラーが有名だが、アップル社は、それとは別にポピーオレンジなどの明るく軽快な色を使った色彩計画も採り入れている。パッケージや付属のドキュメントなどのカラーは、これに従って構成されており、Windows
PCはもちろん、従来のMacともまったく異なる印象をユーザーに与える。さらに、本来のマニュアルはオンライン化されており、紙のドキュメントにはケーブルを差し込んで電源を入れるまでの最小限のことしか書かれていない。このことが、実際以上にiMacをシンプルに見せ、セットアップするまでの心理的な壁を極力取り除く効果を上げている。
こちらが慣れているせいもあるが、箱から出して電源を入れるまではものの数分で終わり、はじめは小さいと思われたマウスにもその後の数分で馴染んだ。シリアスなグラフィックワークなどを行なうような場合にはわからないが、日常的な操作には、ほとんどつまむような感覚で使うこのマウスで十分という気がした。
キータッチも、好みの問題はあろうが納得できるもので、十分にコストがかけられている印象を持った。もちろん、USBだからといって従来のADBタイプのものと使い勝手が違うわけでもなく、キーボードからの本体のオン/オフ機能も健在だ。
iMacのパッケージ。新たな色彩計画に基づいて、iMacのパッケージにはポピーオレンジのカラーが効果的に使われている |
(左)パッケージを開けたところ。パッケージを開けてキーボードなどを収めた箱を1つと緩衝材を1つ外せば、そこにiMacが出現する。ビニール袋の封印を破れば、ハンドルを持ってすぐに取り出せる仕掛けだ |
(右)パッケージの中味。パッケージ内には、これだけのものが入っている。マニュアルに見えるものは、ほとんどクイックリファレンス的に薄いドキュメント類。お馴染みのオマケのステッカー(左端中央)が、ついにレインボーから白一色になった点に注意
ダイニングテーブル上のiMac。まだ置き場所が確定しないので、とりあえずダイニングテーブルに置いてみたの図。iMacの重心は驚くほど前寄りであり、実際には20cmほどの奥行きを確保すれば、後端は机からはみ出していても安定して設置できる。したがって、そういう置き方をするなら、もっと有効にスペースを利用できるはずだ |
巧妙なハードとポップなソフト
iMacのシステムソフトウェアは、システムフォルダ内を見る限り、基本的にはノーマルのMac
OS 8.1に専用のシステムイネーブラーを組み合わせただけのように見える(オープンファームウェア化されているために、その他にToolbox
ROMをファイル化したものも追加されているが)。他に、iMac特有のファイルとしては、IrDAの設定用コントロールパネルや、カラーマッチングの設置を行なうColorSyncのシステム特性にiMacディスプレーが加わった程度で、大きな変更はない。
一方で、画面のカスタマイズに関わるデスクトップピクチャーは、新たな色彩計画に基づくパターンやイメージに改められており、全体に軽快でポップな印象を醸し出している。
アップル社はこの週末で、事前予約分の15万台と合わせて、30万台以上のiMacを出荷したといわれている。それらのデスクトップが、過去のどんなコンピューターよりもカラフルでバリエーションに富んだデスクトップで飾られることは間違いないだろう。
iMacのアンダー・ザ・フード。ネジ1本を緩めると簡単に外せるアンダーカバーを取ってみたところ。あと3本のネジと4本のケーブルを抜くだけで、中央にある基板を収めた金属シャシーとCD-ROMドライブが一体化したユニットを引き抜いてメモリー増設などを行なうことができる。まったくの初心者にはそれでも難しい作業かもしれないが、実に大胆かつ巧妙な設計だ |
システムプロファイル。これを見る限り、iMacのシステムは、既存のMac OS 8.1に専用のシステムイネーブラーを組み合わせただけでUSBなどの新しいI/Oをサポートしているようだ。標準搭載メモリーは32MBである |
新デスクトップパターン例。iMacのデスクトップピクチャーのカラーとパターンは、新しい色彩計画に基づいて再構成されている。これは“Bossanova Bondi”と呼ばれる緑青色のパターン |
新デスクトップイメージ例。こちらは、サイケ調の“Convergence 4”。こういうところにもアーティストのコピーライトやバージョンナンバーが入っているところが面白い |
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9月1日発売の『MacPeople 9月15日号』でも、iMac発売の様子を詳しくレポートします。お楽しみに。