左から住友銀行、富士銀行のインターネットバンキング サイト |
インターネットを通して、銀行振込や残高照会を行なうインターネットバンキング。'97年1月に、一般向けに同サービスを開始した住友銀行を追いかけるかたちで、今年2月には三和銀行が一般を対象にサービスを開始している。また、富士銀行、あさひ銀行なども、一般から1万人のモニターを募集して、運用実験を本格的に開始している。徐々にではあるが、インターネットの口座数は増加傾向にあるようだ。
インターネットバンキングで、もっとも先行している住友は、インターネットバンキングの口座数は公表していないが、おおよそ6000件~7000件の間ぐらいと推定されている。また、口座数1万件を上限に、7月末締め切りで一般からモニターを募集した富士は、「予定どおり1万件の応募があった」(富士銀行広報部)といい、7月27日にモニターの募集を始めたばかりのあさひも、「1週間あまりで、約5500件の申し込みがあった」(あさひ銀行ネットワーク業務室)という。ところが、住友に次いで早い時期から一般向けにインターネットバンキングを開始した三和では、口座数がようやく3000人を超えたレベルにとどまっているという。
この理由は、サービス内容の違いにあるようだ。三和では、他行へ振り込みを行なう場合には、事前に登録した振込先にしか振り込みができない“事前登録振込”しかできないのに対し、住友など3行は、事前登録をしていなくても、Web上で振込先を指定して振り込むことができる“都度指定振込”ができるようになっている。他行への振り込みができるかできないかは、口座を開設する側からすれば、大きな違いにうつるようだ。三和でも、「近々には、事前登録をしなくても、振り込みができるように改善する予定」(三和銀行広報部)という。
また、これら4行は、専用ソフトなどが必要ではあるが、インターネット網+パソコンでインターネットバンキングが始められるのに対して、東京三菱、さくらの2行は、独自の方式を採用している。東京三菱では、ICカード方式を採用しているが、これは、口座番号、暗証番号、暗号鍵、個人証明書を記録したICカードを使用する方式で、パソコンにはカードリーダーを取り付ける必要がある。ICカードやカードリーダーは日本アイ・ビー・エム(株)の製品を使用しており、1台あたりの単価は公表されていないものの、数万円のコストがかかってしまう点が、大きく普及させる上でのネックとなっているようだ。
一方、さくらでは、インターネット網は使用せず、ダイヤルアップで、さくらのサーバーに直接接続する方式を採用している(現在は、三井物産の社員100人を対象にした実験段階で、さくらのサーバーと三井物産のLANとは専用線で接続されている)。さくらが採用したのは、日本アイ・ビー・エムが開発した『ゴールド・ダイレクト』というシステムである。ただ、さくらが、このシステムを採用した理由について、同行の高橋清治ネットワーク業務部主幹は、「インターネット網を利用した場合、接続が不安定であったり、振り込みを指示しても実行されるまでの時間が不確実であったりする可能性が高く、サービスを安定して供給できない懸念がある。顧客が契約しているプロバイダーのサーバーや回線に左右されるのは、好ましくないと判断した。しかし、自行のサーバーに直接接続する方式ならば、口座数や利用状況に応じて、サーバーや回線数を自行の判断で行なえる」と説明している。確かに、顧客にとっては、接続や振込みなどの実行が不安定では困る部分もあり、他行も含め、今後、口座数が増えるとともに、こうした問題の解決が重要になってくるだろう。
では、一般の顧客は、インターネットバンキングをどのように利用しているのだろうか。この6月まで、約1年間1000人のモニターで実験を行なってきたあさひ銀行の金子一裕ネットワーク業務室次長によると、「利用される時間帯は、夜9時から深夜2時までが圧倒的で、日中に銀行にこられない層が、自宅に帰ってから利用している」という。インターネットバンキングでは、夜中に振り込みなどの指示をしておいて、翌日の朝実行させることも可能なために、深夜に利用が集中しているという。
また、「いずれは、現在、銀行の窓口で行なっているサービスは、すべてインターネットバンキングで行なえるようにしたい」(金子次長)と意欲を見せているが、これは他行も同じ方針のようで、もしそうなれば、銀行の店舗やATM(自動預け払い機)も、従来のものから大きく変わっていくことになるだろう。また、エヌ・ティ・ティ移動通信網(NTTドコモ)(株)が、12月に開始する予定の携帯電話にインターネットの情報を表示させる“ゲートウェイサービス”で、インターネットバンキングと同じ機能を持たせる“モバイルバンキング”の構想も実現に向かって動き出しており、これまでとは異なる銀行が作り出されるのも時間の問題だ。
- 【表の注】SSL:Secure Sockets Layer、米ネットスケープコミュニケーションズ社が開発した暗号通信プロトコルSET:Secure Electoric Transaction、インターネット上でクレジットカードを使って決済を行なうための手順などを定めた統一規格。認証技術には、RSA方式を採用している。SECE:Secure Electronic Commerce Environment、SETをベースに、日立製作所(株)、日本電気(株)と、富士、三和、住友などの銀行が共同で開発した銀行間取引プロトコル。RSA:3人の開発者の頭文字をとってRSAと命名された、公開鍵方式の暗号化アルゴリズム。DES:Data Encryption Standard、米IBM社が開発した、秘密鍵方式の暗号化アルゴリズム。住友銀行
- 三和銀行
- あさひ銀行
- 東京三菱銀行
- 富士銀行
- さくら銀行(インターネットバンキングに関しては未掲載)
銀行名 | 名称 | 方式 | 認証方式など | 期間 | 対象 | 今後の展開 |
住友 | WEBダイレクト | 電子証明書をダウンロードし、パソコンにインストール | 128bit版SSL | 97年1月~ | 制限は無し | 年間手数料1500円 |
三和 | 三和インターネットバンキング | 専用ソフトが必要 | SECE | 97年10月試行開始、'98年2月から一般に拡大 | 制限は無し | 月額手数料300円 |
富士 | 富士サイバーバンク | 専用ソフトが必要 | SET、SECE | 97年3月から試行開始、'98年6月から一般に拡大 | 1万人程度で実験 | 手数料無料、'98年秋から商用開始 |
あさひ | あさひインターネットバンキング | 認証書をFDに入れて送付、専用ソフトも必要 | SET | 98年7月~'99年3月 | 先着1万人 | 当面は手数料は無し、'99年3月から月額300円 |
東京三菱 | 東京三菱インターネットバンキング | ICカード方式(カードリーダーが必要) | RSA、DES | 97年8月~ | 同行行員と取引先500人程度 | 98年度中に一般にも対象を拡大 |
さくら | さくら銀行バンキングサービス | ダイヤルアップ接続 | SSL | 98年7月~ | 三井物産の社員100人程度 | 98年9月から一般にも対象拡大、月額手数料は無し |