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【INTERVIEW】人間に温かいお金“エコマネー”とは何か。提案者、加藤敏春氏に問う

1998年07月09日 00時00分更新

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  環境、福祉、コミュニティー、文化などに関する多様でソフトな活動成果を媒介しうるお金の存在をご存知だろうか。通商産業省生活産業局サービス産業課長である加藤敏春氏の提案する“エコマネー”は従来のお金の定義を超えた新しいお金である。保険証や免許証のICカード化からボランティア支援まで、“エコマネー”の可能性について加藤氏に聞く。



----“エコマネー”を考えるにあたって具体的な例からその意味を教えていただけませんか。

「現在、私たちの身近にあるお金に類似した例として航空会社で発行している『マイレージサービス』が挙げられます。ポイントが貯まれば各種のサービスが受けられる仕組みです。私の提案する“エコマネー”は、これによく似ています。普通のお金では換算できない価値を載せる『多目的利用ICカード』のようになるかもしれません」

「“エコマネー”は、地域の市民による環境浄化サービスなどを交換可能な価値にするものになるでしょう。地球に優しいお金です。環境問題におけるサービスの提供に威力を発揮すると考えられます。具体的には、粗大ゴミの処理サービスの手数料に“エコマネー”を使用するといった試みを行なうことにより、市民も自然と清掃ボランティアに参加できるようになるでしょう」

「'99年には厚生省が健康保険証のICカード化をスタートします。また、自治省が今後3年以内に進める『住民基本台帳』の電子化に伴って、自治体が住民にICカードを配布することになります。電子身分証明書や病院のカルテ記録、電子マネーなど機能を備えた多目的のICカードというのは非常に現実味をおびた話になります」

----販売促進のクーポンをカードに貯めていくのと、どこが違うのですか。

「“エコマネー”の意義は、今までのお金には換算しにくかった価値を保管、交換させていくことです。相互扶助の記録などをお金に類似したものに換算してのやりとりすることが可能です。昔からある“講”によく似てます。これが電子的に記録できるようになり流通性が増しました」

----実際に“エコマネー”を採用している地域はありますか。

「横須賀、鎌倉、逗子、三浦の4市と葉山町が“次世代情報都市社会ネットワーク”として実践的な計画をしています。NTTもシステム面で参加しており、『多目的利用ICカード』の利用も検討しています。また、岐阜県の大垣市、高知県、岡山県も私の構想に興味を示しています」

----加藤さんは、アメリカのシリコンバレーに3年間いらしたそうですね。何か“エコマネー”につながる体験があったのでしょうか。

「'92年~'95年の3年間、外交官として出向しました。シリコンバレーでは21世紀型の社会実験として、スマートバレーの立ち上げに参加しました。社会を変えていこうと思った人たちがオピニオンリーダーとなって取り組んでいました。情報産業をてこにして地域の振興を目指す姿に感銘をうけた体験があります。アメリカの社会には、自己決定能力があることがそこでわかりました。 提案を出す人が出る杭のように打たれ、しがらみにとらわれて何も決められない日本とは決定的に違います。日本のシステムの破綻の原因は、変えなければいけないのに変えられない弱さでしょうね」

----加藤さんは、“冷たいお金”と“温かいお金”という言葉を使われているそうですね。

「金融システムには、大きく2つの流れがあります。ひとつはアングロサクソン流で、私は“冷たいお金”と呼んでいます。もうひとつは、アジアを典型とする流儀で私は“温かいお金”と呼びます。ヨーロッパでも大陸は、実はアジア型に似ています」

「アングロサクソン流とは、透明性を要求し、ルールを厳格に決めるものです。そのかわり、公開されたルールに従ってさえいれば、いくら儲けようと非難される筋合いはありません。米国では、証券取引を監視するのに 8000人もの人員を当てています。性悪説の立場に立ち、ルールの透明性の確保にそれだけのコストを掛けるのです」

「アジア型は、性善説の立場に立っています。不正監視にコストを掛けず、コミュニティの中で相互に扶助していくことを前提としたシステムです。そのかわり、あうんの呼吸で出過ぎたまねを控えるような不透明さを抱えています。このタイプは、欧米にはないと言われていますが、実は例があります。LETS(Local Exchange Trading System)がそれです。グリーンマネーという価値が、地域の中だけで流通します」

----エコマネーの誕生は、その流れとどう関係するのですか。

「現代では、“冷たいお金”が世界中で覇権を握りました。為替が乱高下した方が儲かるという人間味のないシステムです。 互いの助け合いで成り立つエコマネーは“温かいお金”の伝統を引いてます。すべてのお金を “エコマネー”に置き換えるのは無理ですが、世の中のすべてを“冷たいお金”で割り切るのも不自然です。“エコマネー”の性善説の部分を生かしながら普通のお金と組み合わせて使う関係が成り立てばいいと考えます」

(報道局 降旗 敦子)

http://www02.so-net.or.jp/~tkatoh/

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