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TRONイネーブルウェア研究会“アジア経済の混乱と障害者雇用・就労への危機”緊急シンポジウムを開催

1998年06月29日 00時00分更新

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 国籍や身体の障害を問わず、誰にでも使えるコンピューターの研究開発を推進しているTRON(トロン)イネーブルウェア研究会は、6月27日(土)“アジア経済の混乱と障害者雇用・就労への危機”と題して、緊急シンポジウムを開催した。TRONの名の入った研究会ではあるが、コンピューター関連の話題に話が及ぶことはなく、アジアの不況問題に終始した。講演者で自身も車椅子に乗って登場した、韓国のインマニュエル電子社相談役の申 鍾鎬(シン・ジョンホー)氏は「近年の韓国における経済混乱は、従業員の7割が障害者である我が社にも深刻な影響を与えている」と、アジア経済全域の経済混乱が障害者の就労の場に深刻な影響を及ぼしている現状を語った。

インマニュエル電子社相談役の申 鍾鎬(シン・ジョンホー)氏 インマニュエル電子社相談役の申 鍾鎬(シン・ジョンホー)氏


 申氏は「韓国には105万3000人の障害者がいるが、うち45万人には仕事がない状況。また健常者でも現在200万人もの人々が失業しており、ソウル駅周辺には仕事をなくした人々であふれかえっている」と韓国における経済混乱ぶりを語った。同氏の電気部品製造会社インマニュエル電子社も、従業員102名(内身体障害者57名)中、障害のない従業員を中心にリストラを断行し、現在57名(内身体障害者40名)まで削減したという。一方で「銀行利子は2倍にはね上がり、物価急騰などの影響によりこうしたリストラや月給削減は功をなさない状態。韓国で唯一政府からの援助なしで、保護雇用ではない一般雇用を行なってきた我が社にも不況の波が押し寄せている」と語った。

 こうした状況に対して、講演者であるアジア太平洋ワークセンターネットワーク(Apwd)事務局長の丸山一朗氏は、「インマニュエル電子社の良好な業績にもかかわらず、IMF(国際通貨基金)に従い銀行が借り入れ金の返済を迫っているのは残念だ」とし、その上で「障害者問題で最も重要なことの一つに職業の問題がある。働く場所がなければ政策も進まない。現在、コンピューターのソフトウェア開発など各国で新しい仕事の開拓が行なわれているが、同社のように地道に草の根的な活動をしてきた会社が厳しい状況にさらされている。せっかくの技術やこれまでの成果が経済不況で後戻りしてしまうのは非常に惜しまれることだ」と続けた。

インマニュエル電子で働く従業員
インマニュエル電子で働く従業員


 また、社会福祉法人太陽の家事務局次長の伊方博義氏は、日本において障害者の実雇用率が民間企業では1.96パーセント(1997年現在)であることに関して「太陽の家ではオムロン(株)、ソニー(株)、本田技研工業(株)などと企業提携し設立した共同出資会社が8社ある。これらは障害者の重要な雇用の場。企業にとっては本社で雇用していることとしてカウントされるので、そのことも追い風になっている」と語った。しかし「現在は世界的なコスト競争に巻き込まれ、工賃の安い中国へ仕事が流れつつある」と経済不況の波の荒さを指摘した。

 社会福祉法人国際視覚障害者後援協会理事長の金 治憲(キム・チーフン)氏はアジアの若い視覚障害者が日本の盲学校へ留学するのを支援していることに対して「鍼・灸・マッサージなど、自分でお金を得るための技術を身に付けてもらいたい」と、サービス業としての仕事のあり方を語った。

左から、丸山一朗氏、申 鍾鎬氏、伊方博義氏、金 治憲氏
左から、丸山一朗氏、申 鍾鎬氏、伊方博義氏、金 治憲氏


 最後のパネルディスカッションでは同四氏と、参加者の意見が交わされた。「インマニュエル電子社のように韓国において障害者にとってシンボル的な会社の存続が厳しいのは非常に残念だ」との感想が出され、申氏が「関心として私たちが困っていることに目を向けて欲しい」と答えた。TRONイネーブルウェア研究会(会長 坂村健 東京大学教授)は、コンピューターや電子機器を障害者の生活向上、社会参加のサポートの目的に利用するための技術研究を行なう組織である。(報道局 清水久美子)

http://tron.um.u-tokyo.ac.jp/TRON/EnableWare/
TRONイネーブルウェア研究会事務局:TEL.03-5702-0348

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