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インターネットの証券取引、普及の鍵を握るのは?

1998年06月15日 00時00分更新

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 先ごろ、ソフトバンク(株)が、米E*TRADE社と提携して、日本にインターネットで証券取引を仲介する会社“イー・トレード(仮称)”を設立すると発表した。イー・トレードは、証券会社が免許制から登録制に移行する'98年12月末に業務を開始、日本版金融ビッグバンの進展によって、証券取引の手数料自由化が実施される'99年末に向けて、本格的な体制を強化していくという。

 すでに米国では、株式売買高の十数パーセントが、インターネットによる取引といわれている。日本でも、既存の証券会社数社がインターネットでの証券取引を開始しているが、まだまだその規模は小さい。

 証券会社最大手の野村証券(株)は、すでに“野村のHome Trade”というサービスを行なっている。しかし、同社のサービスは、“NIFTY SERVE”や“BIGLOBE”などのパソコン通信に加入しなければならず、その他のプロバイダーを経由したインターネットでの株式の取引はできない。同社のホームページのQ&Aからもわかるように、セキュリティー保護のために、パソコン通信を使用せざるを得ないようだ。



 大和証券(株)は、インターネットからのアクセスが可能であるものの、IDとパスワードを入力する画面の下に、“この画面からはブラウザーの『戻る(Back)』ボタンは使用しないで下さい。”と表示されている。これは、セッション管理の都合上、前のページに戻ることができなくなっているためで、インターネットの手軽さが大きく損なわれているのは否めない。また、Webサイトから申し込まれた株式の売買注文は、同証券内の注文を受け付けるホストコンピューターに手作業で入力されているという。



 これまでに株式売買のサイトを開設した証券会社は、いずれもUNIXをプラットフォームとしており、ページをブラウジングする際のレスポンスが悪いという欠点があった。日本の証券会社で、唯一WindowsNTをプラットフォームとしてサイトを開設しているのが第一証券(株)である。

 第一証券の“第一のホームトレード倶楽部”は、通常のインターネットでアクセスできる上、Webからの注文を受け取ると、管理部門を通り、さらに証券取引所と直結したホストコンピューターを経由して、証券取引所に注文の指令を出すことができる。この間約2秒しか時間がかからないという。売買が成立すると、ホストコンピューター内のデータが書き換えられるので、売買注文を出した顧客は、その結果をWebから確認できる。



 このシステムを作った(株)第一システムセンター・システム技術部の齋藤正勝氏によると、このレスポンスの速さは、「WindowsNTをプラットホームにして、VisualBasicでシステムを構築したため」という。また、セキュリティーに関しても、「インターネット上で通信される情報にスクランブルをかけているため、バケットを盗んでもまず解読できない。客のデータベースも暗号化して保存しているので、内部の人間がデータを盗んでも解読できない」と万全だ。



 そして、UNIXに比べて、WindwsNTが優位に立つ点はコストにある。齋藤氏によると、「他社の多くが億円を超えるオーダーで資金投入しているのに、今回のシステムでは、ハードの費用や人件費を含めても、数分の1で済んでいる」という。インターネットによる証券取引が普及するには、売買手数料の自由化が行なわれた際に、手数料を大幅に引き下げられるかどうかにかかっている。WindowsNTをプラットフォームにした場合、プロのプログラマーが必要で、保守費用もかかるUNIXと比べて、相対的にコストが少なくて済む点が、最大のメリットという訳だ。

 ただ、証券手数料の自由化がなされていない現状では、“第一のホームトレード倶楽部”に申し込んでくる顧客は、既存の支店で口座を持っている人が、新たに申し込んでくるケースが多い。着実に増えてはいるが、新たな顧客層が急拡大しているとはいえない状況だ。4月1日の開設以来、1日に平均10口座が開設されているが、5月18日に初めて取引が成立した段階という。また、実際の使われ方は、自分が購入した株の時価をチェックしたり、第一証券が発行する企業分析レポートを閲覧したり、というレベルに留まっている。「手数料が普通の取引と変わらなければ、まだまだ支店に電話して注文するほうがなじみがあるようだ」と齋藤氏は見ている。

 また、Web上に口座を開設するために、オンラインでのサインアップが認められていないのも、普及の大きな足かせとなっている。現状では、印鑑の押された届出書を証券会社に提出しなければならない。証券会社各社は、この規制の撤廃を大蔵省などに申し入れているが、撤廃のめどはたっていないという。インターネットによる証券取引は、単純に手数料が引き下げられるだけでなく、休日や深夜などの営業時間外に注文を受け付けておいて、市場が開いたらすぐに注文を出すこともできるといったメリットもあるだけに、企業努力を損なわせるような規制はただちに廃止すべきだろう。(報道局 佐藤和彦)

・ソフトバンクと米E*TRADE、ビッグバンを機に、証券取引サービス会社設立
 http://www.ascii.co.jp/ascii24/issue/980603/topic07.html

・野村証券“野村のHomeTrade”
 http://www.nomura.co.jp/hometrade/index.html

・大和証券“ホームトレード”
 http://www.daiwa.co.jp/HomeTrade/index-s.html

・第一証券“第一のホームトレード倶楽部”
 http://www.dai-ichi-sec.co.jp/index.asp

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