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京都で“西陣こどもデジタル探検隊”発足。ホームページづくりを通して地域学習を

2000年08月17日 20時20分更新

文● ジャーナリスト/高松平藏

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京都市の西陣地域で、このほど“西陣こどもデジタル探検隊”が結団された。新しく学習指導要領で新設された“総合的な学習の時間”を活用したもので、芸術教育プログラムの実践としてはじめられた。さらには、同プログラムを通じて、西陣地域の活性化や新産業の育成なども視野にいれている。

西陣こどもデジタル探検隊のマーク

西陣を軸にした産学共同のプログラム

西陣こども探検隊の結団式が行なわれたのは7月15日。西陣地区の乾隆、西陣中央、室町小学校の5、6年生20人によるもの。京都造形芸術大学・芸術短期大学の教員や学生も“探検隊”のメンバーとして指導にあたる。

隊員の小学生たちは“探検”を通じて西陣の地域学習を行なう。具体的にはインターネットを活用して、“調べる”、“討論する”、“発表する”ということを行ない、さらには簡易型のデジタルカメラで地域を取材して素材を集める。最終的に西陣地区を紹介するホームページを作成するというプログラムだ。

実際のホームページづくりは8月の後半から。完成したホームページは10月に同地域で行なわれる“西陣夢まつり”で発表される。さらには西陣織工業組合のホームページのコンテンツとして加えられる。

ところで、同プロジェクトは産官学共同で行なわれているものだ。“「総合的な学習時間」活用プロジェクト”と名付けられ、西陣地区の小学校3校、京都造形芸術大学のほか、京都府、京都府中小企業振興公社、京都産業技術振興財団、西陣織工業組合、エデュテイメントビジネス研究会、NTT-X、NTT-MEが参加する共同研究プロジェクトだ。このプロジェクトの中で、“西陣こども芸術プロジェクトチーム”(代表・奈良磐雄氏、中西洋一氏)が結成され、西陣こどもデジタル探検隊が運営されている。地域振興、新しい産業振興、教育分野のプログラム開発を目指す。

西陣地区は近年、空き町家の良さを見出したアーティストが移り住むなど、新たな地域づくりで注目をあびている。また、西陣織の伝統的なデザインがあり、地域が育んだ資源を活用するために“SOHOづくり推進プロジェクト”を京都市は提唱している。西陣こどもデジタル探検隊を通じて目指す新産業育成でも連携していく方針だ。

町家情報発信地“町家倶楽部”。コミュニティスペース、町家活用例のモデルルームを兼ねている
町屋倶楽部の中。もとは工場だった
「マックも朝飯前」。作業にいそしむ“隊員”たち。町屋倶楽部内に設置されたサテライト編集工房
テレビ画面をディスプレーとして活用できるインターネット端末“わくわくステーション”。NTT-MEが開発した。各隊員や先生の家に設置してあるが、文字入力に時間がかかるため、通信手段としての活用はいまひとつ

地域と教育とIT

西陣こどもデジタル探検隊の目的に“総合的な学習の時間”プログラムの開発がある。“総合的な学習の時間”とは、各学校がそれぞれの裁量で総合的、横断的に行なえる学習時間。'98、'99年の学習指導要領で新設された。その趣旨は2点。自分で考え、学び、判断できる問題解決の能力を開発すること、そして、自己の生き方を考えられるようにすることだ。

“隊員”の小学生たちはホームページ制作を通じて、情報リテラシーや共同でものを作り上げていく能力、さらには自ら住む地域の問題点を見つけたり、深く考えることにつながるというわけだ。“隊長”でもある奈良磐雄氏(京都造形芸術大学教授)は「ここ数年でウェブは一般的な手段になった。これからは身や姿勢が問題になってくる」と制作過程の重要性を語る。

これからは価値観の転換が必要だ」と語る“隊長”の奈良磐雄氏

ちなみに、8月初旬に挙げられた探検隊の“調査項目”をみると、“応仁の乱の歴史的背景”、“西陣の人間国宝について”、“西陣織は何につかわれるためか”、“今はどんなものが作られているか”といった項目が並ぶ。実際、小学生たちの親のなかには西陣織をつくっている人も多く、学習を通じて子供たちが地域に対する誇りを持つことにもつながりそうだ。

景観問題を通じて地域問題に取り組んできた奈良氏は「心で感じることや、美といったことはこれまで経済優先の価値観に追いやられてきた。しかも、経済の論理で突き進んできたことを検証することさえなかった。今こそ見直しの時期だ」と地域学習の今日的意義を話す。

目下の問題はコンピューターリテラシー。近年、教育の場にもコンピューターが普及してきたが、学校ごとにその習熟度に差があるのだ。とにかく、最初に行なったのは自己紹介。デジタルカメラで撮った顔写真と紹介した非公開のホームページを2週間かけて作成した。「自分が通う以外の小学校の児童と接する機会が通常ない。まずは仲間意識をつくる」(同氏)。

地域社会の崩壊が叫ばれて久しい。インターネットをはじめ、あらゆる分野でグローバル化の一途をたどるが、一方で地域社会や家族のありようなど、個人の身近な空間が置き去りにされてきた。これに対して、同プロジェクトはITと教育を組み合わせることによって、将来の地域の担い手を育成につながることを示唆している。

「ウェブで地域のことを発信すると、『見られる』という意識がはたらいて、町内のことをよく考えるようになる」と奈良氏は言う。

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