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【レビュー】縦型使用も可能な新デザインを採用した、ザウルス2000年モデル『ザウルスアイゲッティ MI-P10』

2000年08月10日 22時49分更新

文● 編集部 小林久

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シャープのザウルスシリーズは、10年近い歴史を持つ純国産のPDAである。電子手帳文化の延長線上に生まれたザウルスは、住所録やスケジュール管理から、デジタルカメラ、インターネットと機能を広げてきたが、最近は同社のインターネットサービス“シャープ スペースタウン”と連携したコンテンツビューアとしての役割を前面に押し出している。同社が7月に発売した低価格モデルの最新機種『ザウルス アイゲッティ MI-P10』もそのひとつだ。

ザウルス アイゲッティ MI-P10。オプションで縦置きのクレードルが用意されている

タテ表示にも対応した、低価格モノクロ機

MI-P10は、モノクロ液晶の低価格モデル『ザウルス アイゲッティ』シリーズの最新機種だ。外観はパールホワイトを基調に、ブルーとグリーンのクリアパーツをワンポイントで使用した近未来的なデザイン。ザウルス伝統の横向きでの使用に加え、縦書きの電子書籍が見やすい縦向きでの使用にも対応した。位置付けとしては、ビジネス向けの低価格ザウルス『MI-P2』の後継だが、下位モデルの『MI-P1』(初代アイゲッティ)同様、仕事ではなく遊び、ビジネスマンではなく若者/女性をメインターゲットに据えた製品となっている。

横表示のプレイインデックス
こちらは縦表示。メールのタイトルを選択するとその内容が上に流れていく

機能面での目玉は、インターネットからダウンロードした電子書籍(ザウルス文庫)やメールを非常に細かくカスタマイズして表示できる点。本体が縦向きで横書き、同じく横向きで縦書きなど4種類の表示方法を選べる。また、文字サイズや字間などを細かく設定したり、オートスクロール機能を搭載し、キー操作なしに順番にテキストを表示していくことも可能だ。ザウルス文庫は、フォントサイズが自由に変えられるため、視力の落ちてきた中高年に好評と聞くが、表示機能に対する開発者のこだわりが感じられる部分だ。

また、今回から新着メール、受信済みメール、テキスト(ザウルス文庫)、イメージ(ザウルス電子漫画)、サウンド(MP3ファイル)などを一覧表示する“プレイインデックス”メニューを用意。同メニューには、縦表示と横表示のふた通りが用意されており、カーソルキー脇の“プレイインデックスボタン”で切り替えることができる。一覧表示されているメールのタイトルを選ぶとその内容が自動的に流れていく機能や、ペンタッチひとつで、シャープ スペースタウンに接続し、コンテンツを購入できる仕組みなどが盛り込まれており、効率的にザウルス用のコンテンツを利用できる仕掛けとなっている。

ただ、縦表示が選べるアプリケーションは、“メーラー”や“ザウルス文庫ビューア”(電子書籍ビューアー)など、一部に限られており、従来からあるスケジューラーや住所録、ブラウザーなどは横表示にしか対応していない。また、プレイインデックスが縦表示なのに、メールの本文は横表示されてしまうなど、ビューア間の設定がうまく連動してくれないことも多い。そのため、場合によっては本体の向きを頻繁に変えなくてはならず、かえって使いにくく感じることも多かった。

また、縦向きにした際にスタイラスの位置が左上になり、取りにくくなってしまうなど、もともと横向きに設計されたものを縦向きにしたために生じてしまった矛盾も多い。カーソルキーの位置を縦向きで使いやすい中央に配置したために、今度は横向きで使用する際の安定感が悪くなってしまっているのもその一例だ。

コンテンツを一覧表示できるプレイリストや縦表示/横表示が選べるといった発想は非常に面白いが、それにより操作感が悪くなるのは本末転倒である。次期バージョンでは、これらの矛盾点を改善して、より使いやすい機能を提供してもらえればと思う。

さらに薄く、見やすくなったアイゲッティ

ハード面では従来同様、薄く、コンパクトな本体サイズとさらに見やすくなった液晶が印象的だ。MI-P10のサイズは、幅74×奥行き135×薄さ15mmで、重量は160g(本体カバー装着時)。寸法はザウルスシリーズ最小のMI-P1とほぼ同等だ。特に嬉しいのは本体の薄さで、YシャツのポケットやGパンの尻ポケットなどに気軽に入れて持ち運べる。フリップタイプだった液晶カバーはスライドタイプに変わった。取り外しには両手が必要だが、カバー自体が透明であるためそのままコンテンツの参照ができる。通勤時につり革につかまりながらメールを読む際にも邪魔にならず、良く考えられていると感じた部分だ。

液晶カバーは、透明なスライドタイプ

一方、“液晶のシャープ”の本領が存分に発揮されたのが、視認性の高い反射型モノクロ液晶(ハイコントラスト液晶)である。従来から定評のあるザウルスの液晶だが、液晶の地の部分が白に近づいた新開発の液晶を採用することで、さらに見やすくなっている。バックライトは装備していないが、明るい屋外/多少暗い室内のどちらでも画面の内容をしっかりと確認できる。液晶の解像度は320×240ドット(1/4VGA)で、サイズは3.8インチ。16階調のモノクロ表示が可能だ。

本体は非常に薄いため、スロットはTypeIのコンパクトフラッシュとなっている
このようにGパンのポケットにも簡単に入る

高精細な液晶が威力を発揮するのは、やはりウェブブラウジングである。組み込みのブラウザーはHTML3.2に対応しており、フレームの表示も可能。1/4VGAと限られた領域ながら、画像/フォントの縮小表示も可能で、一般的なホームページでも無理なく読める。また、同社の提供する“シャープスペースタウン”で配布されている漫画コンテンツなども非常にきれいに表示できる。

対応する携帯電話はデジタル携帯電話(PDC、cdmaOne方式)とPHSで、DDI Pocketの64kbps通信にも対応している。ただし、搭載しているのがCF TypeIスロットのみなので、CF TypeIIサイズのPHS電話機『P-in-Comp@ct』の接続はできない。本体の薄型化のためだろうが、残念な部分だ。

PCとの同期は相変わらず苦手

さて、PIMやブラウザ/メーラーなど、内蔵アプリケーションの完成度の高さに定評があるザウルスだが、PCとの接続機能とオリジナルアプリケーション(MOREソフト)の追加機能は、PalmやPocket PC(Palm-size PC)に対する大きな弱点とされてきた。MI-P10では、別売のPC接続キットに縦置きのクレードルを用意し、ボタンひとつで、スケジュールやアドレス帳の同期ができるようにした。また、PCとの接続速度を高速化し、同期できるデスクトップアプリケーションを拡大するなどの改善が見られる。

しかし、周辺機器やMOREアプリケーションの追加に関してはまだまだ十分とは言えない。今回、オプションで提供されているザウルス用のMP3プレーヤーキットを試用するために、MP3 MOREソフト(MP3をザウルス側で再生するためのアプリケーション)の転送を試みたが、かなり手間取ってしまった。試行錯誤の末わかったのは、常駐しているPCとの同期ソフト(ザウルスパワーコネクション)と、MP3 MOREソフトに使う転送ソフトがCOMポートを取り合っていたのが原因だった。

ザウルスパワーコネクションをインストールして、次にMP3プレーヤーキットを使用する場合には、おそらく私と同じ状況が生じるが、マニュアルにもトラブルに対する記載がない。初心者などは戸惑ってしまうに違いない。また、MOREソフトのインストール手順に関しても、まずザウルス側でMOREソフトを受け取るためのソフトを起動し、次にPC側からザウルスに接続し、接続が確立したら、データの転送に入る……と複雑な手順を経る必要がある。

これには、PalmやPocket PCがPC上のデータを持ち運ぶのを前提としているのに対し、ザウルスは1台で完結した機能を提供するという開発コンセプトの違いもあるのだろう。しかし、今後はPC上で管理している個人情報やデータを転送したり、自分の必要なソフトを追加して、自分なりにザウルスをカスタマイズするという用途も増えてくるだろう。PCとの連携強化をぜひとも期待したい。

コンテンツ・ビューアとしてのザウルスへの期待

縦向きでの使用が可能なザウルスという、斬新なアイデアを持ったMI-P10だが、同時にそのアイデアがうまく消化しきれていないと感じたのも確かだ。とはいえ、(1)コンテンツを見るためのPDAという姿勢を明確に打ち出している点、(2)高機能なブラウザを始めとした高いインターネット機能を持っている点、(3)1/4VGAクラスの液晶を搭載しながら、薄さ15mmとコンパクトに仕上がっている点など、見るべき点は多い。

高解像度な液晶とウェブの縮小表示機能を持つため、通常のウェブページでも問題なく見られる。写真はアスキーのトップページ

特に(1)は、インターネットサービス“シャープスペースタウン”との連携による同社の健闘が光る部分だ。シャープスペースタウンは、同社製端末を視野に入れたサービスが中心だが、他社のサービスや端末でも利用できるようになれば、PDAや携帯端末向けのサービスとして大きく化ける可能性がある。巷では、Palm、PocketPC、ザウルスの三つ巴の戦いなどと形容されることの多い国内PDA市場だが、その規模はまだ小さく、現状ではそのパイを広げていく段階にある。PDAが単なる個人情報の管理から、肌身離さず持ち歩く、インターネット端末へと変わっていく中、PDAメーカーや各種コンテンツビルダーが、PDAの付加価値をコンテンツの側から提供してくれることを期待したい。

主な仕様
製品名: ザウルスアイゲッティ MI-P10
価格: オープンプライス(実売4万円前後)
サイズ: 幅74×奥行き135×厚さ15mm
重量: 160g(液晶カバー装着時)
CPU: SH-3(クロック未公開)
メモリー: 16MB(ユーザー領域7MB)
液晶: 3.8インチ モノクロ反射型
表示: 320×240ドット/モノクロ16階調
バッテリー: リチウムイオン充電池(27時間)
スロット: TypeI コンパクトフラッシュ×1
通信: デジタル携帯電話(PDCおよびcdmaOne方式)、PHS(DDI64kbps対応)
主なオプション:PC接続キット(CE-P10PK、1万円)、MP3プレーヤーキット(CE-AP1、1万7000円)、携帯電話/PHS接続ケーブル(CE-DT1/CT1/PT1/PT3/DL1、各4500円)

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