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赤い月をインターネット中継で!――“LIVE! ECLIPSE 2000 Lunar”より

2000年07月18日 00時00分更新

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7月16日から17日にかけて、今世紀最後で最長時間の皆既月食を国内で観測することができた。そしてこの模様はライブ!エクリプス実行委員会によって“LIVE! ECLIPSE 2000 Lunar”として全世界へインターネット中継された。

いちはやくインターネットを天文観測に利用した“みさと天文台”

ライブ!エクリプス実行委員会とはボランティアで運営される非営利団体で、日食愛好家をはじめ、アマチュア天文家、学生などの個人、天文台、通信各社などで構成されている。代表はインターネットを活用した天文学普及では世界的に名前が知られている、和歌山県美里町みさと天文台長、尾久土正己(おきゅうどまさみ)氏が務めている。

'97年3月9日のモンゴル・シベリア皆既日食からはじまったこの活動は、以降、月の影の下へ必ず出かけてゆきインターネット中継を行なっており、世界最強の中継チームとしての実力を備えている。'99年8月のヨーロッパ皆既日食中継では、116ヵ国以上からのアクセスで、1400万ヒット、260万ページビュー、同時ストリーム(動画配信)数5600ストリームという記録を樹立した。世界中の人々がこの活動を楽しみにしているのである。

今回の“LIVE! ECLIPSE 2000 Lunar”は全国各地の天文台や学校、オーストラリアからリアルタイムで観測映像が送られた。また東京三鷹の国立天文台と和歌山のみさと天文台からは“月食ライブトーク”が生中継され、月食の解説やコンサートが行なわれた。このレポートでは中継拠点のひとつとなっている、みさと天文台での様子をお伝えする。

屋根の低い建物が“月の館”事務棟、セミナーハウスとして機能している。奥の丸いドームが望遠鏡のある“星の塔”。手前の芝生が観望会の行なわれる“空の庭”
屋根の低い建物が“月の館”事務棟、セミナーハウスとして機能している。奥の丸いドームが望遠鏡のある“星の塔”。手前の芝生が観望会の行なわれる“空の庭”



ユニークな形をした“星の塔”。らせん階段を上って105cm望遠鏡のある最上階の観測室へユニークな形をした“星の塔”。らせん階段を上って105cm望遠鏡のある最上階の観測室へ



みさと天文台は'95年七夕の日にオープンした。105cmカセグレン式反射望遠鏡を備えた国内でも最大規模の公開天文台である。当時、やっとインターネットという言葉が広がり始めた頃だが、みさと天文台は世界に先駆けて、天文台とインターネット結びつけ、精力的な活動を行なってきた。その年の11月にはすでに土星の輪消失現象をインターネットを使って生中継している。

105cmカセグレン式反射望遠鏡。あまりの迫力に言葉がでない105cmカセグレン式反射望遠鏡。あまりの迫力に言葉がでない



翌'96年にはインターネット回線を利用した望遠鏡の遠隔操作のシステムを構築、地球のどこからでも観測を可能とした。これにより地球の反対側の学校では、昼間の授業でみさと天文台の望遠鏡を使った観測授業が実現した。'98年には天文分野の国際シンポジウムが開かれるなど、世界的にも注目を集めている天文台である。

インターネットによるリアルタイム映像と月食ライブトーク

さて“LIVE! ECLIPSE 2000 Lunar”当日、実際のみさと天文台のワーキングを追いかけていく。今回の皆既月食でみさと天文台が行なう柱は大きく4つ。まず公開天文台なので、観望会に来られる来訪者のサポート。次に“LIVE! ECLIPSE 2000 Lunar”に掲載する、月の観測画像のアップロード。同じく“月食ライブトーク”でのコンサート中継。そして最後はもちろん学術研究としての観測である。
 
天文台の研究スタッフは尾久土氏を含めて3名。当日は多くの学生が応援に来て、観測機器の設置からインターネットのセットアップまでを手際よく手伝っていた。

和歌山県美里町みさと天文台長、尾久土正己氏。天文分野でインターネット活用の最先端を常に走る中心的存在
和歌山県美里町みさと天文台長、尾久土正己氏。天文分野でインターネット活用の最先端を常に走る中心的存在



観測チームは望遠鏡に取り付けたデジカメの画像を、5分おきにキャプチャーしてサーバーに送信するのが主な作業である。最初はフルオートで撮影からファイルのアップロードまでのシステムが組まれていたが、直前ソフトウェア的なトラブルで、急遽マニュアルで本番の作業をすることになった。しかし特に慌てることもなく、システムの再セットアップは行なわれた。このあたりは安心して作業を見守ることができた。

“空の庭”に画像配信用のシステムが次々とセットアップされていく
“空の庭”に画像配信用のシステムが次々とセットアップされていく



“月食ライブトーク”は国立天文台からは、太陽系天文学の権威、渡部潤一氏の解説が、そしてみさと天文台からは、中谷泰子さんとAlpha Projectによるコンサートがライブでインターネット流された。みさと天文台でインターネット中継を担当するのは尾久土氏。

皆既月食に先駆けてセミナーが開催された
皆既月食に先駆けてセミナーが開催された



ピアノの弾き語りを披露した中谷泰子さん。透きとおるボイスがとても星空に似合う
ピアノの弾き語りを披露した中谷泰子さん。透きとおるボイスがとても星空に似合う



Alpha Projectの遊動更二氏。こころあたたまる音楽を届けている
Alpha Projectの遊動更二氏。こころあたたまる音楽を届けている



みさと天文台“月食ライブトーク”の本番風景。左から尾久土氏。Alpha Projectの遊動氏。中谷泰子さん
みさと天文台“月食ライブトーク”の本番風景。左から尾久土氏。Alpha Projectの遊動氏。中谷泰子さん



今回の中継はRealPlayerが使われた。国立天文台からのトークと、みさと天文台からのコンサートは、それぞれエンコードしたデータを東京のセンターに送られる。データを受けたセンターでは、そこで再び音声をリミックスして最終的なエンコードを行ない、一般配信用サーバーに送るという2重のシステムを組んでいる。このようにして違う現場のタイミングをあわせ、音声のレベルも調整しているのである。このあたりのノウハウはかなりのものが蓄積されているように感じる。

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LIVE! ECLIPSE 2000 Lunarのホームページから。各天文台から観測された月食の模様が映し出された



RealPlayerによるインターネットライブ中継の模様
RealPlayerによるインターネットライブ中継の模様



もうひとつ、スタッフは限られた時間の中でかなりの作業をこなしていたが、皆既月食の解説セミナーや望遠鏡での観測サポートなど、観望会のでの対応がとても丁寧だったのも印象的である。ひととおり落ち着いた後は、芝生に寝転がり月を見上げるファミリーやカップルなど、それぞれに楽しめたようである。

観望会中、スタッフの解説に耳を傾け、思い思いに月を観察する来訪者
観望会中、スタッフの解説に耳を傾け、思い思いに月を観察する来訪者



ライブ!エクリプス実行委員会の次回の活動は、2001年6月、アフリカでの皆既日食の中継が予定されている。こちらもおおきに期待したい。

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