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【World InfoCon Vol.1】“地球規模の勝者たちとローカルな世界にある敗者たち”の現実をどう解決するか?

2000年07月17日 00時00分更新

文● 岡田智博 coolstates.com

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“2000年記念文化都市イベント”のひとつ“World InfoCon”

EU9都市でそれぞれ展開されている“2000年記念文化都市イベント”。その開催地の1つに、EUの本部機能を持つベルギーの首都“ブリュッセル”がある。この街は、2000年記念文化都市イベントである “ブリュッセル2000” でのメーンイベントの1つに、ヨーロッパのデジタルメディア文化をレビューするイベント“World-Information.Org” を置いた。

World-Information.Org は、ウィーンのNPOによるメディア文化センター“パブリック・ネットベース”が、欧州を中心に世界各地のメディア芸術や文化の専門家をコーディネートしたプロジェクト・プラットフォームだ。

マルチメディアコンテンツを文化振興の重点に置きつつあるEUの姿を先取りしようと、欧州のみならず世界各地のメディアアーティスト(およびオーガナイザー)を迎え、展開している。このイベントにおいて、7月13日より “World InfoCon” というカンファレンスが開催されている。このカンファレンスの模様をこれから連続してお届けしたい。

“ブリュッセル”で開催されている“2000年記念文化都市イベント”のひとつ“World InfoCon”“ブリュッセル”で開催されている“2000年記念文化都市イベント”のひとつ“World InfoCon”



“World InfoCon” は、デジタル社会で人々が取り囲まれる環境のかたちについて、これからのヨーロッパにおける文化ヘリテージとメディア経済を主要な課題として議論するものである。先のWorld-Information.Org がオリジネーターとなり、ユネスコが主催、“ブリュッセル2000”のイベントとして開催した。メディアアーティストやメディア社会の専門家、メディア政策の担当者、インテリジェント・エージェントが多数招かれている。

基調講演として、ユネスコの情報社会部門ディレクターであるフィリップ・カトー氏が“グローバルな知識社会をどう統治してゆくか” をテーマに登壇した。本稿ではこの講演の模様を報告する。

米国中心のインターネット敷設コストとルーティングが問題

ユネスコの情報社会部門ディレクター、フィリップ・カトー氏による基調講演
ユネスコの情報社会部門ディレクター、フィリップ・カトー氏による基調講演



カトー氏は「情報通信の急激な発展が、経済のグローバリゼーションを巨大なものとしており、世界レベルでの大競争時代の真っ只中にある」と認識。「その中で“地球規模の勝者たちとローカルな世界にある敗者たち”が生まれているために、グローバリゼーションがローカルもしくは地域社会にとって常に有益なもので無くなっている」と指摘した。

「様々な独自の事情を抱える地域社会において、多くの場合、グローバル化した経済や技術を前に太刀打ちできなくなるような問題を背負うことになり、このことが敗者を生み出す土壌となっている」と語る。

その一例として、国際間のインターネットの敷設コストに関する不平等を指摘した。ほとんどの国々のISPが、アメリカとのインターネット回線を繋ぐ場合に、これらの国々の側から一方的に通信コストを支払わなければならない状態を説明。このことが「第三世界におけるインターネット接続の発展を阻害している」という。

また、「インターネット接続における米国中心のルーティングは、その大容量の通信コストの低さを含め、米国での経済活動に圧倒的な優位性を与えており、極めて米国に優位なグローバリゼーションが展開されている」と語った。

会場内の模様
会場内の模様



ユネスコが果たす責務――国際的なレギュレーションの存在

カトー氏は、「サイバースペースがもはや特別な世界ではなく、現実に人々に大きな影響を地球規模で及ぼす場」であるとし、「サイバースペースの公共性に一層目を向け、そのための環境整備、特に国際的なレギュレーションの存在がより必要になる」と語った。

レギュレーションを必要とする根拠の例として、まず、「企業のみならず米国を中心とする英語圏の諸国による“エシュロン”による情報収集の疑いなどがある。国家レベルにおいても取り放題、使い放題になっている個人情報とその蓄積、交換は、個人のプライバシーを剥奪する可能性を大きく持つものである」と指摘。

また、「通信事業者の国際的な独占傾向は、もはや社会を成立する上で必要不可欠になっている通信インフラストラクチャーの独占者によるコントロールにつながる。大いに人々、特に第三世界に住む人々など弱者ともいうべき存在に不利益をあたえるものになる」と指摘した。

更に、「米国を中心とする広範囲におよぶ特許などの知的所有権の濫用ともいうべき状況は、サイバースペースにおける過度の独占を招くことにつながり、中小の事業者に対する参入障壁となっている」とカトー氏は唱える。

カトー氏は、レギュレーションの必要性を論ずる一方で、「サイバースペースを機軸に、グローバル経済での勝者として巨大化し、地球規模での独占を行なってきた企業は、今のようにレギュレーションの無い状態で利益をあげてきた。しかし、“フェアユース”“フェアトレード”に向けて、そのレギュレーションを実現するためには、こういった企業は不利益を被ることになる。大きな壁が幾つも立ちはだかっている」と語った。

カトー氏は、その上で「このようなグローバルマーケットは、それに対応した知識やスキルをあまねく人々が持ち続けなければ成り立たない」と語る。そのためには「今までの一定時期に学ぶという教育のかたちから、生涯にわたって知識が学べる機会が必要」であると述べた。

また「教育の現場にインターネットや情報通信基盤が導入される必要性がある」、「情報通信分野に属する事業者が積極的にその導入を支援することが必要である」と語り、これら、新しい現実に対応した教育の普及は、サイバースペースの公共性に欠かせない事項であるとした。

「これを第三世界も同じくに地球規模で、どのようなかたちで実現するかは、サイバースペースに携わる存在にとって協同で取り組まなければならない事柄である」。その中で国際機関であるユネスコの責務は特別なものがあると語った。

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