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日本経済の鍵をにぎるベンチャーとキャピタリストのありかたは?――ベンチャー・フォーラム2000(後編) 、パネルディスカッションより

2000年07月11日 00時00分更新

文● 船木万里

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10日、東京都庁の大会議場において“ベンチャー・フォーラム2000”と題したイベントが催された。主催は東京都、東京商工会議所、日経BP社。午前中は、慶應義塾大学環境情報学部教授、村井純氏による基調講演とパネルディスカッション、午後からは実務者対象のセミナーがあった。また、併催フォーラムとして、都庁近くのホテルにおいても、“コラボレーションフォーラム”、“プレゼンテーションフォーラム”が開催された。本稿ではパネルディスカッションの模様をお伝えする。

“収益を挙げられるモデル”を持ち、大企業との提携も視野に

村井純氏の基調講演の後、続いて4人のパネラーを迎えてのパネルディスカッションが始められた。司会はモバイル・インターネット・キャピタル社長の西岡郁夫氏。パネラーには、(株)ドリームインキュベーター代表取締役社長の堀紘一氏、(株)インスパイア代表取締役社長の成毛真氏、(株)インターネット総合研究所代表取締役の藤原洋氏、(株)ネオテニー代表取締役社長の伊藤穣一氏の4名が登場した。

有望なベンチャー企業を発掘し、投資をするという仕事を始めたばかりの堀氏は「いいアイデアを持っていても、どうやって儲けるかを考えていない人が多すぎる。きっちり収益を上げられるビジネスモデルを考えなければ、ベンチャー企業として成功できない」と指摘。

アメリカでは30代でも人間的にも成熟している人が多い。それに比べ日本の社会人は全般的に子どもっぽすぎる、などと苦言を呈しながらも、これから事業を興していきたいという夢を持つ人々を、野球場の外野にいる応援団のように支援していきたい、と述べた。

ドリームインキュベーター代表取締役社長、堀紘一氏
ドリームインキュベーター代表取締役社長、堀紘一氏



成毛氏の会社では、一部上場企業などのファンドマネジメントを業務の中心とし、さらに、アメリカから参入してきた会社などへの、トップクラスの人材派遣などをサポートしている。成毛氏は、「IT系ベンチャー企業には投資しない」と言い切る。

ベンチャー企業のあり方については、「既存大企業とのリンクが必要なのではないか。革新的なビジネスモデルを持っている優れた企業であれば、大企業との提携によってさらに成長できる。大企業にとってもそうしたベンチャー企業の姿勢が刺激となり、お互いにプラスとなる」と語った。 

インスパイア代表取締役社長、成毛真氏インスパイア代表取締役社長、成毛真氏



投資家はモラルを持って投資を。ベンチャーはリスクの重みを認識すること

藤原氏の会社は、ルーター、サーバーの運用技術を提供するというサービス事業で成功。昨今のネットバブルでは、株価の急激なアップダウンに見舞われた企業のひとつである。

藤原氏は「インターネットを利用したこともないような投資家が、証券会社に乗せられてIT系企業株を買うなど、個人投資家と企業間のインターフェースが確立されていないため、このようなネットバブルが起こってしまったのではないか」と述べ、投資家にも自己責任をもってほしい、と話した。

インターネット総合研究所代表取締役、藤原洋氏インターネット総合研究所代表取締役、藤原洋氏



この10年でベンチャー企業10数社の立ち上げに関わった伊藤氏は「失敗をいろいろ経験し、ようやく起業とはどういうものかが分かってきた。最近は、ベンチャーキャピタルの投資を受けて企業を立ち上げ、ビジネスを軌道に乗せる整備をお手伝いするという仕事が中心」

「今はベンチャー企業に対し、大企業がぽんと大金を出資してくれたりする。自分が10年前、伯母に300万円を借金して、必死で会社をつくったことを思えば、社会自体が大きく変わった。しかし、何千万、何億の出資を当然のように受けて、新事業を興そうという若い人たちを見ていると、これで失敗したらどういうことになるのかというリスクの重みが、あまり分かっていないように思える。会社に対する展望も短期的すぎる」と批判した。

その一方で「あと数年もしないうちにこのノイジーな状況が淘汰され、本当に価値のあるベンチャー企業だけが生き残っていくのでは」と期待を語った。

ネオテニー代表取締役社長、伊藤穣一氏ネオテニー代表取締役社長、伊藤穣一氏



  司会の西岡氏は、こうした発言を受け、「私も優良ベンチャー企業に出資する仕事を始めて3ヵ月ほどになる。数十人の社長と面接したが、なかなかこれはという企業には巡り会えない」と語った。最近のIT関連ベンチャー企業は、お金が集まりすぎてスポイルされているきらいがあるようだが、今後、骨太なベンチャー企業を育てるためには何が必要だろうか、と意見を求めた。

モバイル・インターネット・キャピタル社長、西岡郁夫氏
モバイル・インターネット・キャピタル社長、西岡郁夫氏



やがて自然淘汰されるベンチャー企業。生き残る骨太なベンチャー企業とは?

堀氏は「ナスダックでは昨年度、上場数より廃止された数の方が多くなっている」と、ベンチャー企業の浮沈の激しさを指摘。

「現在のベンチャー企業に対する投資は正常ではない。今の株式市場はまるで競馬場。しかしこの状態もあと数年で、企業としての本物とニセモノの価値の見極めができていくにつれ、自然淘汰されていくはずだし、そうならなければ日本の経済もダメになる」
 
伊藤氏は「今は、情報を持っている人が何も知らない人をだまし、損をさせて儲けている。社会全体がインテリジェントになることで、こうした状況も変わっていくはず。無責任な投資が減ってくれば、価値のあるベンチャー企業が、リアルワールドすなわち大企業などと提携して、成長していける。あとはベンチャー企業自身が、謙虚な気持ちを忘れずにビジネスを進めていくべき」と語った。
 
藤原氏は「人をだまして売り抜けたりする現在の状況はよくない。まず社会的モラルが大切。投資家は自分の判断でよい会社を選び、投資してほしい。また、投資してもらう側としては、ベンチャーキャピタルには、お金を出すだけでなく、正しい経営指導をお願いしたい。専門的技術の客観的評価、さらには、自分たちの志、自立心が正しい方向であるかどうかを評価してもらうことで、企業として成長していける」と、ベンチャー企業側からの提言をした。
 
成毛氏は「ベンチャー企業で成功しようと思えば、まず視野をグローバルに広げ、自社製品の輸出を考えること。日本だけしか考えていないベンチャー企業はまず成功しない。また、当然キャッシュフローも重視すべき。さらに、会社としての大きなテーマを掲げること。技術がよければ何でも売れると思っていてはダメ。昔の松下電気が、日本のすべての家庭に家電製品を普及させることを目標としたように、社会の枠組みを変えてやる、くらいのスローガンをもっている会社は伸びていく」と語った。

左から、モバイル・インターネット・キャピタル社長西岡郁夫氏、ドリームインキュベーター代表取締役社長の堀紘一氏、インスパイア代表取締役社長の成毛真氏、インターネット総合研究所代表取締役の藤原洋氏、ネオテニー代表取締役社長の伊藤穣一氏
左から、モバイル・インターネット・キャピタル社長西岡郁夫氏、ドリームインキュベーター代表取締役社長の堀紘一氏、インスパイア代表取締役社長の成毛真氏、インターネット総合研究所代表取締役の藤原洋氏、ネオテニー代表取締役社長の伊藤穣一氏



ベンチャー企業を安易にもてはやさず、鍛錬していく

最後に堀氏は「今はベンチャー企業側も、面白いアイデアさえ出せばいい、と考えがちだが、そのアイデアを、例えばソニーのような企業に利用されてしまえば勝ち目はない。ベンチャー企業はまず安定した収益を上げ、それを長期的に持続することを考えなければならない。本物の価値ある企業を育成するためには、社会全体としても、今のようにベンチャー企業を安易にもてはやさず、鍛錬していくべき」と警告した。そして「明日のソニーやホンダをつくるために、私塾をやるつもりでベンチャー企業の社長に会っている。一流のビジネス訓練をすることで、一流の企業をつくる手伝いをしたい」と語った。

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