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米国ビジネススクールのエッセンスを――シリコンバレーの名物ITコンサルタントが講演

2000年06月26日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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ネットビジネスへの注目度が高まる中、大阪で本格的なネットビジネスをテーマにしたセミナーが開催された。講師は世界を舞台に活躍するシリコンバレーの名物ITコンサルタントのピーター・C・ウィルトン博士。肩書きはカリフォルニア大学バークレー校ならびにスタンフォード大学教授だが、米国内にあるビジネススクール各校でも教授を務めている。

また、オラクル、サン・マイクロシステムズをはじめシンガポール航空、マクドナルド、そして日本ではNTT、武田薬品工業などのコンサルティングやIT情報研修を担当するといった実績を持ち、その他にもミシガン大学と合同でインターネットの世界的市場調査活動なども行なっている。年中世界を飛び回っているため著作をまとめる時間がなく、日本での知名度は今ひとつだが、毎年日本に訪れていて、今回のようなセミナーは4年目となる。

2日間にわたって行なわれたセミナーはカリフォルニアスタイル。講師をぐるっと取り囲み、質問があればその場で受付けるというインタラクティブな形で進んでいく。最初は自己紹介の代わりに、参加者どうしがインタビューを行ない、発表しあうという形式もユニーク。日頃、人に質問をしたり、その答えを発表する機会が少ない日本人にとっては、多少とまどうところもあるようだが、発言することで一気に緊張がほぐれていく
2日間にわたって行なわれたセミナーはカリフォルニアスタイル。講師をぐるっと取り囲み、質問があればその場で受付けるというインタラクティブな形で進んでいく。最初は自己紹介の代わりに、参加者どうしがインタビューを行ない、発表しあうという形式もユニーク。日頃、人に質問をしたり、その答えを発表する機会が少ない日本人にとっては、多少とまどうところもあるようだが、発言することで一気に緊張がほぐれていく



マスマーケティングではなくマスカスタマイズを

マーケティング調査や日々のコンサルティング業をベースにしたセミナーの内容は最新のものばかり。もちろん、博士独自のアイデアに基づいた理論も次々と飛びだす。
 
ウィルトン博士が重視しているのは、マーケティングツールとしてのインターネットである。こうしたセミナーでは、ネットビジネスでも技術的な話題に偏ってしまうものだが、博士の場合は、実体験に基づいた、顧客お客の顔が見える、リアリティーのある話が中心だ。

「みなさんはアメリカでネットビジネスが流行っていて、インターネットを取り入れればどんな会社も成功するという話を聞いているかもしれませんが、ご存知のとおり、それは大きなまちがいです。むしろ、顧客は情報が多いがゆえに目移りし、すぐに新しいサービスへとすぐに飛びついてしまいます。オンラインショップは何度もくり返し使ってもらうようにするのが一番むずかしいのです。そこで必要になるのはITを使って顧客と深い関係を築くこと。単なる情報提供だけではない具体的なメリットを提供したり、異業種と手を組んで、顧客の総合的なニーズに応えるのもひとつの方法です。そうした横つながりが簡単にできるのが、本来のITの強みなのです」

全体の進行は同時通訳だが、データやグラフを使った分かりやすい内容で、参加者はいつしか博士が英語を話しているのも忘れて熱中していく
全体の進行は同時通訳だが、データやグラフを使った分かりやすい内容で、参加者はいつしか博士が英語を話しているのも忘れて熱中していく



ネットビジネスでは、従来のマスマーケティングではなくマスカスタマイズ、つまり、顧客のニーズに合わせてサービスをカスタムメイドしなければならないと博士は語る。

「マスカスタマイズにはパワーユーザーからのフィードバックが大きな情報源となります。もし、あなたの店にインターネットであらゆる情報を得てきた賢い顧客がやってきたら、大変だなと思うかもしれませんが、これは大きなチャンスなのです。そうした賢い顧客がもたらすサービスのチェックや新しい可能性を見逃してはいけません。逆に賢い顧客がやってくるビジネスでなければ成功しません。顧客からのユニークなメッセージをどう受け止め、ビジネスにつなげるか。既存のマニュアル式の対応では、すばらしい情報を見逃してしまうでしょう。これからの企業には、顧客本位のサービスオペレーションと柔軟なコミュニケーションが求められるのです。そして情報をデータベース化する。ただの記号化された情報は何も意味をなさないのです」

ウィルトン博士は世界のインターネット市場に関する学術的な調査研究にも参加しており、その中には75ヵ国を対象に、6000人を越えるデータを集めたというものもある。「数字が万能とは思っていないが、今の段階では見えてくるものも大きい」と言う。「ネットビジネスではワンtoワンであることを強制される。顧客をセグメントし、個性にどう応じていくのかが成功につながる」とも
ウィルトン博士は世界のインターネット市場に関する学術的な調査研究にも参加しており、その中には75ヵ国を対象に、6000人を越えるデータを集めたというものもある。「数字が万能とは思っていないが、今の段階では見えてくるものも大きい」と言う。「ネットビジネスではワンtoワンであることを強制される。顧客をセグメントし、個性にどう応じていくのかが成功につながる」とも



常に変化し続けるネットビジネスに完ぺきさは不要

ウィルトン博士はネットビジネスがもたらした市場変化として1.マーケットシェアの独占から顧客の独占へ、2.製品技術から市場技術へ、3.大量生産からマス・カスタマイゼーションへ、4.規模から範囲の経済へ、5.市場のセグメントから分裂へ、という5つの要素をあげている。さらにこれからは本格的に“.corp(コーポレーション=従来型企業)”vs“.com(ネットビジネス企業)”の構図が明確化するだろうとしている。

「従来型企業に対してネットビジネスが対抗できるのは、そのスピードの早さです。ああだこうだとアイデアを練っているうちに、フットワークを活かして先に形にできてしまう。何も最初から完ぺきなものを作る必要はありません。むしろネットビジネスは常に変化しなければなりませんから、顧客情報が得られる仕掛けと、それをすぐにフィードバックできるシステムを構築すればよいのです。その際に、ビジネスにきちんと目標があれば、どんなシステムを構築すればいいかプロにアドバイスしてもらえますし、新しい技術が登場してもすぐに取り込めるのです」

ASPやさまざまなネットビジネスのプロが登場しており、アウトソーシング化もひとつの道となっている。どんなコラボレーションをすればよいのか、そうした情報を探すのもインターネットならできるだろう。また、そうしたサービスを行なう新たなネットビジネスも登場している。

「インターネットは自分のビジネスを再定義するもの」とウィルトン博士は断言する。

「古いしきたりに捕らわれず、かといって目新しさだけでもない。今あるビジネスの可能性を拡げられるのがネットビジネスの醍醐味なのです」

セミナーの中ではグループを組んでネットビジネスのシミュレーションを行なう実習のようなメニューも盛り込まれている。そこでは参加者の実際のビジネスがテーマになっていた。参加者の中には西海岸のビジネスモデルをもうすぐ日本で展開するという若手ベンチャーもいたが、博士のアドバイスで「ビジネスはスピード」を実感しサービスの開始を前倒しにしたという話も
セミナーの中ではグループを組んでネットビジネスのシミュレーションを行なう実習のようなメニューも盛り込まれている。そこでは参加者の実際のビジネスがテーマになっていた。参加者の中には西海岸のビジネスモデルをもうすぐ日本で展開するという若手ベンチャーもいたが、博士のアドバイスで「ビジネスはスピード」を実感しサービスの開始を前倒しにしたという話も

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