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映像コンテンツを共有化する次世代プラットフォーム―――次世代デジタル応用基盤技術開発事業及び先端的情報化推進基盤整備事業に係る成果発表展示会より(後編)

2000年06月07日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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1日、東京・千代田区の赤坂プリンスホテルにおいて、IPA(情報処理振興事業協会)の主催により、“次世代デジタル応用基盤技術開発事業及び先端的情報化推進基盤整備事業に係る成果発表展示会”が開催された。これは'98年度の国家補正予算によって実施された、ソフトウェアやハードウェア技術開発事業の研究成果を発表するイベント。

先進的、戦略的な研究を実施する“次世代デジタル応用基盤技術開発事業”からは、413件の応募のうち74件が採択された。また、より基盤的で、情報技術の利用分野を拡大し、産業技術の課題に応えることを主眼にした“先端的情報化推進基盤整備事業”では、95件のうち12件が採択された。

成果発表会は、ネットワーク、高度コンピューティング、ヒューマンインターフェース、マルチメディア、基盤ソフトウェア、デバイスの関連技術コーナーに分けて展示された。本稿では、成果発表会で展示された技術や研究の中から、マルチメディア関連をピックアップして紹介する。

次世代の映像制作プラットフォームで、映像コンテンツを共有化

東日本電信電話(株)は、“次世代映像制作ネットワークシステムの開発及び実証実験”と題して、映像コンテンツの制作、編集、試写、流通、マルチユースなどの一連の工程をサポートする映像制作用情報アーキテクチャーNVIA(Next Generation Video Information Architecture)を発表。そのプラットフォームとなるNVIP(Next Generation Video Information Platform)とアプリケーションを展示していた。

NVIPは、パソコンやワークステーションをネットワークで接続し、いつでも誰でも映像を制作できるような環境を目指している。映像データの特徴を検出して構造化する機能や、コンテンツの配信・管理、圧縮・伝送機能を持つマルチメディアサーバー、流通の際のセキュリティー機能(暗号化と復号化)を備えているセキュリティーサーバー、APクライアントで構成する。APクライアント側ではマルチメディアコンテンツ統合作成機能と絵コンテ作成機能、セキュリティー機能などを稼動できる。

アプリケーションとなるマルチメディアコンテンツ統合作成機能は、コンテンツの共有からスケジュール管理までをサポートする。また、絵コンテ作成機能は、シーンやカットをタイムコードで管理する。各カットに対して、VRMLや2D、キャプション、ダイアログノートを設定できるようになっている。

絵コンテ作成機能の画面。3次元的に表現できるので、絵コンテの段階で視点を変えれば、カメラをどこに設置すればよいのか分かる
絵コンテ作成機能の画面。3次元的に表現できるので、絵コンテの段階で視点を変えれば、カメラをどこに設置すればよいのか分かる



今回の実験では、NVIPサーバーがある大手町と横須賀のサイトから公衆回線を使って、国内の実験サイトをつなげたり、専用線(ATM)で国内外のサイトとも検証を行なった。その結果、デジタル映像のコラボレーションや、映像の修正、変更作業が容易になり、その有効性を確認できたという。

MPEG-4プラットフォーム検証用ビットストリームの開発

(社)日本電子機械工業会は、MPEG-4*プラットフォーム検証用ビットストリームを開発し、その展示を行なった。MPEG-4は、携帯電話やモバイル端末、特に2001年からサービスを開始する次世代携帯電話システムIMT-2000の動画像通信機能を実現するものとして、現在注目を浴びている。

*MPEG-4:ISO/IEC、JTC 1/SC 29/WG 11において符号化方式が審議され、'99年12月に標準書発行手続きが完了した。MPEG-1やMPEG-2と比べて、1.2~2倍程度の情報圧縮率をもち、伝送誤りに強い符号化、実装が容易などの特徴がある。

今回の実験には、東芝、三菱電機、日本ビクター、日立製作所の5社が参加した。MPEG-4のシンプルプロファイルに準拠した各種映像と音声のビットストリームを開発、それが実際にMPEG-4規格に準拠しているかどうかを検証するツールを作成した。実際には約160本のビットストリームと、4種類のストリーム検証ソフトを作った。ここで作られたストリームのうち120本が、MPEG-4規格の正式な検証用ビットストリームとして、ISO/IEC14496-4規格に採用された。

日本電子機械工業会のブースにて。MPEG-4検証用ビットストリームを再生
日本電子機械工業会のブースにて。MPEG-4検証用ビットストリームを再生



美術品を忠実に再現する新しい画像記録再現システム

三菱電機(株)や千葉大学などが共同で取り組んでいる研究が“分光情報に基づく高精細デジタル色彩画像記録再現システムの開発”である。従来のデジタルカメラなどでは、撮影した画像をRGBデータで記録していた。これを同社が開発したマルチバンド撮影という方法を使って、被写体の色の基本情報(分光反射率)を記録し、微妙な色変化をともなう美術品や文化財などを高精細に再現するというもの。

専用CCDカメラに5枚から8枚のフィルターを被せて順次、対象物を撮影していき、分光画像処理ソフトでノイズの処理や光学的なひずみを補正する。その後、各画素ごとに分光反射率を推定する。デモンストレーションした撮影画像では、380nm~780nmまでの可視光を10nm間隔で推定しているため、データ量が数100MB以上になってまうという欠点がある。そのため、画像でータの主成分を分析し、寄与率の大きい成分だけを圧縮保存してデータ容量を削減している。

著作権の関係で上の写真ではサンプルデータを使っているが、色彩は確かに良かった。撮影する際の工数と、データ量の大きさを解決できれば実用化も可能だ著作権の関係で上の写真ではサンプルデータを使っているが、色彩は確かに良かった。撮影する際の工数と、データ量の大きさを解決できれば実用化も可能だ



また、この画像は分光画像伝送システムと再現システムによって、インターネットを介して家庭や電子美術館で閲覧できるように設計されている。そのため、各独自のプラグインソフトを利用し、IEで画像を閲覧できるようになっている。分光反射率を利用するメリットには、光源の特性が分かれば、その場の光源による見え方を忠実に再現できる点にある。たとえば、太陽光や蛍光灯下で鑑賞した際の、そのままの条件で被写体の見え方を再現できるようになる。 

紙書籍出版と電子書籍出版をワンユースで

大日本スクリーン製造(株)は、“高品質デジタル書籍出版のためのソフトウェア”を開発した。これらは紙書籍を出版する際の“組版”と“製版”工程と、電子書籍出版の工程を1本化するために研究されたシステム。また、同社の日本語組版技術を活かし、電子書籍を読みやすく表示する技術も併せて展示した。

このシステムは、コンテンツをXML化することで、1つのソースを紙書籍用と電子書籍用として利用できるようにするもの。DTPで作成した文書データをXMLコンテンツに変換する“レガシーツール”、紙書籍出版用の“印刷用スタイルエディタ”、電子書籍出版用の“ビュア用スタイルエディタ”(XS-1)、それを閲覧するための“電子書籍ビュア”(XV-1)などで構成する。

紙書籍出版の工程では、“印刷用スタイルエディタ”を使って、XMLコンテンツをレイアウト情報や組版スタイル情報を付与した印刷用スタイルエディタ文書にする。ここで、ローカライザーを使ってDTP文書(同社のPageComp用文書)に変換し、紙書籍として流通させる。また、電子書籍出版用の工程では、“レガシーツール”を使い、DTP文書をXMLコンテンツに変換したあと、出力メディアに対応したスタイル情報(マージン、縦/横組み、段数、文字サイズ、背景色など)や、ナビゲーション情報(メモ、マーカー、リンク)を付与して電子書籍化する。

電子閲覧ビューアは、パスワードを指定することで、コンテンツを閲覧できるようにした。電子閲覧ビューアと電子書籍サンプルについては、同社のサイト(http://www.provision.or.jp/sbv/)から無償でダウンロードできる。また、エディターについては、今年の9月を目処に発売する予定。エディターの価格は30万円から50万円ぐらいを予定しているという。


ウェブには横組みの長文は読みにくい。組版技術をを活かして読みやすくした画面(クリックすると拡大表示されます)

これ以外にも、16台のカメラで撮影したビデオ画像から、臨場感のある3次元モデルを構築するシステムや、ソフトモーションキャプチャーを応用した映像制作システムなど興味深い展示もあった。

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