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TRON Project、データキャリアチップ用の新OS仕様“eTRON”を発表

2000年05月31日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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TRON(The Real-time Operating system Nucleus)Projectを推進する(社)トロン協会は30日、第12回通常総会を記念し、同プロジェクトの創始者である東京大学の坂村健教授による講演会を開催した。情報家電分野に向けたOS仕様の実現を目指し、ネットワーク家電開発用ミドルウェアといった次世代プロジェクトを紹介した。

東京大学教授の坂村健氏 東京大学教授の坂村健氏



TRON Projectは、発足から今年で17年目を迎える長寿のプロジェクト。ソニーや三洋電機がJTRON*採用のAV製品を発表したり、トヨタ自動車(株)がエンジン制御システムにITRON*を採用した新型車を発表したり、パーソナルメディア(株)のBTRON*仕様OS『超漢字』が発売1ヵ月で3万本を販売したりと、昨年は話題の多い年であった。

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ITRON(Industrial TRON)は組み込みシステム用リアルタイムOSの仕様、JTRON(Java Technology on ITRON)はJava実行環境をITRONに実装したリアルタイムOSの仕様、BTRON(Business TRON)はパソコンやワークステーション用のOSの仕様である

21世紀を目前に控え、「TRON Projectは第2ステージに入った」という坂村氏。市場の趨勢や、これまで開発してきた個々のアーキテクチャーが成熟しつつあることを受け、今後は“ポストパソコン時代におけるネットワーク家電用OS仕様の構築”をプロジェクトのテーマに据えるという。コンピューター内蔵の機器がネットワークで接続されて協調動作する“超機能分散システム”の実現という、同プロジェクトの最も重要な達成点に一歩近づいたというわけだ。

「1つの会社のOS、1つの会社のプロセッサーで――という時代は終わった。21世紀は、ネットワークで結ばれたコンピューター群で消費者に何を提供するか、システム全体を使ったサービスに注目しなければならない」と繰り返した。

新OS仕様“eTRON”

坂村氏はまず、データキャリアチップ用の新OS“eTRON(イートロン)”を発表した。データキャリアチップとは、ICカードに内蔵する専用チップで、内部を覗けない“耐タンパ”仕様のワンチップマイコンと、電源が切れてもチケットデータが失われない不揮発性メモリーを搭載する。

磁気カードが磁気ストライプがカードに貼られているのに対し、ICカードはCPUとメモリーを埋め込んでおり、記憶容量だけ見ても100倍以上の性能を発揮する。これにeTRONを組み込んで、暗号処理機能や内部に埋め込むカード固有のIDなどと組み合わせ、ハッキングや偽造に対抗できるセキュアな環境を実現しようというものだ。

既に、東京大学博物館が3月に開催した企画展“デジタルミュージアム2000”で非接触型ICカードのデモを行なっているが、現在、坂村氏の研究室で開発が進行しているという。

“デジタルミュージアム2000”より。非接触型ICカードと、カードリーダー/ライターのデモを行なった。来館者は気に入った情報をチェック。博物館のサーバーが、ID・パスワードと共に、これらの“お気に入りの情報”を記憶する。来館者は帰宅後、展示会サイトに接続しID・パスワードを入力、来館時にチェックした項目の情報を見ることができる
“デジタルミュージアム2000”より。非接触型ICカードと、カードリーダー/ライターのデモを行なった。来館者は気に入った情報をチェック。博物館のサーバーが、ID・パスワードと共に、これらの“お気に入りの情報”を記憶する。来館者は帰宅後、展示会サイトに接続しID・パスワードを入力、来館時にチェックした項目の情報を見ることができる



情報家電を協調動作させるためのミドルウェア

また、プロジェクトを実現する別の試みとして、情報家電を協調動作させるためのミドルウェア“情報家電のためのソフトウェアプラットフォーム”を紹介した。

これは、μITRON仕様のリアルタイムカーネル上に、Javaの実行環境を備えたJTRON 2.0と、CORBAをベースに情報家電の連携動作のための高レベル通信プロトコルを処理するという組み込みCORBA、そしてGUI構築支援用のライブラリー群をのせたもの。これをもとに、機器の制御用のアプリケーションなどを追加することで、例えば携帯電話1台で、ネットワークに接続された複数の家電を操作したり、情報のやり取りを行なったりするシステムを構築できるという。

ソフトウェアの全体構成。今回、★印を開発した(参考:トロン協会2000年5月30日発行『The TRON Project』)
ソフトウェアの全体構成。今回、★印を開発した(参考:トロン協会2000年5月30日発行『The TRON Project』)



トロン協会は、このミドルウェアの開発に向け、一昨年にプロジェクトを立ち上げた。そのソースプログラムは、CD-ROMなどを通じて、本日より無償で配布される。実行にはITRON仕様のOSと、Java Virtual Machineが別途必要となる。

“情報家電のためのソフトウェアプラットフォーム”を使ったシステムのイメージ。携帯電話を使って、電子レンジに指示を出している
“情報家電のためのソフトウェアプラットフォーム”を使ったシステムのイメージ。携帯電話を使って、電子レンジに指示を出している

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