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【関西ミュージアム・メッセ2000 Vol.2】アナログからの画像データベース。現場で培ったノウハウをデジタル化する印刷会社、美術品修復会社

2000年05月29日 00時00分更新

文● 高松平藏/ジャーナリスト

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  • 本文印刷

昨今、あらゆる分野でIT技術の活用が図られている。IT分野といえば、一見勘や経験を頼りにする職人仕事と縁がなさそうな印象がある。しかしながら、現場で培ったノウハウをデジタル化することで新たな事業分野に進出している会社も少なくない。24日から27日まで行なわれている“関西ミュージアム・メッセ2000”からレポートする。

高精細の印刷技術を画像データベースへ

「“より写真に近づきたい”が原点です」というのは、岡村印刷工業(奈良県高市郡、岡村元嗣社長)で市場開発の部署に属する宮内康弘さん。数年前から同社は本業の印刷のほかに画像データベースを取り扱う事業に着手。学芸員向けの収蔵品の検索システムなどへ展開している。

写真集と同内容のCD-ROMを持つ宮内康弘氏
写真集と同内容のCD-ROMを持つ宮内康弘氏



本業である印刷では高精細の美術印刷が同社の得意分野だ。印刷はコンピューターグラフィックスと同じく、点(正確には線)の集積で表現される。通常1インチ四方あたり175線で印刷されるが、同社の場合1000~2000線での印刷を可能にしている。高精細になるほど、色の深みが表現でき、モアレなどが防げる。

この技術は特殊な機材を使うのではなく、工程管理技術の工夫と、インクの調整具合など、印刷機を操作するオペレーターが現場での試行錯誤を集積、ノウハウとしてデジタルデータ化することで実現した。高い質を求められる文化財や美術品の画像データも同様。スキャニングのコツや関連ソフトの使い方などを高精細印刷の手法を確立するなかでつかんでいった。

最近では平面の美術作品をスキャンし、プリンターで出力するサービスもはじめた。美術作品専門のデジタル・オン・デマンドだ。たとえば、版画家が自らの作品を世に出したいが、オリジナルは自分の手元においておきたいという場合などに利用されているという。

インクジェットで打ち出した版画。美術作品のデジタル・オン・デマンド時代の到来を思わせる
インクジェットで打ち出した版画。美術作品のデジタル・オン・デマンド時代の到来を思わせる



重要、デジタルの元としてのアナログ

いったんデジタル化されたデータは扱いが楽になるが、高品質の画像が求められる分野では特に素材づくりには手間がかかる。文化財のレプリカ製作や文化財原本の修復、マイクロフィルムの撮影などを行なってきたナカシャクリエイテブ(名古屋市、河合 保社長)も最近、高精細デジタル画像を利用したビジネスを展開しはじめた。近年ソフトやハード、圧縮技術が飛躍的にのび、値段も下がってきたことがその背景だ。

「デジタルデータといってもベースはアナログなんですよ」というのは、同社で文化施設を担当する和田紳一氏。強みは「元のポジの正確さ」(同氏)。文化財などの撮影を長年行なってきた同社ならではの技術だ。8×10センチという大きなサイズで撮影されたポジはデジタルデータにしても遜色がなく、見たい部分を拡大しても高画質を維持できるわけだ。

デジタル画像はCD-ROMやミュージアムグッズなどに同社は展開しているが、ユニークなところはあくまでも画像データをコア・コンピタンス(中核的な競争力)としていることだ。たとえば、コンピューターを使った展示システムを構築する場合、必要な検索エンジンやビュアーはフリーにしている。

画像の一部を拡大しても高品質を保てる
画像の一部を拡大しても高品質を保てる



「デジタル的な修復は大手企業が手がける。当社はあくまでも本来のモノを修復している」(和田氏)。デジタルの元になる部分へのこだわる姿勢が浮かび上がる。

近年マルチメディア化が進むなか、コンテンツ不足を指摘されることが多い。こういった状況を鑑みると、高い質の素材を生み出すアナログ技術は重要だ。

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