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パワーMOSFETの最新技術“DenseTrenchテクノロジー”で、DC-DCコンバーターやスイッチング電源の消費電力を効率化――米インターシル、KRISHNA KUCHIMANCHI氏に訊く

2000年05月24日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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先ごろ、デバイスメーカーの大手インターシルは、DC-DCコンバーターやスイッチング電源などの消費電力を効率良くする、パワーMOSFET(電界効果型トランジスタ)の新技術“DenseTrenchテクノロジー”を発表し、この技術を応用した製品を夏ごろに投入すると発表した。

“DenseTrench テクノロジー”を使えば、MOSFETのオン抵抗やゲートチャージを従来より小さくでき、スイッチング時のロスも少なくなる。結果として、ノートPCや情報家電などの電源部において、その効率を上げ、バッテリー寿命を伸ばせるようになる。来日した米インターシルのプロダクトマーケティングマネージャー、KRISHNA KUCHIMANCHI氏に、パワーMOSFETの最新技術について訊く。

ハリスの半導体部門より独立――ワイヤレステクノロジーでは“PRISM ”に注力

――まずインターシルの概要と事業内容について、簡単に説明してください

「インターシルは、もともとはハリスの4部門のうちの1つのセクションだった。'99年にその半導体部門を売却、2000年2月にNASDAQの店頭公開を果たし、現在に至っている。全世界の27ヵ所に拠点があり、そのうち4ヵ所は生産拠点として、6ヵ所はR&D施設として機能している。従業員は約6000人。アジア地区担当としては台湾に本部がある。現在、アジア地域のシェアが増え、近々には米国に追いつくと予測している。今後、アジア地域はインターシルにとって重要な市場になると考えている」

米インターシルのプロダクトマーケティングマネージャー、KRISHNA KUCHIMANCHI氏
米インターシルのプロダクトマーケティングマネージャー、KRISHNA KUCHIMANCHI氏



「事業内容については、統合的な通信システムのソリューションを提供している。インターシルの統合的ソリューションには、大きく分けて3つのテクノロジーがある。アナログミックスドシグナル集積回路と、ワイヤレス、ディスクリートパワーに関するテクノロジーだ。特に2つめのワイヤレステクノロジー分野では、無線チップセット*に注力している。これは無線で11Mbpsの通信ができるチップセットで、第1四半期で約30万弱の出荷を終えた」

無線チップセット:“PRISM”チップセットのこと。イーサネットレベルで音声、ビデオ、データを伝送する無線LANを実現。2Mbps、4Mbps、11Mbpsでの伝送を可能にする。IEEE802.11規格に完全準拠

「アナログ分野では、ワイヤレスLANにアップダウンコンバーターやDSPが絡むアプリケーションを扱っている。パワーマネジメント分野では、DC-DCコンバーターやMOSFETを扱っている。これらは主にデスクトップPC市場向けに出しているもので、デスクトップ分野では、DC-DCコンバーターのシェアはトップ。30パーセントから40パーセントを占めている。ノートPC市場はまだ参入していないが、これから狙っていきたい」

ディスクリートパワーとして、世界で初めての8インチウェハー製造技術を持つ

――今回の話の中心となるディスクリートパワー分野は?

「製品としては、今回のメーンテーマであるMOSFETや、IGBT*(もともとは買収したRCAが発明したテクノロジー)がある。バイポーラ型トランジスタの製造からスタートし、ディスクリートパワー製品を40年間つくり続けている。'88年にはGEの半導体部門も買収した。製造工場は、前工程がペンシルバニアのマウンテントップにあり、ディスクリートパワーとしては、世界で初めての8インチウェハー製造技術を備えた施設を持っている。後工程となるアセンブリ工場は、マレーシアのクアラルンプールにある」

IGBT*:MOSFETとバイポーラトランジスタを組合わせて1チップとした素子。MOSFETの高速スイッチング特性、低駆動電力と、バイポーラトランジスタの低抵抗といった特長を持っている。 主にインバーターなどに用いられる。

「ディスクリートパワーは、デスクトップ、ノートPC用のパワーマネジメント、携帯電話、UPS、スイッチングモードのパワーサプライ用電源や、自動エンジン用途向けの制御アプリケーションなどをターゲットにしている。アプリケーションを中心に培ってきた技術と、エンドユーザーの二ーズにマッチした製品をつくるためのノウハウを持っているので、高品質かつ高信頼な製品を提供できる」

――全体的な売上げはどのくらいでしょうか?

「昨年の売上げは1億8800万ドルで、年成長率は15パーセント。製品分野の絞り込みをしている。近いうちに、コミュニケーション分野とコンピューター分野の比率を50パーセントの比率にする。もちろんほかの製品、たとえば自動車などに使われているデバイス部品も従来どおり力を入れていくつもりだが、比例配分的にはコミュニケーションとコンピューターに重点をおいていきたいと考えている」

DenseTrenchテクノロジーについて説明するKRISHNA KUCHIMANCHI氏
DenseTrenchテクノロジーについて説明するKRISHNA KUCHIMANCHI氏



DenseTrenchテクノロジーとは?

――なぜこのテクノロジーが必要なのか? その背景について教えてください。

「現在、急成長しているマーケティング分野は、コミュニケーションとコンピューターだ。特にコンピューターの分野では、1年ぐらい前には400、500MHzだったCPUが、いまはもう1GHz以上という具合に進化がとても激しい。それにともなって必要な電流容量もどんどん大きくなってきている。もう既存のMOSFETでは対処できなくなりつつある。そこで、インターシルでは“DenseTrenchテクノロジー”を開発した」

――“DenseTrenchテクノロジー”の特徴は?

「DenseTrenchテクノロジーには4つの大きな特徴がある。トランジスタのチャネル密度を高くできること*。これは競合他社に比べて少なくとも2倍以上はある。それにともなってオン抵抗を低くすることが可能になる*。また幅広い種類の電圧に対応する柔軟性につくれる。特定のアプリケーションに合わせて、オン抵抗やゲートチャージをチューニングして提供できるといった特徴がある」

*面積あたりのチャンネル密度は毎年増加している。たとえば、'93年当時を1とすると、'98年は約2倍、'99年は約4倍、2000年には10倍以上になる

*オン抵抗は、'98年は約0.6、'99年は約0.4、2000年は0.18(いずれも単位はmΩ・cm平方、30VのNチャネル製品の場合)

ストライプのトレンチ構造で、チャネル密度を上げる

――具体的にはどのような構造になっているのでしょうか?

「トレンチ構造にはセルベースのものと、ストライプベースのものがある。ストライプベースのものを改良したのがDenseTrenchテクノロジーだ。隣接するストライプの間隔を狭めて、密接に束ねることができれば、高いチャネル密度を達成できる。それぞれのチャネルにトランジスタを並列に配置するので、結果としてゲートの総OkakN抵抗を低減できるようになる(下図参照)」


クリックすると拡大されます
DensTrenchテクノロジーの模式図。

(クリックで拡大表示します)


――今回発表した製品と、今後投入する製品の予定について教えて下さい

「まず30VのNチャネル型製品から市場に投入する。耐圧は20Vから100Vの範囲に広げながら、Pチャネルの製品も投入していく。また、DenseTrench技術は柔軟性があるので、オン抵抗、ゲートチャージ、UIS(Unclamped Inductive Switching)をエンドユーザー市場の要求に沿うようにチューンしていくことも可能だ。PCのマザーボードの電源市場を初期製品のターゲットにしながら、多岐に広げていきたい」

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