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アドビシステムズ、PDF関連ツールと電子出版向け暗号化配信ソフトを発表――プロ小説家集団も採用

2000年05月17日 00時00分更新

文● 編集部 桑本美鈴

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アドビシステムズ(株)は、電子文書フォーマット“Adobe PDF(Portable Document Format)”用のワークフローツール『Adobe Acrobat Business Tools(アドビ アクロバット ビジネス ツールズ)日本語版』、サーバーベースのPDF作成ソフト『Adobe Acrobat Distiller Server(アドビ アクロバット ディスティラー サーバー)』、PDF形式の電子出版向け暗号化配信ソフト『Adobe PDF Merchant(アドビ ピーディーエフ マーチャント)日本語版』を発表、本日都内で記者発表会を行なった。

都内で行なわれた発表会で、“Adobe ePaper Solution”について説明した同社ePaperソリューショングループマネージャー市川孝氏。「ePaperサービスは紙からウェブベースへ移行するためのソリューションを提供する。これにより、企業内のレスペーパー化が図れるほか、生産性の向上、コスト削減が期待できる」都内で行なわれた発表会で、“Adobe ePaper Solution”について説明した同社ePaperソリューショングループマネージャー市川孝氏。「ePaperサービスは紙からウェブベースへ移行するためのソリューションを提供する。これにより、企業内のレスペーパー化が図れるほか、生産性の向上、コスト削減が期待できる」



同社は、企業向けに、企業内の紙文書を、PDFを利用したウェブベースのワークフローへ移行するための製品群“Adobe ePaper Solution”を展開している。Adobe ePaper Solution製品群は、PDF作成ツールとして既存の『Adobe Acrobat 4.0』、今回発表した『Acrobat Distiller Server』、スキャナーなどで取り込んだ文書をPDF化するツール『Acrobat Messenger』(米国でリリース済み、日本国内では年内出荷予定)の3製品、PDFファイルを編集、閲覧するためのツールとして、『Acrobat 4.0』と今回発表の『Adobe Acrobat Business Tools』の2製品、PDF配布用のツールとして『Acrobat Reader』と今回発表の『PDF Merchant』が用意されている。

PDFのワークフローツール『Adobe Acrobat Business Tools』

Acrobat Business Toolsは、企業内でPDFファイルを共有し、編集/校正したり、ドキュメント上で電子認証を行なったりするためのワークフローツール。

テキスト文書やWord、Excel、PowerPoint、一太郎などで作成した文書、業務ツールによる帳票データ、画像などさまざまな種類の複数文書を、1つのPDFファイルにできる“バインド”機能を搭載する。CADデータなどサイズの大きなファイルもバインドすることが可能。

また、ファイル作成者以外の人がファイルにコメントを追加できる12種類の注釈ツールが用意されている。付箋や音声でコメントを追加したり、マークを付けたりして、文書の回覧や校正を行なえる。注釈はオリジナルファイルを変更せず、注釈をファイルに追加する仕組みとなっており、注釈が付けられたファイルを画面に表示すると、画面左側の“注釈パレット”に、注釈の作成者や種類、日付などが表示される。

電子認証については、電子署名機能、パスワード設定機能、署名の履歴管理機能を搭載する。データ検索機能では、PDFファイルに埋め込まれたフォントの内容も検索できる。なお、Macintoshで作成する際はTrueTypeフォントの埋め込みは基本的にできない仕様になっているが、フォントのドライバー設定などを変更すると埋め込み可能となる場合がある。しかし、ベースが埋め込み不可の仕様であるため、この場合の埋め込みフォントの検索はできないという。

同製品は5月17日発売で、Windows 95/98/NT4.0版と、Macintosh版が用意されている。販売代理店を通じて最低10ライセンスから販売される。価格は販売代理店と購入ライセンス数によって異なるが、100ライセンスを購入した場合の単価が、同条件でAcrobat 4.0を購入した価格の35パーセント程度になるという。

サーバー専用ソフト『Acrobat Distiller Server』

Acrobat Distiller Serverは、オンラインサーバー上でPDF作成処理を行なうサーバー専用ソフト。PDF作成を行なうサーバーシステムを構築でき、複数のクライアントユーザーがデータを共有できる。日本語版の対応OSはWindows NT4.0のみ。英語版は、Windows NT4.0対応版、Solaris対応版、Linux対応版が用意されている。

PDF作成に利用するフォントは、Acrobat Distiller Serverがインストールされているサーバー内のフォントを使用するため、クライアント側がMacintoshマシンの場合もMacintosh用フォントは使用できない。1サーバーライセンスでアクセス可能なクライアントユーザー数は100ユーザー。

同製品は6月中旬発売で、同社のオンラインショップサイト“アドビストア”および販売代理店を通じて販売される。アドビストア価格は68万円。

電子出版向け配信ソフト『PDF Merchant』

PDF Merchantは、PDFで作成した“電子書籍”を暗号化し、それを復元化するためのライセンス鍵を発行する暗号化配信ソフト。

電子書籍を販売する側は、電子書籍を暗号化し、CD-ROMで配布したり販売サイトに掲載したりしてユーザーに提供する。購入したいユーザーが電子書籍データを入手すると、ユーザーの利用しているパソコンの情報(CPUのIDやローカルHDD、ユーザーID等)が、電子書籍の販売サイトに自動的に送信される。購入する場合は、販売サイトからユーザーのパソコン情報を埋め込んだライセンス鍵(専用ファイル)が発行され、電子書籍を復元化できる。購入者はパソコンの画面上で内容を読めるほか、印刷して読むことも可能。

他のパソコンに電子書籍(PDF)とライセンス鍵ファイルをコピーしても、パソコン情報が異なるため、復元できない。なお、暗号化技術には、RSAセキュリティ社のRC4 128bitアルゴリズムを採用しているという。また、電子書籍ごとに紙への印刷の可否、テキストや図の抽出の可否などを設定できる。

なお、電子書籍の購読には、Acrobat Readerと、専用プラグイン『Web Buy』が必要。Web Buyは、暗号化された電子書籍を復元するためのライセンス鍵の発行を、販売サイトに要求し、ダウンロード取得するためのもの。このプラグインは、Acrobat Reader同様に無償配布を予定しているという。

同社は、2000年3月より電子出版を行なっている企業にPDF Merchantの評価を呼びかけており、現在10社が評価中という。PDF Merchantは出版社や書店などへの契約販売のみで、Windows NT4.0およびSolarisに対応する。契約販売は今秋に開始するとしている。価格は未定。米国価格は、ライセンス価格が1サーバーあたり年間5000ドル(約54万8000円)、手数料がコンテンツの売上価格の2パーセントまたは0.05ドル(約5円)。また、今後の計画として、対応OSを拡充するほか、電子書籍を読める期間の設定や、ライセンス鍵の譲渡/貸し借り機能の搭載を検討しているという。

電子出版について説明した同社フィールドプロダクトマーケティングマネージャーの石原信義氏は、「電子書籍ビジネスは、在庫や倉庫の削減、廃刊本やバックナンバーのデジタル化によるマスターデータの保存、最低限の経費と時間での出版作業、ユーザーニーズに合わせた書籍のばら売り、デジタルによる音声や動画、検索といった付加価値の追加を実現する」

フィールドプロダクトマーケティングマネージャーの石原氏フィールドプロダクトマーケティングマネージャーの石原氏



「しかし、本を読むときは紙の本を読んでいるのが現状だ。それは目が疲れるし、パソコンが重いから。しかし、近い将来A4帳面程度の大きさと軽さの表示機器が出てくる可能性は大きい。そうなれば紙から移行する本がかなり出てくるだろう」

「電子書籍の問題点として、著作権の侵害、出版工程の大幅な変更、使いたい外字が使えないといった品質の妥協が挙げられる。PDFとAcrobat Reader、PDF Merchantを利用すればこれらの問題は解決する」としている。

中央公論新社とイーノベルズアソシエーツが、電子書籍出版にPDFを採用

また、上記の同社製品を利用して、PDFベースの電子書籍出版を行なう予定の(株)中央公論新社の書籍編集局書籍第四部部長である伊藤彰彦氏と、(株)イーノベルズアソシエーツの代表である井上夢人氏が、それぞれコメントした。

伊藤氏は、「紙の書籍は1つの完成品であり、なくなることはない。本は特別な製品で、家電や衣料品など他製品と異なり、時間と共に価値が減殺する物ではないが、物理的な問題があり、倉庫の収納限界により、やむなく廃刊となる本が多くある。この在庫問題を解決するのが電子書籍だろう」

中央公論新社の伊藤氏中央公論新社の伊藤氏



「書籍の電子化にあたり、書籍の表現力を維持することが最重要課題だ。縦組み日本語組版にあくまでもこだわりたい。それを再現できるものがPDFだ。外字を作成して埋め込めるし、書籍で利用した書体をそのまま再現できる。書籍をそのままスキャンした場合は、データ容量が5~10MBになり、現状での配信は事実上不可能だろう。PDFの場合は数百KB程度なので、ウェブでの配信も可能だ」と語った。

また、井上氏は、「イーノベルズアソシエーツは、プロの小説家が電子書籍を提供するための会社。ずいぶん前から小説が読まれなくなったといわれており、われわれ書き手には大問題だ。最近ではワープロで原稿を書く人も多いが、ひとむかし前までは、ほとんどの人が20字詰め20行の400字原稿用紙に原稿を書いていた。しかし、この20字詰め20行の形態で実際に本になる小説はほとんどない。なぜ400字原稿を使っていたかというと、編集者が文字数を数えやすいからだ。これは読者のためではない。このように、書き手側が読者のことを直接考慮していなかったことが、小説が読まれなくなった原因ではないかと反省している」

井上夢人氏井上夢人氏



「例えば京極夏彦氏は、ページの最後を必ず句点“。”や会話の“」”といった文末で終える。彼は、彼の美意識として、1つの文章が2ページにまたがるのを嫌う。これは読者を考えてのこと。読者に向けて直接小説を書いていくことが重要であり、このことを作家自身が意識してやっていく必要がある。そのため、この会社を設立した」

「電子書籍販売にPDFを採用したのは、フォントの埋め込みができることが大きい。さらにPDF Merchantによる著作権保護機能で、レンタル本などよりかえって著作権保護力が強くなると思う。書き手としてもMerchantの技術には関心を持っている」と語った。

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