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視覚が遮断された世界を体験するイベント――空間対話型プロジェクト“Dialog in the Dark KOBE 2000”より

2000年05月02日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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本日5月2日から7日までの6日間、神戸市中央区のジーベックホールにて、空間対話型プロジェクト“Dialog in the Dark KOBE 2000”が開催される。

本稿では、一般開催に先立って行なわれた報道関係者向けの公開日に、記者が参加した際の模様と感想を報告する。

空間対話型プロジェクト“Dialog in the Dark KOBE 2000”
空間対話型プロジェクト“Dialog in the Dark KOBE 2000”



視覚を奪われた状態で、7人ひと組の集団行動

“Dialog in the Dark”は、視覚障害者の引率により、視覚が完全に遮断された真っ暗な空間を体験するイベント。ホール内には森や街の風景がいくつかのゾーンごとに擬似再現されているが、光源が一切ないため、聴覚や触覚、嗅覚など、視覚以外の能力をフルに使って、順路を進まねばならない。

このイベントは'89年にドイツで生まれ、ヨーロッパ各地に広がった。すでに世界70都市で実施され、のべ100万人以上が体験しているが、日本での本格的な開催は今回が初めてとなる。

会場のジーベックホールは、収容人数約300名の多目的ホール
会場のジーベックホールは、収容人数約300名の多目的ホール



参加者には、会場の見取り図などは一切配布されないため、玄関に置かれているフロアー案内図で、おおよその広さを知るのが精一杯の“予習”となる
参加者には、会場の見取り図などは一切配布されないため、玄関に置かれているフロアー案内図で、おおよその広さを知るのが精一杯の“予習”となる



参加者は、ホールに入場する前に、場内で迷子にならないよう、杖の使い方や暗闇でのコミュニケーション法について、簡単な説明を受けた。事前予約によって初めて顔をあわせる参加者6名とアテンド役の聴覚障害者1名の合計7名が1チーム。簡単な自己紹介の後、一列に並んで入場していく。

カメラやマイク、携帯電話など、光源となりうるものは、すべて受付に預けて出発する。杖を使えば、周囲1メートル程度の様子は推し量れるものの、なんとなく心細いカメラやマイク、携帯電話など、光源となりうるものは、すべて受付に預けて出発する。杖を使えば、周囲1メートル程度の様子は推し量れるものの、なんとなく心細い



最新の音響設備によって、聴覚による情報を操作

場内の広さは、約100坪。その壁や床に約50個ものスピーカーとデジタル音響機器をセッティングしているため、参加者は、物理的な空間の広さをも感じ取れなくない状態に……。電気的にホールの残響時間を可変させる『REST』システムや、世界に先駆けて開発したフルデジタルミキシングシステム(音響調整卓)といった舞台装置は、業務用音響機器の専門メーカー、TOA(株)の先端技術によって支えられている。TOAは、'95年の震災以降続けられている光のイベント“神戸ルミナリエ”の音響演出の担当企業としても有名だ。

始めは、何も見えないということに不安を覚えていた参加者たちも、次第に木や草の香り、鳥の鳴き声、水の流れ、都会の雑音、ゴムの匂い、砂利道の感触などを感じられるようになり、やがて“橋を渡る”、“横断歩道を横切る”、“階段を上り下りする”といった、危険を伴う行動も、障害をもつアテンドのナビゲーションによってこなせるようになっていった。

人間の五感とコミュニケーションの意味を再認識

コースの最後には、カウンターバーが用意されており、ワインやジュースなど好みのドリンクで乾杯する。「この香りは、オレンジジュース?」「この渋みは、神戸ワインの赤だな」と、この頃になると、初対面のメンバーも、すっかり打ち解けて会話がはずんでいた。

全行程約25分のコースを終えた後で、参加者同士のディスカッションが行なわれた。「飲み物の味が、濃く感じられた」、「石や草の感触を、想像以上にはっきりと感じ取ることができた」など、全員が視覚を奪われることによって、他の感覚が鋭くなったことを再確認。また、「コミュニケーションの大切さや、人と助け合う気持ちの尊さについても考えさせられる体験だった」との意見も多かった。

参加者の身長や年齢などについて、ピタリと言い当てるアテンドも。日常生活では“弱者”とみなされがちな視覚障害者だが、視覚以外の感覚は、健常者よりはるかに優れているとも言える
参加者の身長や年齢などについて、ピタリと言い当てるアテンドも。日常生活では“弱者”とみなされがちな視覚障害者だが、視覚以外の感覚は、健常者よりはるかに優れているとも言える





各々がスケッチブックと色鉛筆を使い、体験の感想をイラストや文章で自由に表現する。ちなみに、暗闇での体験であるにもかかわらず、健常者の絵は多色使いであることがほとんどだとか各々がスケッチブックと色鉛筆を使い、体験の感想をイラストや文章で自由に表現する。ちなみに、暗闇での体験であるにもかかわらず、健常者の絵は多色使いであることがほとんどだとか



“Dialog in the Dark KOBE 2000”実行委員会・プロデューサーの金井真介氏は、「このイベントは、単にデジタルとアナログの融合という意味だけでなく、人と人、人とモノとの関係について考えなおす機会を与えてくれるはず。健常者と障害者との間の“助け-助けられる”の関係が一瞬にして逆転することで、精神的な垣根が取りはらわれ、新しい関係が生まれる。大人だけでなく、子供たちにもぜひ体験してみて欲しいと思いますね」と語った。

また、現在のところ、これだけの設備を常設できる場所はないが、「いつでも好きなときに体験してもらえる施設を確保すれば、障害者の雇用も促進できるだろう」と、今後の展望を述べた。

なお、参加は完全事前予約制で、6日間に約600名が体験する予定。前日までならば、下記URLのホームページから申し込みができるほか、当日の空席状況は電話:078-303-5604(10:00~16:00)でも確認することができる。

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