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I.L.M.社のジェフ・キャンベル氏がいま解き明かす“スターウォーズ エピソード1”の謎――イメディオ開設1周年記念セミナーより(前編)

2000年04月24日 00時00分更新

文● 野々下裕子 

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大阪・南港を拠点とするインキュベーション施設“ソフト産業プラザiMedio(イメディオ)”が今月で開設1周年を迎えた。その記念セミナーが21日、iMedioと同じフロアーにあるスカイアトリウムで開催された。ジョージルーカス率いるI.L.M.社(Industrial Light and Magic)において、デジタルモデルスーパーバイザーとクリーチャー・デベロップメントの肩書きを持つ、ジェフ・キャンベル(Geoff Campbell)氏が講師として来日した。

“‘スターウォーズ エピソード1’の謎が解ける日”をテーマに、世界最先端の視覚効果技術の舞台裏を惜しみなく公開した。

イメディオの増床計画とDVDオーサリングルームの強化

開演に先立ち、主催であり、イメディオを運営する大阪市都市型産業振興センターから専務理事兼事務局長の鳥岩誠治氏が登場。今回のビッグネーム招聘(しょうへい)に協力したクリーク&リバー社と日本SGI(旧シリコングラフィックス)社からは、代表取締役社長の井川幸広氏と取締役副社長の成井弦氏がそれぞれあいさつを述べた。

また、イメディオ事務局長の富永順三氏が、参加者らに向けてイメディオ1周年の報告と、施設の増床計画やDVDオーサリングルームの強化など、今後の展開に関して説明した。

イメディオ事務局長の富永順三氏。同施設の今後の展開を紹介。増床計画に伴う入居者の応募受付けは5月22日まで。8月までには新しいフロアをオープンする。また、それに先駆けて、DVDオーサリングルームの増強や、XMLやLinuxなどのクリエーター向け講座を市の支援をうけ格安価格で提供していきたいとした
イメディオ事務局長の富永順三氏。同施設の今後の展開を紹介。増床計画に伴う入居者の応募受付けは5月22日まで。8月までには新しいフロアをオープンする。また、それに先駆けて、DVDオーサリングルームの増強や、XMLやLinuxなどのクリエーター向け講座を市の支援をうけ格安価格で提供していきたいとした



奇跡の映像は多くの苦労と経験から生まれた

そしていよいよジェフ・キャンベル氏の登場である。氏は'89年にI.L.M.に入社以来、『ターミネーター2』や『ジュラシックパーク』、『ジュマンジ』、『メン・イン・ブラック』、『101』など、映画用特殊効果で注目を浴びてきたI.L.M.の映画作品全てに関わってきた人物だ。

講師のジェフ・キャンベル氏は、I.L.M.社のデジタルモデルスーパーバイザーとクリーチャー・デベロップメントの肩書きを持つ
講師のジェフ・キャンベル氏は、I.L.M.社のデジタルモデルスーパーバイザーとクリーチャー・デベロップメントの肩書きを持つ



最新作の『スターウォーズEPISODE 1』では、フルCGのコミカルなキャラクター、“ジャージャー・ビンクス”の制作担当をはじめ、数多くのクリーチャーに生命を吹き込み、肩書きであるクリーチャー・デベロップメントにふさわしい仕事をこなしている。そんなキャンベル氏は、まず冒頭でデジタル映像を制作する現場でもアナログ時代と同じように、多くの苦労とクリエーターたちの経験の積み重ねによって、奇跡のような映像が生み出されていったと語った。

「特殊効果の世界は、最初はパペット(人形)1体を4、5人で動かしていました。それがだんだんと進化して、CGもワイヤーフレームになったぐらいでかなり応用が効くようになった。'89年の“ターミネーター2”では、実際の映像とCGを組み合わせられるようにまでなりました。ただし、この段階ではまだリアルに生き物を動かせませんでしたが。モデリングするために役者も服を脱がなくてはいけません(笑)。そのあと“ジュラシックパーク”になって、ほぼフルCGの恐竜を主役として登場させられるようになったのです」


『ジュラシックパーク』でのCG制作の過程を比べて見たところ。ワイヤーフレームからレンダリングで肉付けしてリアルな恐竜を動かしていく 『ジュラシックパーク』でのCG制作の過程を比べて見たところ。ワイヤーフレームからレンダリングで肉付けしてリアルな恐竜を動かしていく


しかし、“ジュラシックパーク”も最初からCGで制作することが決まっていたわけではないと言う。キャンベル氏をはじめとしたI.L.M.のスタッフらが実際にテスト映像を作って、マペットを使ったり、着ぐるみの役者の動きを比較した結果、CGがベストだということになったそうだ。

ブルーフィルムでの合成シーンでは役者の代わりにI.L.M.のスタッフがテストすることもブルーフィルムでの合成シーンでは役者の代わりにI.L.M.のスタッフがテストすることも


「この時にはCGを作るソフトウェア開発はもちろん、役者の代役などもI.L.M.のスタッフで全てやりました。その経験によって、そのあとのCG映像でのスタンダードな技術ができ上がったのです」

『101』の子犬のパーツは解剖学の資料?!

その後もデジタルによる映像技術はどんどん進歩していったが、キャンベル氏は技術もさることながらクリエーターのイマジネーションが最も重要だと語る。スタッフが作品を通じてスキルを重ね、それを共有していく環境があるからこそ、最高の視覚映像を生み出すことができるのだ。

たとえば、そうした情報共有の一例としてキャンベル氏は、『101』の子犬たちのパーツが並んだテンプレートを見ながら説明した。表面だけでなく、骨や筋肉の動きまで細部に渡って作り込まれたもので、まるで解剖学の資料のようである。

『101』に登場する子犬たちのテンプレート。まるで解剖図のように細部に渡ってパーツが作り込まれているのがよく分かる『101』に登場する子犬たちのテンプレート。まるで解剖図のように細部に渡ってパーツが作り込まれているのがよく分かる


「クリエーターにはそうした解剖学的な見地や、生物学的要素までが求められます。このテンプレートを作る時には、子犬と寝起きを共にしてスケッチをしました。また、“ジュマンジ”のように実際の動物達をCGにする時は、それこそクリエーターはみんな動物園に通っていました。リアリティーというのは皮膚の動きと表情で決まるんです。あらゆる場面で観察眼が求められ、その結果、自然な表現ができるソフトの開発なども可能になったのです」  

『ジュマンジ』ではCGの動物たちを『ジュラシックパーク』の映像の中で動かしてテスト
『ジュマンジ』ではCGの動物たちを『ジュラシックパーク』の映像の中で動かしてテスト


CGは恐竜のような空想の産物よりも実際にいる動物などをモデルにするほうがはるかに難しい。リアリティーを出すためには筋肉の動きや皮膚の動きにまでこだわる。ライオンのたてがみを表現するためのソフトなどは数えられないぐらいの改良が重ねられていったCGは恐竜のような空想の産物よりも実際にいる動物などをモデルにするほうがはるかに難しい。リアリティーを出すためには筋肉の動きや皮膚の動きにまでこだわる。ライオンのたてがみを表現するためのソフトなどは数えられないぐらいの改良が重ねられていった


デジタルになっても地道な作業を積み重ねていくことには変わりない。そのため、1つの作品が生み出されるまでに3年以上の年月がかかることも少なくない。中には1ショットに半年かかるケースもあるという。特にエピソード1では実に2000以上のショットがデジタルによって制作され、66ものデジタルキャラクター画面が動き回っているのだ。

「エピソード1では平面のスケッチを元に、骨格から筋肉、肌の質まで研究しながらクリーチャーたちを作り上げていきました。彼らはとてもよく動き回るので、筋肉の動きや目の位置まで生物学的な正確さが必要でした。それに彼らはよくしゃべるので、実際にPやBの発音ができる口は? 歯は? といったことまで考えて修正をしたりもしました」

後編では、さらに詳細のCG制作技法について紹介する。

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