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【INTERVIEW】NTT Comが音楽配信事業に乗り出す理由--「移動体網ではNTTドコモ、固定網ではNTT Comをはじめとするグループ会社で」

2000年04月20日 00時00分更新

文● 編集部 伊藤咲子

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インターネット接続サービス“OCN”で知られるNTT コミュニケーションズ(株)(以下、NTT Com)は19日、インターネット音楽配信総合実験サイト“Arcstar MUSIC”をスタートさせた。日本クラウン(株)などレコード会社9社が参加するということだけでなく、検索サイト“goo”を運営する(株)NTT-XをはじめNTTグループ6社が総力をあげて取り組むプロジェクトという意味でも注目されてる。

4月20日現在、“Arcstar MUSIC”のサイトに登録されている楽曲は、約250曲(うち、試聴データのみが約210曲)。フリーワードの検索システムはないが、ジャンル別一覧、あいうえお順アーティスト一覧、楽曲一覧といったコーナーを用意する。

それぞれのタイトルは各レコード会社のサイトにリンクされており、試聴データの提供行為や、楽曲データの販売行為自体はレコード会社が行なう。NTT Comは、ここでいわばSIベンダーの役割を果たし、レコード会社に対してエンコード・暗号化支援、コンテンツ保護方式、課金・決済機能、カスタマーサポートといったサービスを提供する。



Arcstar MUSIC


実験事務局、カスタマーサポート


NTT Com


実験参加レコード会社


日本クラウン(株)、(株)徳間ジャパンコミュニケーションズ、(株)バップ、(株)プロシード


試聴配信のバックヤードシステムのみ採用


(株)ポニーキャニオン、(株)ワーナーミュージック・ジャパン、パイオニアLDC(株)、エイベックス(株)


課金・決済のバックヤードシステムのみ採用


日本コロムビア(株)


採用する音楽配信方式と、システム構築・サーバーの運用を担当する企業


Windows Media Technologies(米マイクロソフト開発)


NTT Com


LiquidAudio(米リキッドオーディオ開発)


リキッドオーディオ・ジャパン


SolidAudio(NTT東日本開発)


NTTソフトウェア(株)


MuSIC(エム研開発)


(株)エムビート・ドット・コム


RealAudio(米リアルオーディオ開発)


NTT Com


サイト構築支援、プロモーション協力


NTT-X


配信システムのホスティング


(株)NTT PCコミュニケーションズ


“Arcstar MUSIC”トップページ
“Arcstar MUSIC”トップページ



今回、ascii24編集部では、 Arcstar MUSIC総合音楽配信実験の統括責任者である松田栄一氏(NTT Com経営企画部 IPタスクフォース担当部長)に、同プロジェクトの狙いとその方向性について話を聞いた。

NTTグループが音楽配信事業に乗り出す理由

経営企画部 IPタスクフォース 担当部長の松田栄一氏。「音楽配信業界はとにかく動きが速い。関係者はもう忙しくて大変ですよ」
経営企画部 IPタスクフォース 担当部長の松田栄一氏。「音楽配信業界はとにかく動きが速い。関係者はもう忙しくて大変ですよ」



--NTT Comがインターネット音楽配信の事業に乗り出す理由は何ですか

「NTT Comはネットワークの会社です。しかし今後はネットワークそのものだけではなく、その中を流れるコンテンツのことや、ネットワークに繋ぐ端末のことを考えてビジネスに生かさなければ、生き残れないでしょう。そのなかで、音楽や映像によるエンタテイメントビジネスは、1つの方向性として重要視しています。こうした“ネットエンタテイメント事業”を、積極的にサポートしていきたいと思います」

「ここで、何がその事業の“突破口”となるかと言うと、それは音楽だと思います。なぜなら、音楽は生活に密着しており、もっとも手軽に楽しめる上に、何度も繰り返して楽しむことができるコンテンツだからです」

「本来ならば、インターネットの世界でもっと音楽コンテンツが流通していてもよいと思うのですが、これまではインターネットの料金や、大規模なデータセンターの運営費が、その障害となっていました。NTT Com はこの分野で既に実績がありますから、そうした事業の発展に寄与するのは、いわば当然の使命だと考えています」

--事業を通じてどのくらいの収益が見込めますか

「当面、このサービス内での確実な収入源は、データのホスティングサービスや音楽配信サービスの手数料です」

「今、国内のレコード産業は7000億~8000億円の規模です。その5パーセント程度を音楽配信で見込めるとして、400億円。さらに、その中からバックヤード側の企業に流れる金額は--と考えると、NTT Comのビジネスボリュームはそれほど大きくなさそうです。しかし、先ほど“突破口”というお話をしましたが、ネットワークを利用した新しいビジネスの世界に、1つの成功モデルを示したいという思いがあります」

「移動体網ではNTTドコモ、固定網ではNTT Comをはじめとするグループ会社でがんばりましょう」

--EMMS*1やEMDLB*2など、現在採用している4つの方式以外に、音楽配信プラットフォームを追加することはありますか?

「基本的に、配信方式に対しては、オープンな姿勢で望みます。ただし、SDMI準拠*3もしくは、SDMIをサポートする予定かどうかが、採用の基準になります」

「今回利用していない方式をスタート時に採用しなかったのは、実験開始までの準備期間が短かったため、交渉に割く時間が足
りなかったことが1つの理由です。実験を継続しながら、お話したいと考えています」

*1 EMMS(Electronic Music Management System):米IBM社が開発したデジタル音楽配信システム。ソニー(株)が開発した著作権保護技術“MagicGate”および“OpenMG”との相互運用が可能
*2 EMDLB(Electronic Music Distribution Licence Body):松下電器産業(株)が、米AT&Tなどと 共同開発した音楽配信システム
*3 SDMI:Secure Digital Music Initiativeの略。レコード会社やデジタル機器メーカー100社以上が加盟する、デジタル音楽の著作権保護団体

--今回のプロジェクトに参加するNTTグループの中に、NTTドコモ*の名前が挙がっていませんが、連携は図らないのでしょうか

*NTTドコモは昨年、既に移動体向け音楽配信を事業への参入を表明した。音楽配信方式としてEMDLBを採用し、SDメモリーカード対応のPHS端末、携帯型プレーヤーを再生装置とする予定。今年5月より一般モニター実験を行ない、商用サービスの開始は今秋になる見込み

「固定網のインターネットを利用した音楽配信プロジェクトということでは、NTT ComがNTTグループの窓口役になるでしょう。ドコモとは交流もありますし、移動体網ではドコモ、固定網ではNTT Comをはじめとするグループ会社でがんばりましょうということでしょうか」

「NTT Comの“OCN”やNTT-Xの“goo”との連携*だけでなく、グループ内でのシナジー効果が狙えることは、どんどんやっていきたいと考えています」

*OCNのサイトやgooに、レコード会社名や楽曲タイトルを表示してリンクを張る。OCNのプロバイダー決済や、ADSLサービスとの連携は検討中

“パッケージビジネスがネットワークビジネスにとって食われる”のか

--今回プロジェクトを発表するにあたり、“パッケージCD販売の促進”ということを前面に出していますが、その意図は何ですか

「インターネット音楽配信プロジェクトは、“パッケージCDのビジネスがネットワークビジネスにとって食われる”という切り口で、しばしば報道されています。しかし、レンタルビデオの出現がそうであったように、インターネット音楽配信ビジネスの発達は、結果として、音楽産業を拡大させる方向に行くのではないでしょうか」

「昨年11月から年明けにかけて、レコード会社数社を回りましたが、その中で確信したことは、“楽曲販売をするだけではつまらない”ということです」

「例えば、メールマガジンであるとか、ネットコミュニティであるとか、インタラクティブ性のある企画をお金かけずに実現できるというのも、インターネットの強みですから。CDの売上も伸ばし、インターネットでの楽曲販売も順調で、インターネットならではの特典も設ける--。そういったことが実現できないかと考え、今回のプロジェクトをインターネット上での“総合”音楽配信実験と銘打ちました」

現在、タイトル一覧の“ハ行”に登録されている曲は5曲。“TO SITE”ボタンを押すと、各レコード会社のサイトにとぶ
現在、タイトル一覧の“ハ行”に登録されている曲は5曲。“TO SITE”ボタンを押すと、各レコード会社のサイトにとぶ



「発想の根源は一緒かもしれません」--“Label Gate”

--ソニーコミュニケーションネットワーク(株)が中心となって進めている、音楽配信事業“Label Gate”と、方向性が同じようですが

「“Label Gate”の事業を見て、ビジネスモデルが似ているので驚きました。検索システム*を立ち上げたり、キオスク端末での販売まで視野に入れて考えているという意味で、あちらは我々のものよりも手広いプロジェクトですが、発想の根源は一緒かもしれません」

*“Label Gate”は、アーティスト名・楽曲名によるキーワード検索システムを用意する予定。“Arcstar MUSIC”では、ジャンル別一覧、あいうえお順アーティスト一覧、楽曲一覧といったメニューの提供はあるが、上記のようなキーワード検索システムは、現時点では用意されていない

--レコード会社をバイパスし、アーティストの所属事務所と直接交渉するような方向では進まないのでしょうか

「著作権の問題など色々なハードルが存在する中で、我々の人的リソースの制限もありますし。ある程度まとめてお話をいただけるレコード会社さんと、プライマリーにお話を進めたいと思います」

--仮に、坂本龍一さんクラスのアーティストから要望がきたらどうしますか

「この実験の範囲ではなく、個々の活動として検討する、ということになるでしょう」

実験終了後NTT Comは、実験参加レコード会社の音楽配信システムなどに対するニーズを吸収した上で、商用サービスを開始する。また商用化の時点では、動画提供の計画もあるという。

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