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筑波大学附属校でのコンピューター教育の事例――“インテル エデュケーションフォーラム2000”開催(後編)

2000年04月13日 00時00分更新

文● 船木万里

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12日、インテル(株)は、ホテルニューオータニにおいて“インテル エデュケーションフォーラム2000”を開催した。第1部では、来日中のインテル コーポレーション社長兼CEOクレイグ・R・バレット氏と、インテル(株)の社長ジョン・アントン氏が教育に対する支援活動について講演した。また筑波大学学長が情報教育への取り組みについて報告。続く第2部では、筑波大学附属校の教諭や国立教育研究所室長らが、現場からの報告をした。講演後は、教育関係の各メーカーがブースを出展。来場者にソフトやシステムなどのプレゼンテーションを行なった。

ネットワークを生かした効果的な授業

第2部最初のスピーカーは、筑波大学附属小学校教諭、加賀美久男氏。インテルの寄贈による、最新型PCを利用した授業風景をビデオで紹介しながら、子供たちの反応や今後の授業計画などについて語った。

筑波大学附属小学校教諭、加賀美久男氏筑波大学附属小学校教諭、加賀美久男氏



加賀美教諭の小学校では、総合活動の時間をフリー活動、テーマ活動に分け、それぞれ自分のやりたいことを追求したり、テーマを決めて全員で取り組んだりと、子供たちが主体的に授業内容を決定している。これらの授業では、子供たちがプリンターで自分の作品を出力したり、情報を収集したり、パソコンを効果的に利用。ペイントソフトを使った授業では、あえて教師側からは使い方をレクチャーせず、子供たちが自分で試行錯誤しながら学ぶという方法を取った。

ビデオでは、友だち同士で教え合いながら制作する過程や、作品のプリントアウトなど、全ての作業自体を子供たちが楽しむ姿が見られた。この授業では1人1台の利用だったが、低学年などでは2人に1台の方が、共同作業による楽しさも味わっているようだとの報告もあった。

筑波大学附属小学校の生徒。画像作成ソフトで“自分のマーク”を制作
筑波大学附属小学校の生徒。画像作成ソフトで“自分のマーク”を制作



また、高学年の社会科では、“いのち”について全員でホームページを作成する作業に取り組んだ。ホームページの作り方そのものを学ぶため、各自がほかのホームページを閲覧し、内容やデザイン、構成などを吟味。不特定多数に向けて発信するために、情報をいかに整理し、見やすく提示するか、ということまでも学習することができ、意義のある授業になったという。今後はさらなるネットワークの活用により、効果的な授業をしていきたい、と加賀美教諭は語った。

より高度な情報教育を提供

次に、筑波大学附属駒場中高等学校教諭、市川道和氏が、コンピューターを積極的に活用した授業について報告。駒場中高等学校では、コンピュータースペースに43台のPCを配置し、国語、家庭科、芸術工芸など、さまざまな授業において効果的に利用している。

筑波大学附属駒場中高等学校教諭、市川道和氏
筑波大学附属駒場中高等学校教諭、市川道和氏



古文の授業のビデオでは、生徒がプレゼンテーションソフトを利用して学習成果を発表する場面が見られた。またインターネットを利用してレポートを作成したり、自分のノートパソコンを接続し、データをダウンロードする生徒も。3DCGソフトを利用した工業デザインの授業では、高校生たちが画面に向かって黙々と作業に向かい、高水準のCG作品を作り上げていた。ソフトは英語版を利用しているため、総合的学習にもつながり、より効果的な授業となっているという。

筑波大学附属駒場高等学校の生徒。校内LANに接続した自分のマシンからデータをダウンロード
筑波大学附属駒場高等学校の生徒。校内LANに接続した自分のマシンからデータをダウンロード



最近では、文化祭のポスターなども3DCGが常識。今回、インテルから最新型PCを寄贈してもらったため、CGのレベルは飛躍的にアップしたという。しかし、授業利用においては公約数的な機能の提供が原則となっており、芸術的制作には不適であることから、学校では新しく“マルチメディア制作室”を新設。ビデオ、音楽、CG作成の各専用周辺機器も揃えて、生徒たちの創作活動を促進し、より高度な情報教育を目指す。

筑波大学附属駒場高等学校の生徒が、工芸の授業で制作したCG作品。今回インテルから寄贈されたマシンを描いたもの
筑波大学附属駒場高等学校の生徒が、工芸の授業で制作したCG作品。今回インテルから寄贈されたマシンを描いたもの



総合的学習の時間で“生きる力”を育む

最後に、国立教育研究所、教育ソフト開発研究室室長の堀口秀嗣氏が“学校教育と情報機器環境”と題した講演を行なった。

堀口氏は最初に、情報教育に対する調査の数字を次々と提示し、附属校にくらべ公立校では1人当たりの台数がかなり少ないこと、ネットワークなどには接続できない古いマシンが多いこと、パソコン室だけに設置されているため、通常授業での利用がほとんどないことなどを説明した。

国立教育研究所、教育ソフト開発研究室の室長、堀口秀嗣氏
国立教育研究所、教育ソフト開発研究室の室長、堀口秀嗣氏



今後、全ての教室へのネットワーク環境導入、校内LAN構築、教員にはひとり1台のパソコン、ネットワークの高速化などを目標にした教育の情報化プロジェクトが2005年の実現に向けて進められている。こうした学校の情報化に伴い、授業内容も大きく変わろうとしている。

また、2002年からは新学習指導要領のもと、生きる力を育む学校教育として“総合的な学習の時間”が実施される。この授業は、学習内容を各学校に全面的に委ねたもので、ある意味では“教育の規制緩和”とも言われている。しかしその反面、学校は、子供たちが総合的な学習を通していかに課題解決能力を得たかを、結果として明確に示さなくてはならない。また、情報教育に関しては、小・中・高校を通じて体系的な教育の実施が予定されている。

こうした中で、教員自身が総合的学習の趣旨を理解し、適切な内容で教育を行なわなければ、“生きる力”を育むことはできない、という危惧がある。堀口氏は会場の教職者に向けて「中央教育審議会の答申を、最低3回はしっかり読んで、内容を把握してください」と語りかけた。

これまでの教育では、“Plan、Do、See”のうち“Do”ばかりを中心に置いていたが、今後の総合的学習の時間では、ただ積極的に行動するだけではダメだ、と堀口氏は語り、「こうすれば自力で課題を解決できるのだ、という意識を子供たちに持たせるためにも、Planすなわち計画することと、See、結果を見直すことが重要」と強調した。

今後は、さらに情報環境を整備し、総合的な学習で“生きる力”を育むための情報教育を実践していけるよう、教員ひとりひとりが努力していかなくてはならない、と堀口氏は結んだ。

全てのプログラム終了後、来場者は教育関係の各メーカーのブースが展示された第2会場に移動。体験版やパンフレットを受け取り、各社のソフトなどのプレゼンテーションを見ながら歓談を楽しんだ。

第2会場には、教育関係の製品デモンストレーションを行なう、メーカーのブースが設置された
第2会場には、教育関係の製品デモンストレーションを行なう、メーカーのブースが設置された

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