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情報教育においての最重要課題は、教員のスキルアップ――“教育とインターネット”情報教育シンポジウムより(中篇)

2000年02月29日 00時00分更新

文● 船木万里

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27日、東京の千代田区公会堂で、『毎日教育メール』発刊を記念し、毎日新聞社の主催による“教育とインターネット”情報教育シンポジウムが開かれた。 文部省メディア教育開発センター所長の坂元昂氏による基調講演を始めとして、6名のパネリストが情報教育についての報告をした。

パネリストは教育関連企業、教育者などバラエティー豊かな顔ぶれ。最終演目のパネルディスカッションでは全員が登壇し、情報教育のあり方や具体的方策などについて、会場から寄せられた質問に答えた。

学校における教育用ポータルサイト“E*Net”

午後のセッションは、まずイーネット(株)の代表取締役、江口隆氏が、情報教育ポータルサイト“E*Net”の活動について報告した。

イーネット代表取締役、江口隆氏イーネット代表取締役、江口隆氏



“E*Net”プロジェクトとは、'98年度の通産省第一次補正予算によって、情報化教育推進事業の一環として発足したもの。E*Net School Editionは、ネットワークの構築、コンテンツの提供、テクニカルサポートやインストラクター派遣などの人的サポートという3つのサービスが情報教育に有効であるとの仮説を、検証するための実証実験プロジェクトである。現在15府県の学校、教育関連者が利用している。

専用線の接続など導入に関するアドバイス、有害情報のフィルタリング、メールアドレスの配布や、授業に使えるコンテンツの提供など、至れり尽くせり。コンテンツは、授業で利用できる分野別リンク集や授業の事例集、コミュニケーションのための掲示板やチャットなどのツールを完備している。生徒の進路指導を補助する『キャリアナビゲーター』では、業界で活躍する人へ、メールで質問できるなど、具体的、多角的な内容となっている。

「今日会場に集まった教職員の方々で興味を持たれた方は、ぜひ正規ユーザーIDを取得して“E*Net”を利用していただきたい」と、江口氏はID申請について説明。「情報教育のサポートサービスセンターとして、さらに内容を充実させていきたい」と語った。

E*Net School Edition HPhttp://www.enetj.co.jp/
デモ用ユーザーID cc000001
パスワード password


大学における情報教育――淑徳大学の事例

  続いて、淑徳大学の国際コミュニケーション学部教授、望月純夫氏は、淑徳学園の情報教育についての報告した。

淑徳大学国際コミュニケーション学部教授、望月純夫氏淑徳大学国際コミュニケーション学部教授、望月純夫氏



望月氏は、大学の情報教育においては、“情報技術が驚異的に発展し、市場構造を変化させた”という経済的影響を理解させることがまず必要であると語った。

淑徳大学の情報教育の科目概要説明に続いて、テレビ会議システムを導入した遠隔授業など、同校のサイバーカレッジ構想について説明した。インターネット利用を中心とした大学院の授業も予定されており、積極的にインターネットを教育カリキュラムへ取り入れていく方針である、と望月氏は報告した。

教育委員会、学校、教師によるインターネットの導入と活用

  三鷹市は、全国的にも最初に学校へのインターネット導入を始めた市として知られている。三鷹市教育委員会指導主事である大島克己氏は、導入にあたっての具体策や活用法について語った。

三鷹市教育委員会指導主事、大島克巳氏三鷹市教育委員会指導主事、大島克巳氏



(1)三鷹市のインターネット導入

阪神大震災の教訓を生かし、学校を地域防災の拠点と考えた上での措置として、三鷹市では'96年に市内すべての小中学校にインターネットを導入した。CATV回線を利用した接続で、スピードには問題がない。接続におけるこの高速化は大きなポイントになると大島氏は言う。常時接続を想定しておかないと、今後のネットの進化に追いつかず、また線を引き直す事態にもなりかねない。

(2)学校のインターネット導入

パソコンの利用場所として、大島氏はまず図書館を挙げる。インターネットは膨大な資料検索の道具。図書館の機能として、自然な形で受け入れられやすい。次の段階としては校内LANを敷設し、利用場所を拡大していきたい。そして“総合的な学習の時間”の校外授業時、生徒の安全管理に利用できるモバイル機器の導入なども視野に入れておくべき、と大島氏は言う。

インターネット導入に際しては、やはり1.5Mbps以上の高速接続は必須である。また、情報の送受信に際しての情報モラルをまず学校が理解し、生徒に教育しなければならない。生徒に見せたくない有害情報などのフィルタリングには、指導者のポリシーを明確に示しておく必要がある。「これしか見てはダメ、というホワイトリスト方式でも構わない。教員が、どういうポリシーを持ってインターネットを扱うかを、きっちりと示しておけばいいのではないでしょうか」と大島氏は述べた。

(3)教員の利用による授業での活用

情報教育にインターネットを生かすには、まず教員、それも管理職が率先してインターネットを利用し、指導できる体制を作らなければならない。校内で先生同士がお互いに教え合うという校内研修が必要で、指導的立場にいるような教員の養成が急務である。 

インターネットを利用した教育が進めば、テレビ会議やメール交換など他校や海外との交流がさらに盛んになると思われる。しかし、インターネットでの交流といっても、例えばテレビ会議などでは、機器の調整や事前の打ち合わせなど、通常授業の何倍もの準備期間が必要だという。

一方、短期間でHPの内容を充実させている学校もある。PTAや同窓会などの連絡機能を持ち、地域社会への発信にも利用できるなど、学校内の情報にとどまらないHPもあり、これからの広がりが期待される。

今後、授業へのインターネット導入に際しては、教員自身がまずインターネット利用に慣れ、授業の実例研究や授業内容に関連したリンク集作成など、具体的に授業を進めるための準備を急ぐべきである、と大島氏は語った。

パソコンは、障害児と社会をつなげる窓口

神奈川県立平塚ろう学校の教頭、田村順一氏により、“特殊教育の場”における情報教育の必要性について報告がなされた。

神奈川県立平塚ろう学校教頭、田村順一氏神奈川県立平塚ろう学校教頭、田村順一氏



  現在のパソコンやインターネットは、高齢者や障害を持つ者にとって使いやすいとは言えない。障害児への支援方策としては、視覚障害のための音声情報や触覚情報への置き換え、聴覚障害児のための分かりやすい表記、知的障害児のための簡便な入力、表記などが考えられている。図などを多用したGUIは音声置換ができないので、視覚障害児なども考慮に入れて、テキストに置き換えるという作業も必要になる。視覚障害者にも閲覧できるよう、公共のウェブなどではテキストページが併設されている場合がある。

肢体不自由児に利用できるよう、息を吹き掛けることで作動する呼気スイッチや大きなスイッチボタンなど、入力デバイスの開発も進められている。病気療養児には、機器開発よりも、メールボランティアなど心の支えとなる人的な支援が必要である。

障害児にとってパソコンは、インタラクティブで効果的な学習教材であり、障害を補う補助具であり、積極的に社会との関わりを広げるための手段でもある。特にインターネットの利用は、障害児にとって新しい社会への窓口となり得る。インターネット利用によって、自分の意志を表現し、自ら主体的に行動する自己決定力を育成できるとして、田村氏は障害児への情報教育の重要性を強調した。

パネルディスカッションコーディネーターを勤める、(社)日本教育工学振興会(JAPET)の常務理事・事務局長、関口一郎氏パネルディスカッションコーディネーターを勤める、(社)日本教育工学振興会(JAPET)の常務理事・事務局長、関口一郎氏



 

パネルディスカッションの様子 パネルディスカッションの様子

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