このページの本文へ

所得格差以上に広がる情報格差(デジタルデバイド)

2000年02月28日 00時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷


“インフォメーションコーディネータ”の杉井鏡生(あきお)氏に、経済水準とインターネットホストの普及率との関係について、分析してもらった。

GDP当たりホスト数を算出すると……

インターネットの普及にともない、それを利用できる人とできない人、利用環境の進んでいる地域と遅れている地域の間にもたらされる情報格差(デジタルデバイド)の拡大が懸念されている。世界銀行の『世界開発報告1998/1999』や国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告1999』でも相次いで世界の地域開発における情報格差の問題が取り上げられている。

そこで、先日発表された米Network Wizards社のインターネットドメイン調査をもとに、各国間におけるインターネットホストの普及率と経済水準との関連を調べてみた。

利用したデータはNetwork Wizards社の調査をもとにした人口10万人当たりホスト数とIMFの1人当たりGDP(米ドル換算値)。ただし各国のホスト数は、地域ドメインに登録されたホスト数に、地域を限定しないグローバルドメインのうち70パーセントを米国に、残りの30パーセントを各国の地域ドメインのホスト登録数に応じて比例配分したものに修整している。対象地域数は人口100万人以上の143カ国である。

分析に当たっては、1人当たりGDPの水準とホスト普及率の相関関係を計測するためにホスト数/GDPという指標を算出した。これは1人当たりGDPで人口10万人当たりホスト数を割って100を掛けたもの(GDP1000万米ドル当たりのホスト数と同じ)。

所得が倍だとホスト数は4倍?

ホスト数/GDP指標をみると、トップはエストニアの105である。2番目以降はニュージーランド、フィンランド、オーストラリア、米国と続く。概して所得も普及率も高い国が上位にある。しかし、エストニアについては1人当たりGDPが3334ドルとそれほど高くないにもかかわらずホストの普及率が相対的に高い。このほかにも、チェコ、ハンガリー、ラトビアなど東欧圏では経済力と比較して、ホスト普及率が相対的に高い国が目立つ。

では、所得格差はホストの普及率格差にそれほど影響していないかとなると、残念ながらそうではなかった。世界銀行の区分けを参考に所得階層別に各国を高所得(1人当たりGDPが1万ドル以上)、中所得(3000~9999ドル)、中低所得(800~2999ドル)、低所得(800ドル未満)に分けて、ホスト数/GDPの平均(単純平均)を算出した。その結果は、高所得国の平均は27.22、中所得国は14.56、中低所得国は5.72、低所得国は1.95となる。

この平均値をみると、ホストの普及率は所得格差以上に格差が開いていることになる。現在のところ、インターネット普及の南北問題は経済格差以上に大きいということである。

ただし、経済力だけですべてが説明できるわけではない。同程度の所得の国同士におけるホストの普及率格差も決して小さくないからだ。1人当たりGDPが2万ドル以上の高所得国だけを比べても、日本、香港、ドイツ、フランス、アイルランド、イタリアのホスト数/GDP指標は10ポイント前後でかなり低い。中所得国並みの水準にとどまっている。

女性の社会進出が進んでいると……

これらをみると、所得格差以外にも普及率格差をもたらす要因があるということであろう。例えば、日本、フランス、イタリアなどが低く、普及率の高い北欧諸国が優位にある指標としては、国連開発計画が発表している“女性エンパワーメント指数”がある。両者の指標には一定の相関関係がみられる。

女性の社会進出度など社会のオープン化度とインターネットの普及率は偶然の相関ではないであろう。もちろん、それだけではなく、この他にもいろいろな要因が研究される必要があろう。

もう一度、所得格差による情報格差の問題に戻れば、やや明るいニュースもないわけではない。水準としては、まだ焼け石に水だが、低所得国のなかでもホスト数の増加率が世界平均(67.5パーセント)を大きく上回る国もあるということだ。前年に数えるほどのホスト数しか持たない地域のケースが大半だが、そのなかで、前年で既に1万以上のホスト数を数える中国が前年比4倍を越える358パーセント増を記録したのは特筆すべきであろう。

いずれにしても、これだけの格差を縮めるのは容易でない。クリントン政権はデジタルデバイドの問題を政策課題として取り上げているが、グローバルなデジタルデバイドの問題についてもグローバルな協調のなかで考えていく必要がありそうだ。

表 地域別の1人当たりGDPと人口当たりホスト数(1人当たりGDPの順位で掲載)上位20まで。全部のデータはこちら。

国名 ホスト前年比増加率(%) 2000年ネン1月ガツ人口当りホスト数(a) 同左ヒダリ順位 1998年1人当GDP(US$)(b) ホスト数スウ/GDP(a/b*100)
1 Switzerland 50.3 6,943 11 36,923 18.8
2 Norway 39 15,074 2 33,106 45.53
3 Denmark 32.7 10,625 6 32,942 32.25
4 United States 68.4 14,613 3 31,488 46.41
5 Japan 72.2 3,472 18 29,957 11.59
6 Hong Kong 52.9 2,795 20 27,736 10.08
7 Sweden 51.7 11,141 5 26,456 42.11
8 Singapore 143.6 7,013 10 26,427 26.54
9 Germany 42.5 3,452 19 26,361 13.09
10 Austria 111 5,586 12 26,142 21.37
11 Finland 27.3 20,362 1 25,102 81.12
12 Belgium 113.1 5,265 14 24,978 21.08
13 France 76.1 2,207 22 24,641 8.95
14 Netherlands 60.4 8,692 9 24,068 36.12
15 Ireland 19.8 2,684 21 24,041 11.16
16 United Kingdam 47.2 5,394 13 23,668 22.79
17 Italy 114.1 1,913 23 20,938 9.13
18 Canada 64.4 9,015 8 19,887 45.33
19 Australia 51.7 9,713 7 19,279 50.38
20 United Arab Emirates 21.4 1,371 29 17,729 7.73


出所=ホスト数はNetwork Wizards社調べ、人口は国連調べの'99年央推計人口、1人当たりGDPはIMF調べ('98年)

《“インフォメーションコーディネータ”
    杉井鏡生 sugii@mtc.biglobe.ne.jp》

・Network Wizards社
 http://www.isc.org/ds/

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン