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【PAGE2000レポートVol.5】フォントワークスCEO、ロス・エバンス氏、フォント環境の近未来を語る

2000年02月08日 00時00分更新

文● 山木大志

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DTPフォントメーカーのフォントワークス・インターナショナル社、社長兼CEOのロス・エバンス氏が来日した。今回の同氏の日本訪問は、新製品『フォントワーク外字マスター1.0』の公式発表と、PAGE2000への出席であるが、単独インタビューの機会を得ることができた。コンピューターの今後のフォント環境、それに対する同社の姿勢などについて、エバンス氏の見解を紹介する。

フォントワークス・インターナショナル社、社長兼CEOのロス・エバンス氏
フォントワークス・インターナショナル社、社長兼CEOのロス・エバンス氏



日本語フォントでは業界2位の実績

フォントワークス社は、業界老舗のモリサワに次ぎ、日本のDTPフォントの供給実績で2位の地位にあるフォントメーカーである。昨年、DTP業界では、Adobe Acrobatが生成するPDF(Portable Document Format)が、フォントを埋め込めるようになったことで大きな話題となった。これによって、異なるプラットフォームの間で文字化けの恐れがなくなるばかりか、高解像度出力にも利用できるからである。

しかし、DTP向けの有力フォントメーカーであるモリサワ、フォントワークスなどがなかなか埋め込み可能な仕様のフォントをリリースしないので、一時は「業務用の埋め込み可能フォントは出ないのではないか?」と危惧されたこともあった。しかし、そのあと、モリサワが'99年10月に新仕様のCIDフォント(後述)をリリース、フォントワークスも今月14日に既存書体に新たに7書体を加えて、124書体を新仕様のCIDフォントとして発売する。これによって、DTPのフォント環境はCIDベースに移行していくことになりそうだ。

現在のDTPフォント(=PostScriptフォント)では、仕様の異なるフォントが幾種類も使われている。標準的な制作環境でも、画面表示用のビットマップフォント、画面表示、一般プリンター出力用のATMフォント、PostScriptプリンター用の中解像度フォント、そしてイメージセッター(製版フィルム出力機)など高解像度出力用の3種類が使われている。印刷物の制作には高解像度フォントが必須で、これがあまりに高価なことが、PostScriptフォントの普及を遅らせている理由の1つとなっている。中解像度以下のフォントも、ビットマップフォントを除き、TrueTypeフォントとの対比では非常に高い価格設定になっている。

PDFに最適なフォントとして話題となっているCIDフォントは、正式には“Character Identifier Keyed Font Format”という長い名前のもので、ATMフォントの一種である。従来のPostScriptフォントに比べて、次の2点で大きく異なっている。高解像度出力にも専用のフォントがいらず、CIDフォントのみで画面表示、一般プリンター、高解像度出力機で利用できること、JISとUnicodeなど複数の文字コードセットが利用できること――である。

ストロークフォントで新しいフォント環境を提供

エバンス氏は、まず日本でのPostScriptフォントが高価である現状について次のように語った。

「日本のDTPマーケットはまだ小さい。フォント開発の投資に見合った価格にしようとすれば、どうしても高価になってしまう。フォントワークスはこの価格を下げるために、2つの試みを行なっている。1つはフォント開発を効率化して、開発費を低減すること。もう1つはマーケットを拡大することだ」

フォント開発の効率化について、同社では数年前から“ストロークフォント”という新しいテクノロジーを採用している。アウトラインフォントは、一般に文字の外形をなぞるラインで構成されている。これに対して、ストロークフォントは1画ずつ(ストローク)が独立したアウトラインで構成される。こうして文字を部品に分解し、これを組み合わせて使うことでフォント開発を効率化しようというのである。同社ではこの技術を2x2(ツーバイツー)と呼んでいる。これは2人が2ヵ月で1つのフォントセットを開発できるという意味だ。

一般のアウトラインフォントとストロークフォントの違い 一般のアウトラインフォントとストロークフォントの違い



今回発表したフォント作成ソフト『フォントワークス外字マスター1.0』もこの技術を利用したものだ。2x2の技術は、フォントのウェート(太さ)変更にも利用できる。現在のフォントの仕様では、ウェートごとに異なるフォントセットが必要だが、2x2の技術を利用すると1つのフォントセットで自由にウェイト(以下、ウェート)の変更ができる。

ストロークフォントの技術を利用して、1つのフォントセットで、多様なウェートの文字が表現できる
ストロークフォントの技術を利用して、1つのフォントセットで、多様なウェートの文字が表現できる



技術的には大きな前進を見せ、成果も上げているが、フォントワークス単独では、マーケットの拡大、フォントの低廉化は難しい。そこで、「2x2の技術をもとに、有力企業との連携を模索している」(エバンス氏)とのことだ。「現在交渉中の企業を今は言うことはできないが、アップルコンピュータやアドビシステムズなどが加わってくれれば、大変ありがたいことだ」(エバンス氏)と語る。

今後のE-PublisingにもPostScriptフォントは必須

ストロークフォントの基本は、画のアウトライン(輪郭)を用いず、画の中心線だけを用い、これを適当な技術で太らせることである。理論上は、太さを調整して自動的にアウトラインを生成することで、ライト、ミディアム、ボールドといった太さごとのフォントを別々に用意しなくても済むことになる。しかし、これでは明朝体のウロコのような表現を導入するのが難しい。そこで、アウトラインと組み合わせるなど、いろいろな融合技術が登場する。

間接的ではあるが、フォントワークスの考えるフォント環境に対して、それを実現する動きも見られる。

「昨年9月にアップルコンピュータのCEO、スティーブ・ジョブス氏がMacOS XでPDFを標準ドキュメントとして採用するデモンストレーションを行なった。これは公開の席で多くのデベロッパーを前にしてのことなので、おそらく間違いないだろう」(エバンス氏)。

現在のMacOSの標準画像フォーマットはPICTであるが、MacOS Xではスクリーンショット(画面キャプチャー)を、OS上で直接PDFで生成できるというアナウンスされている。これは描画システムを現在のQuickDraw(WindowsのGDIに相当)から、PostScriptベースに変更することを意味する。こうした環境が実現すれば、OSと親和性の高いPostScriptフォントの必要性はますます高まるだろう。

最後にエバンス氏は、今後について次のように語った。「今後、紙に印刷することを前提とせず、ディスプレー上に出版するE-Publishingが盛んになってくるだろう。当面はきちんとしたフォントがなくてもやっていけるだろうが、普及に伴い文字も高品質な文字が求められるようになる。近い将来には、スクリーン上で高品質に表示できるフォントがないことは大きな障害となるだろう。今のTrueTypeでは、将来のE-Publishingには対応できない。やはりPostScriptベースの高品位フォントが望まれるようになるだろう。そのためにも、高品位フォントを安価に提供できる環境を作っていきたい」

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