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【PAGE2000レポートVol.4】霞ヶ関を飛び交う電子メールは1日1万通。電子交換公文書システムが活躍する日は近い

2000年02月07日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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2日から4日まで、東京・池袋のサンシャインシティにおいて開催された、印刷、情報ビジネスモデルの展示会“PAGE2000”。この併設イベントとして、情報知識学会の主催により“情報と知識のマネージメントのために”と題されたセミナーが開催された。

このセミナーは、爆発的に普及したインターネットにより、氾濫したる情報と知識をいかに効率よくマネージメントし、生産性を上げていくかをテーマにしたもの。総務庁行政管理局主査の千葉富久男氏、文部省学術情報センター教授の根岸正光氏、図書館情報大学教授の山本順一氏が講師として招かれ、電子公文書、電子ジャーナル、デジタルコンテンツの著作権問題について、それぞれ専門的な立場からの解説がなされた。

今年度末までに電子交換公文書システムが稼働

総務庁行政管理局主査の千葉氏は、“電子政府”の実現に向け、各省庁間で進められている公文書の電子化、それを送受信するための電子文書交換システムなど、行政の情報化の現状について言及した。

総務庁行政管理局主査の千葉氏。“霞ヶ関LAN”では、1日1万通の電子メールが飛び交っている
総務庁行政管理局主査の千葉氏。“霞ヶ関LAN”では、1日1万通の電子メールが飛び交っている



千葉氏は、まず各省庁の電子化の現状について触れた。本省庁におけるパソコンの普及率は、'95年に2.8人に1台の割合であったが、'97年ごろから急速に普及が進み、'98年には1人にほぼ1台の割合まで至った。26省庁間におけるLANの整備はすでに終わり、いわゆる“霞ヶ関LAN”においては、1日1万通の電子メールが飛び交っている状態だという。

こうした行政機関の電子化を背景に、各省庁間の電子公文書を効率よく送受信するためのシステムが、今年度末にも稼働する。この電子文書交換システムは、行政情報推進化計画の枠組みの中で進められているものである。各省庁の発出課で電子公文書を作成し、内容確認のあと、このシステムが電子公印済みの電子文書を受信する。宛名管理、送信元や内容の確認などの認証プロセスを経て、各省庁の文書課に送信され、受取課で処理した電子文書を各担当者が受け取るという仕組みである。

電子公文書の標準化。SGMLに準拠した文書型定義(DTD)を作成

電子文書交換システムを効率よく運用するためには、電子文書の標準化が必要になる。各省庁で使われている既存のワープロやソフトの互換性などを考慮しながら、電子文書の宛先や件名を自動的に認識、登録し、検索できるように配慮した。このため、電子公文書の標準化にはSGMLを採用、これに準拠した文書型定義(DTD)を作成したという。

千葉氏は、SGMLを採用した理由として、文書構造があるので検索ができること、長期にわたる利用や再現ができること、省庁間のさまざまなプラットフォームで利用できることの3点を挙げた。現在、各省庁の文書の形式を分析、実証試験を行ない、DTDの設計の見直しをしているが、あまり複雑になりすぎないように留意しているという。最近話題になっているXMLについては、時期がまだ早いという理由で採用しなかったが、将来的にXMLへの移行があった場合でも、変換できるような形にしておく、としている。

この電子文書交換システムは今年3月から26省庁で稼働するが、日本も“電子政府”に向けて、着実に整備が進められているといえる。

文部省学術情報センターが推進するオンラインジャーナル

文部省学術情報センター教授、根岸氏の講演講演テーマは“電子ジャーナルの最新動向”。根岸氏は、電子形態での雑誌の発行が急速に進展している現在の状況を、学術雑誌を事例に取り挙げて解説した。

文部省学術情報センター教授、根岸氏。「引用文献をリンクしたり、検索できるようにすることが重要だ」と語る
文部省学術情報センター教授、根岸氏。「引用文献をリンクしたり、検索できるようにすることが重要だ」と語る



文部省学術情報センターは、この4月から国立情報学研究所(NII:National Institute of Informatics)に改名される。現在、同センターでは、引用文献索引データーベース、オンラインジャーナルの編集、出版支援、研究者公募情報など、各種のサービスをしている。

同センターでは、すでに'92年から学会誌のSGML化を提唱しており、センターの電子図書館にある文献を検索できるようにしたのは3年前のことである。学術雑誌に掲載される論文は、その性格上、ほかの論文の引用が多い。したがって、参考文献をリンクしたり、検索できるようにすることが重要だという。そして、いよいよ'99年から同センターはオンラインジャーナルの時代へと移行した。

学術文献のオンラインジャーナルシステムの仕組み

根岸氏は、オンラインジャーナルシステムの仕組みについて解説した。研究者はウェブ上の入力フォームから論文を投稿できるようになっている。送られてきた論文の査読は、学会員に依頼することになるが、適任の人間をそれぞれの専門分野別にデータべースによって検索できる。

担当者は、投稿論文を点検したあと、チェックボックスで内容を評価する。この投稿論文の著者の欄はマスクがしてあるので、誰が投稿したかは実際には分からないようになっている。学会誌ができあがったら、これらを同時にウェブで見られるように登録する、という流れである。具体的なオンラインジャーナルのフォームでは、抄録、引用リンク、全文(基本はPDF形式)が見られる形になっている。これらは、現在、物理系の学会などを中心に動き出している。

米国には引用リンクを自動化するシステムも

また、根岸氏は、そのほかの電子ジャーナルの状況についても触れた。電子ジャーナルが配布される形式はさまざまであるが、ロスアラモスのプレプリントサーバーのように単に登録して見るだけのもの、スタンフォード大学の図書館のように図書館がオンラインジャーナルを契約しているもの、また“D-LIB Magazine”のようにフリーで見られるものなどがある。米国の医学図書館の医学論文データベース“PubMED”では、 引用リンクを自動的に処理できるようになっているという。

最後に根岸氏は、「デジタル化が進むようになると、こうした学術的な文書を発行していく商業的な出版社は衰退していくのではないか?」と述べ、次の講演のテーマある著作権の話につないで講演を終えた。

デジタルコンテンツは“著作権の道路交通法”で

最後に登壇した図書館情報大学教授の山本氏は、“デジタコンテンツの著作権”をテーマに、最近にわかに注目されるようになった著作権の問題について解説した。

図書館情報大学教授の山本氏。“著作権の道路交通法”を適用していく
図書館情報大学教授の山本氏。“著作権の道路交通法”を適用していく



著作権法では、思想や感情を創作的に表現したものは守られるが、これはデジタルコンテンツの世界でも同様に適用される。しかし、インターネット上でデータのやり取りがなされるデジタルの世界では、多くの複雑な問題をはらんでいる。

たとえば、ウェブは“黙示の使用許諾”とみなさなければ、自由に閲覧することはできない。インターネットで情報を発信すれば、公衆送信権の問題も出てくる。また、インタラクティブなものであれば、利用者の自由意思での加工や改変も可能になり、同一性保持権や複製権の許諾の問題も浮上する。

こうした問題について、山本氏は“著作権の道路交通法”を適用していくという考え方を示した。これは、モラル上、特に許されない部分だけを考慮し、守ることに値する権利については守っていくという立場である。

その上で守るべき権利については、従来の著作権法のみでは守りきれない問題があるため、いろいろな法律を絡めた仕組みを考えていく必要があると説く。著作権法だけでなく、商標法、不正競争防止法、不法行為法、特許法、附合契約(約款)などを適用し、トータルな形で権利を守るようにしなければならない、とした。

急速に進むデジタル化の波の中では、技術のみがどうしても先行して語られ、法律上の問題については後手にまわりがちである。しかし、デジタル社会の健全な発展のためには、このような問題も早急に解決していく必要があるだろう。

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