このページの本文へ

【PAGE 2000レポート Vol.1】全面的なネットワーク化と情報管理をコアビジネスとすることが重要――Point Balance社、Bill Davison氏の基調講演より

2000年02月03日 00時00分更新

文● 千葉英寿

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

2月2日、日本印刷技術協会の主催により、印刷とプリプレスの専門展示会“PAGE2000”が東京・池袋のサンシャインシティコンベンションセンターTOKYOにおいて開幕した。2月4日までの3日間、“グラフィックアーツのIT戦略”をテーマとして、印刷、プリプレス関連製品の展示とコンファレンスが行なわれる。本稿では、Point Balance社のBill Davison氏の講演などについて報告する。

PAGE 2000は、印刷業界にとって、最も信頼のおける展示会
PAGE 2000は、印刷業界にとって、最も信頼のおける展示会



米国印刷業界のオピニオンリーダーが講演

近年のインターネットの普及などにともない、印刷、出版の世界でもネットワーク化が進展している。あらゆるビジネスの仕組みが、さらなる効率化を目指して再構築されようとしており、その変化の中にあってグラフィックアーツビジネスがどのように発展していけるかが課題となっている。同時に情報技術戦略(IT戦略)を立てる能力がグラフィクス関連の企業に求められていると言える。

基調講演は、まさにそうしたテーマにフォーカスした内容のものとなった。今回は、米国の著名なコンサルティング会社Point Balance社。principal(共同経営者)であるBill Davison氏が、“ネット上のグラフィックサービス”と題して講演した。

講演に先立って、日本印刷技術協会の小笠原治氏が、印刷業界の経営者の目標としているものについて言及した。昨年行なった経営者へのインタビューで、「結果に結びつかない経済状況においても“なにかに貢献したい”という思いの中で事業を続けていることが分かった」という。
 
ネットワークがリアルワールドに移行しつつあり、お金で評価できるものになってきている。例えば、amazon.comのようにいろいろなビジネスモデルが出てきており、こうしたネットワーク社会で何をやっていくのかを自分で考える時代になっている。

だからといって、グラフィックアーツはネットワーク社会で吹き飛ばされるものでない。事実、ウェブで稼いでいる人も6割は紙で稼いでいるし、その効果によって紙の仕事も増えてきている。いまこそ、意識下にあるものを意識化し、自己実現と社会への貢献を両立させるために新たな戦略を考える時といえる。そのためにITを付加し、サービスを付加するという戦略を考えるだけの要素が揃ってきている。Bill Davison氏の講演はそうした戦略を考える上での重要なキーになるものだ、とした。

“Digital Roadmaps Project”

Bill Davison氏は“Industry Architecture Project”(*注1)の共同議長をしているが、この背景にあるのが、一昨年のPAGE98の基調講演を行なったMills Davis氏の“Digital Roadmaps Project”(注2)であり、この仕事にDavison氏も関わってきている。世界的な影響力を持つ専門誌『Seybold Report』や展示会“Seybold Seminars”を創始し、DTPを牽引してきたJ.Seybold氏が引退してしまった今、これからの米国のグラフィック業界のビジョンを背負って立つ人物がこのDavison氏である。米国の業界ビジョンを占うには、彼以上の者はいないといえる。

(*注1): 米国の代表的なグラフィックアーツ業界団体(Graphic Communications Association、Research&Engineering Council of the Graphic Arts, Inc.、Technical Association of the Graphic Arts)が結集して、総力をあげて取り組んでいるプロジェクト。

(注2): これからのメディアにおいて、個別の企業がネットワークとデジタルによるビジネスを有利に進められるようにするための、グラフィック業界の再編をする総合プログラム。マーケット開発、調査、教育などの範囲をカバーしている。

7つのベストプラクティス

PAGE 98においてMills Davis氏は、デジタル化の次にビジネスのネットワーク化があり、印刷業もサプライチェーンの中で、高効率を生むところとそうでないところに二極化し、高い価値のサービスをする2割が勝ち組となると予測した。

Bill Davison氏。25年以上印刷業界で活躍しており、現場を熟知している。現在は、プロセスデザインやコンサルティングの会社であるPoint Balance社のprincipal(共同経営者)として活躍中。同社は戦略開発や業務分析と再構築、ウェブやITやCIMの技術評価、新システムの導入の手伝いとプロジェクト管理などを行なっている。KodakElectronic Printing Systemsのディレクター、Scitex Americaの副社長も務めた
Bill Davison氏。25年以上印刷業界で活躍しており、現場を熟知している。現在は、プロセスデザインやコンサルティングの会社であるPoint Balance社のprincipal(共同経営者)として活躍中。同社は戦略開発や業務分析と再構築、ウェブやITやCIMの技術評価、新システムの導入の手伝いとプロジェクト管理などを行なっている。KodakElectronic Printing Systemsのディレクター、Scitex Americaの副社長も務めた



Davison氏は、まず、その予測を裏付けるものとして、「米国の印刷業において100社のうち上位20社は、他社の5倍の収益を上げている。そして、その格差は縮まるのではなく、さらに拡がりつつある」と語った。

つまり全体の20パーセントがまさに勝ち組となっており、それ以外は負け組として2極化してきている、というのだ。それではその上位20社はいったい何をやっているのだろうか? 機動力を得るために、利益を上げるために何をしているのか?
 
そこには7つのベストプラクティスがあるという。

(1)ネットワークの全面化――ネットワークはほとんどすべての分野において活用されている。すべての業務を完全にネットワーク化し、フェイス・トゥ・フェイスの部分をなくした状態

(2)仕事のオンライン化――自社、他社の仕事のオンライン化

(3)顧客サービスのインタラクティブ化――ネットワークを通じたリアルタイムの情報提供によって、顧客との間にパートナーシップに近いものが実現する

(4)コンテンツにバリュー(付加価値)をつける

(5)コアビジネスは情報管理――情報管理は第2のプロセスではなく、第1のプロセスになってくる。情報を作り、いかに管理していくかが重要になる

(6)分散ネットワーク――他の組織とも関連してくることで、サーバーが組織のコアとして機能してくる

(7)より高度な業界標準の開発――これがあればシステムの開発も容易になる
 
さらにDavison氏は、これに2つのポイントを追加した。

(8)知的財産権へのトライアル――非常に多くの知的財産権へのトライアルが必要になる。いかにすれば知的財産権を守ることができるのかを考えることであり、知的財産権の処理について本格的な対応が必要で、これがデジタルプロダクションにおける現実的な側面といえる

(9)ビジネスアカウンティング――固定資産的なアプローチからアカウンティングシステムへの推移。デジタルアセッツへの返還が求められる

デジタルアセッツに付加価値を加え、“eKnowledge”へ

こうしたことを踏まえ、Davison氏はデジタルアセッツに新たな付加価値を加え、新しいナレッジとして活用していく“eKnowledge”を提案した。この“eKnowledge”によって、ビジネスtoビジネスに活用したり、コンテンツを上手に作ったりする。また、ペーパー、CD-ROM、ウェブといったマルチプルメディアに対応したり、複雑なプロジェクト管理をこなしたりすることができる。プロセスのコアとなり、タスクの中心になる。“eKnowledge”を中心に、マニュファクチャリングや制作の流れ(eProduction)、サプライチェーンや顧客に対する流れ(eCommerce)を再構築していくという。 

“eKnowledge”を中心とした次世代の印刷業態モデル。新しい印刷業のビジネス形態として興味深い
“eKnowledge”を中心とした次世代の印刷業態モデル。新しい印刷業のビジネス形態として興味深い



このようにネットワークされた環境下で情報資産を中心にビジネスを再構築していく考え方は、米国においてもこれから提案されていくことで、すでに実現しているわけではない。Davison氏も「すべてが一遍に実現するものではない。少しずつ実現できればよいと思う」としている。
 
しかし、ネットワークを中心にあらゆるビジネスが再構築されつつある世界的な流れの中にあって、米国に比べ技術的にも6年の遅れを取っていると言われている印刷業であればこそ、こうした新たな戦略に取り組む必要は充分ある。同じデジタル化、ネットワーク化に取り組むのであれば、こうした未知の領域を見据えた戦略こそが重要と言えるだろう。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン