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【INTERVIEW】CATVでリッチコンテンツ配信サービス、上がり1ハロンで日本は米国を抜ける--アットホームジャパンの荒木マネージャーに聞く

2000年02月02日 00時00分更新

文● 文:船木万里、聞き手:編集部 中野潔

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米国で、通信サービスの@Home(以下、米アットホーム)がポータルサービスのExcite(以下、米エキサイト)を買収したと、ascii24が報道したのは、'99年1月21日。そうして誕生したExcite@Homeの日本法人(100パーセント米国資本ではない)が、アットホームジャパン(株)(@Home Japan)である。同社では6月から、CATVのケーブルを利用したインターネット接続および動画などリッチコンテンツの配信サービスを開始する。電撃買収の1年後、2月2日に、日本法人の社屋の設備内覧会を実施した。内覧会に合わせて、Excite@Home(以下、エキサイトアットホーム)のBusiness Development Managerである荒木勤氏に話を伺った。

赤いドア、黄色い椅子

--まず、社屋であるこのビル各階の構成についてお聞かせください。

「今度の内覧会では、部分的にお見せすることになりましたが、まず1階には、映像や音響など、当社のコンテンツ内容をごらんいただく体験ブースを設置しました。会議室も1階です。地下1階は、ケーブルの状況をリアルタイムに把握できる、ネットワーク・オペレーション・センターです。日本全国のネットワーク状況を大きなスクリーンで見られる、SF映画に出てくるような管制室になりました」

「ここで働く人の気持ちをリフレッシュさせるような、明るく斬新なオフィスにしていきたい」と語る荒木氏
「ここで働く人の気持ちをリフレッシュさせるような、明るく斬新なオフィスにしていきたい」と語る荒木氏



「2階から4階は通常のオフィスですが、赤いドアや黄色い椅子など、色とデザインに気を配って、アメリカ本社の自由な雰囲気を取り入れた明るいイメージにしています。5階は、社員のためのレクリエーションエリアです。コーヒーを飲んだりゲームをしたりして、気分転換できるスペースとして充実させていきます」

--アットホームジャパンとしては、どのような形でビジネスをスタートさせるのですか?

「ジュピターテレコムとの提携によって、今年6月から、CATVのケーブルを利用したインターネット接続サービスを始めます。また、ケーブルテレビの回線を利用して、ニュースや音楽、動画などを中心とした、独自のデジタルコンテンツをユーザーに配信します。当初は東京と福岡のCATV加入者、約50万世帯を潜在顧客対象とします。利用月額は6500円の予定で、今年度は4万世帯の加入を見込んでいます」

地域データセンターなどネットワーク負荷の軽減策が秘訣

--東京のサーバーからデータを直接、全国のユーザーに送信するのですか?

「今後のユーザー数増加に伴うネットワーク上の混雑を避けるため、地域サーバーの設置を考えています。RDC(Regeonal Data Center)と呼んでいます。比較的空いている時間帯に、センターサーバーからRDCにデータをコピーするという体制を作れば、センターサーバーをはじめとする、ネットワークの中央部分の混雑によるパフォーマンス低下を防ぐことができます。アメリカの@Homeでは、すでに20ヵ所のRDCを設置しています。日本でも、会員数に応じて、数ヵ所まで増やしていきたいと思っています」

--今後、通信スピードの向上には、やはり、CATV利用がベストなのでしょうか?

「特にこだわっているわけではありませんが、現状ではケーブルを利用した通信が最適だと考えています。ADSLなどでも、もちろんスピードは速いのですが、地域が限定される上、品質にも問題が生じることがありますし」

「当社で採用された従業員は、必ずアメリカ本社へ研修に行きます。向こうの仕事を実際に見て感じたものを、日本での業務に生かしてもらいたいから」と荒木氏は社員の発憤に期待する
「当社で採用された従業員は、必ずアメリカ本社へ研修に行きます。向こうの仕事を実際に見て感じたものを、日本での業務に生かしてもらいたいから」と荒木氏は社員の発憤に期待する



「昨年、雑誌で発表された実測テストでは、56kbpsのモデムで240秒かかる画像表示を、@Homeでは4秒で表示しています。つまり60倍の速さということです。ちなみにCATVを利用した他の会社では、16秒、我々の4倍の時間が掛かっています。これだけのハイパフォーマンスを実現するには、サーバー、キャッシング、ルーティングなどの高度な技術が必要です。一方、リーズナブルな負担で使っていただけるよう、コストの問題もクリアしなくてはなりません。当社で蓄積しているこうした高速通信のノウハウをCATV会社が利用し、我々はCATVのユーザーを顧客として獲得できれば、メリットが一致します」

日本は上がり1ハロンの追い込みで米国を抜く

--既存のCATV会社のうち、どれくらいがアットホームのブロードバンドサービスに適合するのですか?

「日本全国で自主放送番組を持つCATV会社は約800社で、現在利用されているケーブルには、250MHz、450MHz、750MHzと3種類の光ファイバー規格が混在しています。当社のコンテンツを配信できる750MHzのケーブルを引いている会社は、約半分というところでしょうか」

「アメリカでは、ケーブル敷設が早い時期に行なわれた分、日本よりも光ファイバー化は遅れています。インターネットサービスを提供できるよう、ケーブルを引き直している会社も多いようですね」

編集部注:CATVといっても、局から家庭まで、1本ずつ同軸ケーブルを這わせているわけではない。電話や電力と同じく電柱という言い方をするなら、電柱までが光ファイバーで、そこから先が銅線になっていることが多い。電話でも電柱までは、容量の大きい線で来ていることが多い。さて、高速大容量を実現するための局から家庭までのケーブル敷設問題を、ラスト・ワン・マイル問題と呼ぶことが多い。しかし実際には、電柱から家庭までの、20~200m、すなわち、ラスト・ワン・ハロン(furlong=201m)問題だといえる。蛇足だが、電子商取引における物品の受け渡しにコンビニエンスストアを使うとすると、都会なら、家庭から、100~500mぐらいのところにある店舗まで商品が来る。あとは、顧客に不自由感を感じさせずにどう取りに来てもらうかという問題になる。これもラスト・ワン・ハロン問題である。

--それだけのメリットを見込んでいるのでしょうか?

「アメリカでは、この1年でCATV加入者がかなり増加しました。今では全世帯の17パーセントが加入しているともいわれています。CATV会社としても設備の減価償却の時期は過ぎていますので、今後の展開を考えるとやはり、光ファイバー導入への投資を考えるでしょう」

--情報量だけを考えれば、CS多チャンネル放送だけで済むような気もしますが……。

「ユーザーの時間の使い方を考えると、やはりオンデマンドシステムのメリットは大きいと思います。例えば、ニュース番組を都合のいい時間に見ることができるようになります。録画の手間もありません。音楽や映画など、好きなものを好きな時間に楽しむという、インターネットならではのインタラクティブな情報収集が、簡単に行なえます」

荒木氏の説明には、米国仕込みの論理と情熱があふれる。「アットホームはテレビ局の編成室のようなものですね。コンテンツソースを集め、引きやすいチャンネル構成、見やすい画面、楽しんでいただける仕掛けで提供するという作業を行なっていきます」
荒木氏の説明には、米国仕込みの論理と情熱があふれる。「アットホームはテレビ局の編成室のようなものですね。コンテンツソースを集め、引きやすいチャンネル構成、見やすい画面、楽しんでいただける仕掛けで提供するという作業を行なっていきます」



会員の顔が見えるネットワークには、それなりのメリット

--アメリカでは昨年、アットホームとエキサイトとが合併して、エキサイトアットホームとなりましたね。

「アットホームはこれまで、ブロードバンドでの高速通信技術を高め、リッチコンテンツを充実させてきました。エキサイトは検索エンジンの会社でしたから、ナローバンドでのコミュニティーを発展させてきていますし、個人ユーザー向けのカスタマイズ技術にも優れています。エキサイトアットホームはこうした長所を組み合わせて、どのような端末、接続状況であっても、ユーザーの状況に応じた形でいつでもデータを利用できるようなシステムを作り上げています。ユーザーの詳細な個人情報を合わせて活用することで、広告収入もアップしています」

「日本では、エキサイトジャパンとアットホームジャパンとが別会社のままですが、お互いの事業に協力していきたい、という姿勢をとっています」

--今後、アットホームとしては情報提供サービスだけでなく、セキュリティーや物販や宅配や金融などの総合生活サービス事業まで展開していくお考えですか?

「発展プロセスにもよりますが、いいパートナーが見つかれば、提携によってさまざまなサービスをユーザーに提供していきたいとは考えています。ただ、アットホームの事業として、現時点では、ハイスピードを生かしたメディアサービスの充実をメーンに考えています」

「お客さんのプロフィールは、お客さんと気持ちを一にするための大切なきずな。パーソナルな趣向にジャストフィットした情報を提供できますし、情報提供者のモチベーションもアップします」とお客さんのデータをないがしろにしないことを断言
「お客さんのプロフィールは、お客さんと気持ちを一にするための大切なきずな。パーソナルな趣向にジャストフィットした情報を提供できますし、情報提供者のモチベーションもアップします」とお客さんのデータをないがしろにしないことを断言



「お客様の接続状況、利用しているOSなどの詳細なデータを把握してサポートし、課金システムまで含めたバックエンドシステムを整備していきますので、ユーザーの顔が見えるコミュニティーができます。お客さんだけでなくコンテンツを提供する側にも安心感があるようです。登録してプロフィールが分かっているお客さんを相手にするときには、コンテンツ供給者側でも、違法コピーをむやみに恐れてコンテンツを出さない、といった後ろ向き心理が薄まるのです。サービス開始後は、内容的にも充実したデジタルコンテンツを編集して配信し、日本での成功モデルとなれるよう努力していきたいですね」

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