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【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.2】“考え深い関係:病的な娯楽についての気まぐれな計算”――ロボットたちの殺戮と果てしない性交

1999年12月27日 00時00分更新

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さあ、お楽しみはこれからだ。放心と恐怖の彷徨の果てに

午後6時55分、待ち疲れ、冷えきった開場の一角に突然火柱が立つ。すごい熱だ。火炎放射機のテスト。寒さで冬眠一歩手前だった観客には、いい目覚ましだ。やがてサイレンが鳴りわたる。お楽しみの始まりだ!

しかし、これは映画や演劇のようにお定まりのエンタテイメントではない。起承転結だのストーリーだの、スリル、スピード、サスペンスだのといったものとは無縁の見せ物なのだ、ということをすぐに思い知らされる。マシンはぎしぎしと動き始めるが“殺し屋”たちの動きはのろくさく、イライラするほどだ。とにかく大人しく見ているしかない。

リモコン操作で走る火炎放射機が炎を噴き出す。“ジャングル風呂の壁”が燃える。恐ろしい勢いでヌンチャクを振り回すマシンが背後から攻撃する。ずたずたにされる壁。殺戮と破壊のみに用途を限られたマシンは、たしかに恐ろしげだが、やつらが対象を攻撃するありさまは珍妙でマヌケですらある。アホくささに安心しきっていると、いきなり観客席めがけて突進してくる。これは怖い!――そうやって観客は恐怖と放心の間を行ったり来たりさせられるのだ。

いよいよ戦闘開始。燃え上がる“神社”。だがそれほど派手に炎上するわけではなく、ちらちらと地味に燃えていく
いよいよ戦闘開始。燃え上がる“神社”。だがそれほど派手に炎上するわけではなく、ちらちらと地味に燃えていく



強力な破壊力を誇示する“角材投げつけ機”――『Pitching Machine』

いきなり槍のようなものが至近距離に飛んできた。これはガラスばりのマガジンに装填した角材をかなりの速度で打ち出す『Pitching Machine』だ。SRLのロボットには全て的確な名前がついているのだが、むしろこれは“角材投げつけ機”と呼びたい。こいつはかなりの破壊力をもっており、背後の安全鋼鈑が衝撃でめくれ上がる。クルーがマガジンに角材を装填する様子は、材木屋の出荷のようにのんびりとしている。あまりに日常的な動作と、それに続く破壊を交互に見ていると、なんだか神経が麻痺してくる。



マシンを操るクルーは静かにリモコンを操作するのみ。ロボットに乗り込むアニメの勇者のように絶叫したりしないのだ。そのポーカーフェースが逆に怖い
マシンを操るクルーは静かにリモコンを操作するのみ。ロボットに乗り込むアニメの勇者のように絶叫したりしないのだ。そのポーカーフェースが逆に怖い



時折、目覚ましよろしく火の粉が降ってくる。打ち上げ花火機械『Spark Shooter』だ。ズドーン! 花火がきらきら。とてもきれい。だがリズミカルに劇的に打ち上げるわけではない。徹底的に間の悪いパフォーマンス。こんなものに慣れている人はそうそういないだろう。ガーっと盛り上がりテンポよく進行するゲーム、ハリウッド映画、ジャパニメーションに慣れきった人々に、SRLは気の抜けた暴力をお見舞いする。でも実際の戦争ってこんなものかもしれないなと、ちらと思った。

2、3分に1回、思い出したように発射される花火。緩急とか演出をまったく無視した文字通り機械じかけの花火大会。これもSRL式演出?
2、3分に1回、思い出したように発射される花火。緩急とか演出をまったく無視した文字通り機械じかけの花火大会。これもSRL式演出?



マッドサイエンティストの夢のルナパーク? そして観客は戦争ゴッコに巻き込まれていく

「衝撃にそなえろーーー!」

誰もそんな風に叫びはしないが、最前列の人々が耳を押さえてさっとしゃがむ。すぐさま『Single Barrel ShockWave』が発射。鼓膜破壊確実の衝撃と大音量が同時に人々を襲う。長い砲身から打ち出されるのは圧搾空気だろう。狙われた“学芸会のライオン”のどてっ腹に穴があく……というより張り子の銀紙が破れてひらひらしている。破壊力はさほどではないが、驚異的な衝撃波だ。戦場でシェルショックにかかる兵士が夜も昼も聞かされていたのはこんな音響かもしれない。

この“波動砲”はリモコン操作でぐるぐると砲頭を回す。近くにいたので係のクルーの手元が見えた。彼を見張っておけばいつ衝撃がやってくるか予測がつく。が、それじゃあ面白くない。砲身の動きに注意して、狙いが定まったらキャアキャアいいながら耳を押さえてうずくまる。戦争ゴッコだ。そうやって我々はこのロボット戦争に完全に巻き込まれている。

目に見えない空気の砲弾で破壊する『Shockwave』は来日したマシンの中で最も兵器らしい外観を持っている
目に見えない空気の砲弾で破壊する『Shockwave』は来日したマシンの中で最も兵器らしい外観を持っている



Shockwaveのクルーはうっすら微笑を浮かべて、時々観客席の真上に一発お見舞いする。もちろん客は大喜び。何だか彼は遊園地のお兄さんみたいだ。カップルが観覧車に乗り込むと、サービスで2回も3回も余計に回してくれる気のいい兄ちゃん。その意味でSRLは移動遊園地に似ている。あちらではとてつもなくうるさいジェット噴射、こちらでは飽きもせずヌンチャクを振り回し角材を投げつける機械。マッドサイエンティストの夢のルナパーク?

個性を演出するロボットたち。“いじめられ役”は『Woody Copter』

攻撃を主とするマシンの他に“いじめられ役”も存在する。悪趣味なポートレイトを貼り付けた4枚の円盤が不気味に回転する『Woody Copter』はかっこうの標的だ。



その場でぐるぐると回転する『Woody Copter』。攻撃されると的に貼り付けられた顔は無残に破れさっていく
その場でぐるぐると回転する『Woody Copter』。攻撃されると的に貼り付けられた顔は無残に破れさっていく



ジャングル風呂の壁はすでに燃え落ちた。じっと立っているだけと思われた学芸会のライオンが巨体を震わせながらぎくぎくと行進する。“歩く屏風”とでも呼びたいパネル(これまた悪趣味な画像つき)もわざわざ殺されるために動きだした。当然、殺戮マシンたちは炎で鉄拳で空気砲で角材で攻撃する。しかしこの場の本当のスターはとんでもなく不格好な“いじめられ役”の方なのだ。

Woody Copterは打たれると「もっとやって!」と叫ぶようにぐるぐる回転する。穴だらけになってもピストン運動をやめない屏風をShockwaveが面倒くさそうに打ってやる。マシンたちは冷却水をよだれのようにしたたらせながらセックスにふけっているのだ。

ぼろぼろになった張り子のライオン。前後から責められ下からは炎に焼かれ、快感に震えているようだ
ぼろぼろになった張り子のライオン。前後から責められ下からは炎に焼かれ、快感に震えているようだ



<<文:Yuko Nexus6/写真:EV>>

ICCのSRL情報
http://www.ntticc.or.jp/event/srl/index_j.html

SRL
http://www.srl.org/

【関連記事】【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.1】“考え深い関係:病的な娯楽についての気まぐれな計算”――SRL日本公演「まさか」の実現
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue
/1999/1227/topi05.html

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