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【第1回デジタルフロンティア京都開催 Vol.3】グローバル化に向け、京都を新しくマッピング――シンポジウム編

1999年12月27日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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21、22日の両日、京都市勧業会館みやこめっせで“第1回デジタルフロンティア京都”が開催された。ここでは、2日目の午後に行なわれたシンポジウム“日本文化の再デザイン――京都の役割とデジタルアーカイブ”を紹介する。

2時間にわたるシンポジウムのモデレーターを務めた京都大学大学院教授の柏倉康夫氏は、まず最初にデジタル時代の中で京都という文化都市がどう位置づけられていくのかについて、各パネリストにコメントを求めた。

壇上イメージ
壇上イメージ



モデレーター役の柏倉氏はNHK出身で、広い視野からパネリスト達のコメントを引き出していった
モデレーター役の柏倉氏はNHK出身で、広い視野からパネリスト達のコメントを引き出していった



壊しても残るのが伝統。裏千家のようなものこそデジタル化を

立命館大学で西洋文化を担当している鶴岡真弓教授は、西洋と比較して日本にはすばらしい美や文化がありながら、18世紀から近代のシステムから脱却していないとし、これから新しい未来派の形が登場するのを期待しているとコメント。また、そのイメージと気配を感じられる京都が、発信の場となるのではないかとした。

続いて、4年間、京都の大学に在籍していた武邑光裕氏は、一地域としてより、“世界の文化をブラックホールのように集めてきた”文化の遺伝子が集積する拠点として京都を捉えているという。その資産をこれからどうしていくのかは、産業と文化の両面から大きなテーマであると語った。

札幌大学文化学部教授で元国立劇場演出室長の木戸敏郎氏は、京都以外に日本の古典を数多く関わってきた立場から、京都を憧れと同時にしばしば裏切られる場所とコメントした。その理由は、伝統的でありながらその秩序がなく、古来の形而上学が再現できない場合があるからである。とはいえ、本来、伝統と伝承は区別されるべきものであり、古典として過去になっていくものが伝承であり、壊しても残るのが伝統という形であるとした。

その例として、茶美会グループ代表の伊住政和氏は、茶の湯の伝統をまず最初に利休が改革し、さらに明治時代には椅子席での茶の湯なども行なわれたが、伝統はそれらを乗り越えて連綿と伝えられているとコメント。その一方で、裏千家のような伝統と格式に守られたものこそデジタル化に向いていると語り、そこで本当に大切なものが何であるかを踏み込んでいきたいとした。

裏千家家元の次男である伊住氏が提案する“茶美会グループ”は、茶の湯の持つ生活総合文化体系を現代生活の中に生かすといった活動を行なっている
裏千家家元の次男である伊住氏が提案する“茶美会グループ”は、茶の湯の持つ生活総合文化体系を現代生活の中に生かすといった活動を行なっている



伝統を再構築するデジタルアーカイブ

それに対し武邑氏は、伝承は時間によって廃れて無くなっていくが、伝統は未来に影響を与えるものであり、それらを再構築していくための手法として、デジタルアーカイブがあるとした。それには、もっと日本の伝統文化に興味を持ってもらうことが必要で、その一例として『京都図鑑』という作品を紹介した。

『京都図鑑』は郵政省の第3次補正予算で開発を受けて京都デジタルアーカイブ推進機構が開発したもの。ワイヤーにつながってふわふわと浮かぶ写真やテキストが、直感的なインターフェースとなって、子供たちの興味を引き込んでいく。現在、Windows上でしか見ることができないのは残念なところ
『京都図鑑』は郵政省の第3次補正予算で開発を受けて京都デジタルアーカイブ推進機構が開発したもの。ワイヤーにつながってふわふわと浮かぶ写真やテキストが、直感的なインターフェースとなって、子供たちの興味を引き込んでいく。現在、Windows上でしか見ることができないのは残念なところ



この作品は、今回のイベントを主催する京都デジタルアーカイブ推進機構によって開発されたもので、ウェブ上で京都文化や関連する項目を、ハイパーリンク形式で立体的に見られるようになっている。バックエンドにはスミソニアン美術館のサイトで使われているものと同じ技術が使われており、ハイエンドな技術を使って、いかに分かりやすく見せるかがポイントとなっている。

また、制作にあたって作品が小中学校向けということもあり、普段では公開されない貴重な資料なども公開され、図らずもオンラインによるデジタルアーカイブが実現することとなった。こうしたコンテンツは、世界に対しても注目を集めることになり、今後の京都の在り方にも影響すると言えそうだ。

自ら演出者として、数々の文化再現に関わってきた木戸敏郎氏はシンポジウムの中で、文化を残す1つの手法としてまるごとデジタル化するという手法もありかもしれないと発言した(写真左)。デジタル業界ではおなじみの武邑光裕氏は、現在、東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授であり、今回のイベントを主催する京都デジタルアーカイブ推進機構のアドバイザーも務めている(写真中央)。立命館大学の鶴岡真弓氏は、主に西洋の地域文化との比較からデジタルアーカイブの在り方についてコメントした(写真右)
自ら演出者として、数々の文化再現に関わってきた木戸敏郎氏はシンポジウムの中で、文化を残す1つの手法としてまるごとデジタル化するという手法もありかもしれないと発言した(写真左)。デジタル業界ではおなじみの武邑光裕氏は、現在、東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授であり、今回のイベントを主催する京都デジタルアーカイブ推進機構のアドバイザーも務めている(写真中央)。立命館大学の鶴岡真弓氏は、主に西洋の地域文化との比較からデジタルアーカイブの在り方についてコメントした(写真右)



ローカルとグローバルのレイヤーを重ね合わせる

先の延長として議論になったのが、再現性の問題である。柏倉氏は法隆寺の宝物殿のように、実物の横にデジタルの資料があって、実物とそれらを往復することで、再現性を高める方法があるとした。武邑氏は、デジタルアーカイブが箱に入ったままの資料に終わらず、新しい文化の資源として活かされる道が必要とコメントした。むしろ問題なのは、文化を再現する職人がいなくなっているところにある。伊住氏は、デジタル化が難しいと思われている、その場の空気感や環境のようなものに対しても、型と形によってある程度伝わるものであり、どうしてその型と形が必要なのか、意味を理解するためにデジタルアーカイブが役立つかもしれないとした。

何かが残されていく際には、面白さや興奮するといった要素も大切であると言う鶴岡氏は、その要素としてドメスティックな意識を挙げた。つまり、地域だけが持つなつかしいという感じが伝統として残り、グローバルスタンダードとしてのデジタルに対するものとして、関心を高めていくというわけだ。

ただ単に残すのではなく、外側からどう見られているか、どこへアピールしていくかも大切であるというコメントは、これからデジタルアーカイブに関わろうとしている人達にとって大きなヒントになっただろう。柏倉氏によると、その昔、グーデンベルグの印刷機の発明によって、世界はラテン語で統一されるだろうという話があったそうだ。この話は、インターネットの世界で一時期、英語が世界共通語になるだろうといった話に似ている。現在、インターネットはますますローカルの色が濃いものになってきている。グローバルとローカルという2層のレイヤーは、デジタルアーカイブだけでなく、デジタル全体にとっても大きなキーワードになっていると言えそうだ。

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