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【年末特別企画OS対談Vol.3】「世の中のメインプラットフォームは10年周期で切り替わっている、2000年はその中間時期」「2000年は組み込みOSが熱い、誰も気づかないけどね」

1999年12月27日 00時00分更新

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年末特別企画対談OS編では、ASCII24上でOS関連のコラムを連載中の柴田文彦氏と塩田紳二氏をお迎えし、2000年以降のOS市場について語っていただいた。最終回となる今回は、白熱する組み込みOS市場と、今後のOSの進化について。最後は2000年のOS市場をお2人に予想していただいた。

後からじわじわと効いてくる開発環境の重要性

柴田「カーネルが今後大きな進歩を遂げるっていう気はしないし、もう枯れた技術の上に、いろいろな新しい機能をつけ加えているわけだから、今後10年経ってもそれほど変わってないかもしれない。だって10年前といまと、あまり変わらないじゃないですか、UNIXのワークステーションからみて。ユーザーインターフェースとか全然変わってないですよね。だから10年経っても同じなんて、それでいいのかなって思う。それでいい人はいいんだろうけど」

塩田「10年前に比べるとプログラムを作るのは楽になってきているかな。昔、ワークステーションのころは、X Window Systemでプログラムを組むのは『これが人間がやることか』というような苦労があったんだけど(笑)、いまは、スクリプトベースの言語から直接GUIを作ったりできるようになってきてるから、前に比べればアプリケーションを開発する土台としてはよくなった。そっちのほうは、どんどん安定化を目指してもらえばよくて、その上でどういうことができるようになるかっていうところになってくると思うんだけどな。

以前はサンプルプログラムで画面に“Hellow! World”って出すのにさ、何十行と書かなければいけなかったのが、いまは2、3行書けば“Hellow!World“”って出る時代だから。Windowsでも最初のころは延々とプログラム書かないと文字も画面に出せなかったけど、いまはVisual BASICで2、3行書けばいい。そういうレベルにはきてるんで、もう何のアプリケーションを動かすか、何を作るかっていうところの話でいいんじゃない?

昔みたいに、カーネルがガラッと変わることで、コンピューターの使い方がガラッと変わっていくということにはなっていかない気がする。10年後とかは全然わからないけど、そんなに大どんでん返しが急に起こるような気がしない、カーネルやOSの世界でね。今後、いままでの失敗を繰り返さないようなカーネルというのはどんどん出てくると思うけどね。Palm OSはMacintoshなどのいいところを持ってきて、ある特定の分野で成功した。今後、新しいOSが出てきてもそういう形になるんじゃないですかね」

柴田「開発環境ってサーバーよりももっとニッチな市場ですけど、確かにあるかもしれない。もっとニッチな市場で、BeOSにしろLinuxにしろ、BeOSからWindowsに移殖されるソフトって、最初BeOSの軽いよくできたオブジェクト指向の環境でプログラミングするから製品レベルにまでできちゃう。基本構造をしっかりしておいた上で開発したほうが作りやすいと思ってる人がいるかもしれないし。Linuxのいろいろなツールを使いながらでなきゃプログラミングできないとか言う人もいるかもしれない。その後で人に移殖させてもいいわけだし。市場としてかなりニッチですけどね」

柴田文彦氏プロフィール:某複写機メーカーエンジニアの職を辞し、現在は自称エンジニアリング・ライター。特にBeOSやMacintoshに造詣が深く、ASCII24上では、『柴田文彦のMostly BeOS』を連載中
柴田文彦氏プロフィール:某複写機メーカーエンジニアの職を辞し、現在は自称エンジニアリング・ライター。特にBeOSやMacintoshに造詣が深く、ASCII24上では、『柴田文彦のMostly BeOS』を連載中



塩田「C++を超えなきゃだめかなという気はする。あれになって余計迷子の道へ入り込んでいったような気がするんだけど」

編集部「C++を超えるものってなんでしょう?」

柴田「あれ、あんまりいい環境じゃないですよ」

塩田「見通しが全然立たない。Cのプログラムだと一応書いてて、プログラムの動きがこうでこうでみたいなシナリオというか、ラインが読めていたのが、C++にMFC(Microsoft Foundation Class、Windowsアプリケーション開発用のC++クラスライブラリ)とか使うと、それが全然読めなくなった」

柴田「自分でしなきゃならないことが多すぎて、プログラミングの優劣がCよりよけいつくんですよね。だめな人の書いたC++のプログラムなんか、使い物にならない」

塩田「例えばクロスの開発環境で、いいツールが揃ってるものがあれば、それで全部開発して、それからいろいろなプラットフォームに移してというのはあると思いますよ。いまはみんな統合環境みたいなところにいってるけど、もうちょっと便利に、ダイレクトに動いているプログラムの中が見られるみたいなね。それこそ3次元でプログラムが表現されてて、ここって見れるみたいなのがあると面白いのになるかもしれない」

柴田「コンパイルして動かし直さなくても、プログラムにちょこっと書いてその場で動きが変わったり、動いてるプログラムのメニューが変わるとかね」

塩田「そうそう。ゼロ以下のデータ領域が赤く見えるとかなんかね、そういうふうに、もっとビジュアルにプログラムを組めるといいかもしれない」

柴田「そのへん、まだ革新が起こる余地がずいぶん残っていますよ、開発環境は」

塩田「オブジェクト記述言語の共通化みたいの、やっていたじゃないですか。ああいうのでもうちょっと図を書くことで骨格ができ上がるとかね。そういう意味ではアプリケーション次第みたいなところがあるんで、ああいうところで3Dとか技術をうまく使えばいいっていう気がすんだよね。昔のTurbo Pascalが統合環境として登場して、その後でパソコンの開発環境は、みんなあんなふうに、統合環境が使えるようになった、みたいな感じにいい見本ができるとみんなそれに従うようになるんじゃないですか。でも儲からないんだろうな、きっと」

柴田「そうなんです」

塩田「あれなのかね、メトロワークスみたいにクロスプラットフォームだ、埋め込みだ、何だって、あらゆるところに持っていけるみたいなふうにして、しかもCだ、Pascalだ、Javaだ、全部できますみたいな、ああいうふうにするしかないのかね。でもメトロワークス買われちゃったしね(笑)。Macintoshだとメトロワークスは、かなりメジャーな開発プラットフォームでしょう?」

柴田「いまはメトロワークスしか残ってない。1つはCPUが難しくなってくるじゃないですか、プログラム。例えばG4とか出てきて。そうするとコンパイラーとかの重要性はますます高まるんです。下手なコンパイルされたりしたら全然性能が出ない。ハードがもう、かなり直線的なプログラミングだけじゃ性能を発揮できなくなってきてるんで、コンパイラーが重要になってきて、たぶんそれでメトロワークスを買収したんだと思うんですよ、モトローラは。

そういうことからいうと、開発環境というのは儲からなくてもすごく重要で、OSごとにプラットフォームに開発環境があるんじゃ、儲からないものがますます儲からなくなっちゃいますから、そのへんうまくやらないとね。全然進歩がそこで足かせになっちゃうんですよ。メトロワークスがモトローラに買われちゃったのはまずいですよ。あれだけ手広く開発環境を提供しているメーカーが」

塩田「BeOSって何が標準なんですか」

柴田「いまはgccですね。メトロワークスが両方やってたんですけど、メトロワークスはPowerPCはすごくいいんだけど、インテルのほうには弱いんで、gccになっちゃった。メトロワークスは強いところで仕事ができていいんでしょうけど」

塩田「CPUがでるときにコンパイラーがいいところを握ってないとだめだみたいな感じだったんですよね。MIPSとか最初出だしよかったのはコンパイラーがよかったからみたいなのがあったし。コンパイラー次第でしょうね」

柴田「ですから言語もC++でずっといいわけでもない。開発環境というのは非常に大事でOSの鍵を握ってますから。表面的には出てこないんだけど、芯の強さみたいなものとして、じわじわと後から効いてくるのが開発環境なんですよ」

塩田「いいコンパイラーをどれだけ入れるかみたいなところはありますね。Linuxの場合、一応、gccちゃんと持っていて、そっちが先にあったみたいなのがあるからきっとよかったんですよね。Palm OSとかね。メトロワークスがPalm OSの正式開発環境なんだけど、 gccでも、ほぼ同じような感じにできるみたいになているし、特にDSPとか組み込みのコンパイラーってよく見るとgcc使ってたりとか、けっこうあるから。gccくらいしかないんじゃない、クロス環境をちゃんとできるものってね。こういう分野にはマイクロソフトのVCがないわけだしね。そういうところがどうなるかが2000年の決め手になるかもしれないですね」

塩田紳二氏プロフィール:某“家電の巨人”メーカーでパソコンの開発に携わった後、フリーライターとして独立。ASCII24上では、“塩田紳二のMicrosoft Espresso”、“塩田紳二のIntel Espresso”を連載中
塩田紳二氏プロフィール:某“家電の巨人”メーカーでパソコンの開発に携わった後、フリーライターとして独立。ASCII24上では、“塩田紳二のMicrosoft Espresso”、“塩田紳二のIntel Espresso”を連載中



OSのユーザーインターフェースは進化しないのか?

柴田「ひとつ残念なのは、ここ10年か20年くらい、ほとんどGUIって変わってないんですよね。メニューバーがあってウインドーがあって、スクロールバーがあってという。それが今後10年変わらないとしたら、なんか寂しいなと思う。そろそろ、いわゆるデスクトップメタフォーを超えたユーザーインタフェースに出てきてほしい。

GUIは、かなり表示装置に影響を受けちゃうところがあって、四角い画面が出ている限りはそのままなのかなっていう気もするんですけど。今までは机の上にCRTを置いて使うしかなかったものが、ディスプレーも液晶になってきて、回りの環境が変わってきてるのに、中で映っているものはずっと同じ、というとはなんか嫌だな。ノートPC用の全然違うインターフェースがあってもいいんじゃないかと思う。

Palm OSはサイズが小さいからできるのかもしれませんけど、あれ、Windowsのインターフェースとは違うじゃないですか。ウインドーをオーバーラップさせてどうこうしてるわけじゃない。そういう形で何か、マイクロソフトでもアップルでもどこでもいいんですけど、やたら機能ばっかりてんこもりにして付け足していくサービスじゃなくて、がらっと違うものを見せてほしいなという気がするんです」

塩田「最初にゼロックスのAltoとか、1回ああいうある程度の完成を見たら、それを超えるものを作るには、よっぽど違う、元からの発想がいると思うんだよね。例えば、音声入出力がもうちょっとコストが安くて、もうちょっと技術の完成が早かったら、また違った形のユーザーインターフェースができていたかもしれないし」

柴田「最近思ってるのは、コンピューターと接してる部分がほとんど点ぐらいしかなくて、 CRTとキーボードとマウスしかないわけですよ。例えば部屋全体がコンピューターのインターフェースみたいになっていればと思うんです」

塩田「あと、音声入出力がうまく使えるようになったらね。例えば、外に出かけるのに携帯電話だけあればよくて、携帯電話から命令すれば、それで動いてくれるとか。昨日見たウェブページがもう1回見たいと言うと、メールで送ってくれるとかしてくれるならいいな」

柴田「技術的にはね、そろそろ可能な時代になってきますよ。でもアイデア倒れで終わっちゃわないようなものを作るためには、よほど練らないとできないですよね」

塩田「ただ、いまになってようやく、そういう新しいものが出るときにさ、OSを全部作り直さなくてもいいという状態にはなりつつある。昔からこういう新しいことをするには、新しいOSを最初から作らなきゃだめだったけど、いまだったらCPUパワーも有り余ってるし、少なくともいまあるものの上に、こういうアプリケーションを作れば、これだけ便利になる、というところにはきている」

柴田「そうだな。そのへんが違いますね、昔のPenPointなんか潰れちゃって残念だったんだけど。要するにペン入力がしたいからOSから作ったという。ペン入力したくてハードから作って、専用ハードになって、専用OSになっちゃったから、すごく脆弱なわけで、ちょっと環境の変化が起こればすぐ潰れちゃう。そういうことはないですからね。そこが違いますよね」

塩田「デスクトップマシンについて言えば、ハードウエアリソースはあり余っているから、それを今度どれだけ便利に使うかですね。いろいろ言われてるけど、一応世界中どこに行ってもAT互換機という標準なハードウェアがあって、それが曲がりなりにも年々CPU速度はがんがん上がっていってるし、選ぼうと思えばいくつかOSも選択可能。その中で、じゃあ何を便利にするかというところにきてて、そういう意味ではOSからアプリケーションに、ハードの時代やOSの時代から、アプリケーションの時代に移っちゃってきていますよね。BeOSでもWindowsでも、ユーザーからしてみれば、アプリケーションさえ動けば、OSはどっちでもいいやとなっちゃう。そうなると、逆に集中しやすくなる。要するに、ユーザーが増えればその分よくなる部分も多くなってくるから。そうするとやっぱりOSというビジネスを見ていくと、まったく新しいものを出すのは難しいかな」

柴田「一般的なOSの進化の過程で、2000年がひとつの節目になっていることは間違いないと思うんで、そのへんはお手並み拝見というところですよね。マイクロソフトもアップルも」

2000年は次世代メインプラットフォームが登場する年

塩田「この間調べてみたら、10年周期ぐらいで世の中のメインプラットフォームが変わってきてるんですよね。メインフレーム、ミニコン、ワークステーション、 DOS、Windows 95と。それで、その周期ではWindows 95が最後になっていて、次が2005年。そのころには次のものに切り替わっているはずだとすると、ちょうど2000年はその中間地点にあるんです。

しかもまったく新しいメインプラットフォームがいきなりポッと出てきて、その日のうちに世界中を制覇することはあり得ないから、そうすると2000年、2001年ぐらいで見えているものが結局、Windows 95の代わりになると。それはもしかするとWindows 2000やLinuxなのかもしれないし、ほかのものになるかもしれない。

10年以上継続してもっている製品は、そういう意味ではなくて、完全にはなくならないにしても、やっぱり世の中の主力ではなくなっちゃうというように変わってきているから。それはもしかしたらセットトップボックスみたいなものかもしれないし。携帯の中に全部入っちゃっているのかもしれない」

柴田「それを考えるとデスクトップパソコンというものは、1980年ちょっと前ぐらいから出てきてるわけで、基本的な形は変わってないじゃないですか。20年も。いまのGUIが出てきたきっかけというのはビットマップディスプレーの発明だと思うんです。それで細かく点が全部つけたり消したりできるようになったから、それでどうしようかということでいまのGUIになった。

それに匹敵するような表示装置というか、人間とのインターフェースの発明は、その後まだないということですよね。将来は、平面的な表示だけでなくて、もっと環境を含んだようなインターフェースになるかもしれないじゃないですか。そうしたら大きく変わるでしょうけど。それが出てこない限り、いまのGUIはどうしろっていっても、丸くしたってしょうがないし。回転するようにしても別にメリットないし(笑)」

塩田「ウインドーが立体的に出てくるとか、そんなぐらいしかない(笑)。まあ、例えば立体画面で、使わないものをぐーっと裏に置いておいて、使うものだけが前に出てきて、というのはあるかもしれない。いまウインドーが重なったら、裏に何があるかよくわかんないから、半透明で裏が見えたほうがいいとかね。そういう小手先的なものはあったとしても、やっぱり根本的な改造ではないし」

2000年はユーザーの気づかない水面下の部分で、熱いバトルが繰り広げられる

柴田「やっぱり携帯できるような方向にいくんでしょうかね。確かにそれもひとつ求められていることではあるけど」

塩田「いまインターネットの状況を見ると、コミュニケーションの出入口でもあるから、24時間その機能を利用したいということを考えると、やっぱり持って歩けるようなものというところに凝縮されていくような気がしますけどね」

柴田「電話の代わりにもなり、新聞の代わりにもなり、手帳の代わりにもなると」

塩田「汎用の音声コントロールで電子メールが使えるサービスを米国でやってるみたいなんですよ。もしかしたら単純な用途は声だけですむようになって、携帯電話から全部できるっていう話になるのかもしれない。あるいは携帯電話の中に全部入るのかもしれないけど」

柴田「そのときやっぱりOSはね、ITRONですかね(笑)。いずれにしてもOSというものはユーザーに見える必要はどんどんなくなっていくわけですよね」

塩田「そうそう。だからたぶん、どのOSでもできることはそんなに変わらない。確かに、小さいものに入れるとか、どこに入るかで向き不向きは出てくると思いますけど。HDDに入れるものは携帯電話に入らないとか。そういう意味では、これからは組み込み系のほうが熱いかもしれないね」

柴田「ユーザーから見えないところで、水面下の戦いがね」

塩田「組み込み系のリアルタイムOSって、いま非常に競争が激しいみたいだし」

柴田「実はパソコンのOSよりもそういったOSのほうが総数は出ているわけですよ。 CPUだって、インテルがいくらパソコンで売ってたって、モトローラ製品は電話とか通信機器とかにたくさん入ってるから、数はかなり出てるんですね。だからOSだってそう。熱いのは本当は組み込みOSですね」

塩田「MIPSは出荷数が世界一なんだって。なぜかというとプレイステーションに入ってるから」

柴田「同一型番としては世界一ですよね」

塩田「でも携帯電話にはさすがに入っていないだろうから、ARMとか、ああいうほうが数は出てるのかもしれないけど。そういう意味では組み込みのほうが、これから非常に激戦区になってくる」

柴田「それを考えるとOSだ、アプリケーションだとか言ってられなくなってきて、どこまでがOSで、どこまでがアプリケーションなのかわからない一体型みたいになってくる。CPUだって、組み込み機器のCPUはほとんどどこまでがCPUで、どこまでが周辺チップかわからない。ソフトウェアを1個ぽんと入れて、チップも1個ぽんと入れるとなんでもできるということになる。ユーザーからしてみればそう」

塩田「いま、携帯電話も、99パーセントぐらいソフトで実現するようになっていて、違う方式にしたければソフトをダウンロードしてくれば、勝手にその国の方式の電話機になるとか、そういう研究もされているようです。ユーザーから見れば、あんまりわかんなくなってきちゃったというのはあるかもしれないね。コンピューターみたいに、いかにもな画面があって、キーボードがあってカチャカチャするというのは、そういう意味では最後の使い方になるのかもしれないですね。この次は違うものになっているのかもしれない」

柴田「そのへんでメール交換してるおねえちゃんたちが、OSを選びたいと考えているとは思えないし(笑)」

塩田「ポケットボードを使ってる人、結構電車なんかで見るから」

柴田「別に家にデスクトップPCがなくてもね」

塩田「そう。面倒な仕事はどこかのセンターにお金払ってやってもらえばいいんだからさ。通信料金さえ下がっちゃえば、センターとかサーバーにあるデータを見るだけでいいんだから。メールなんかも手元で受信する必要はなくて、サーバーに到着しているのを見るだけでいいわけだし、ワープロだって、手元で実行しなくても、打ったキーが向こうで編集されて画面にさえ出ればいいんだろう、みたいなことになっちゃう」

柴田「それを考えていくとだんだん中央集権的になってくるな。もともとパソコンがでてきたのは、メインフレームしかコンピューターがなくて、使わせてもらえなかったのを、個人がコンピューターの力を使えるようになったんだというのがパソコンの意義だったんだけど、そういうことをもう1度繰り返しているような気がしないでもないね(笑)」

塩田「分散すぎて管理が大変というところにきちゃってるんじゃないですかね」

柴田「パソコンを使うこと自体がリベラルな行為であるみたいなふうに思って使ってる人、いないですからね。昔はパソコン使うことは意思表示だったけど」

塩田「だってマイクロソフト自体が、いまや自分のところで基幹業務システムまでそろえて、これにはこのサーバーを使うといい、みたいな、昔のIBMと同じことをやってるわけでしょう。もともとメインフレームやミニコンから分離してできたのがパソコンなのに、そうなっているっていうんだから。たしかに金儲けを考えると、ああいう方向にみんな行くのかもしれないけど(笑)。そういう意味では、いまや自由な雰囲気とか、カウンターカルチャーを代表するパソコンという雰囲気は微塵もない」

柴田「ないな(笑)」

塩田「またたぶん、そういう集中化がしばらく進むと、それから分離するような形で新しい機械みたいなのが出てくるのかもしれないね」

柴田「また新しいOSが出てきたりとかね。パワーがいろいろ分散したのが統合されると、いいこともある反面、それを使って中央集権的になっていくというものもあるわけですよね」

塩田「ただ通信料金が安くなれば、例えば腕時計の中にウェブサーバーが入ってて、みんなそれを常に発信して歩いてもいいわけなんだけどね(笑)」

柴田「そうなると、アップルのMacintoshの最初の宣伝と同じですね。みんな統合されて洗脳されちゃって、腕時計して柔順にとことこ歩いて(笑)、やだな(笑)」

塩田「ただ、いまのは分離したあとの再統合だからね。前みたいなメインフレームのように、いわゆるファシズム的な中央集権とはまたちょっと違う。あの当時に比べるとサーバーといっても、そんなたいそうな機械じゃないし。ただ、サーバー自体を自分で持つような感じの集権的な部分はできるかもしれない。例えば家庭や個人がサーバーを持って、そこに全部集中するんだけれども、そこまでだ、みたいなね」

柴田「ただ、 Linuxを一生懸命使っている人の中には、そういう危険な香りをマイクロソフトのOSから嗅ぎ取っている人もかなりいると思いますよ」

塩田「そういう意味では完全に掌握して使うためには、Linuxのようなものでなければ使いようがないというのがあるからね」

OS市場の2000年の動きを大予想

編集部「それでは、対談もそろそろ終盤になってきましたので、お2人に来年、OSはこうなるという“2000年大予想”をしていただきたいのですが」

塩田「大予想? 難しいね。じゃあ、Windows 2000は2月17日に出る(笑)」

編集部「そういうのもOKです(笑)」

塩田「そうね、何かな。さっき言った組み込み系は来年、いっそう熱いかなという気はするな。特にセットトップボックスが携帯電話みたいになってくると、面白いだろうし。電話会社も、ノキアやエリクソンは動き激しいし。直接目には見えないんだろうけど、ビジネスとして過激な状態に入っているような気がしますね。

それで、必ずいま、PDAみたいなものとペアで話される部分も出てきてるから。携帯電話単独じゃなくて、サイフォン使ったり、Palm OS使ったり、Windows CEだ、みいな感じで。そういう意味では多少コンピューターと絡んだところで動くかもしれないけどね。まともなPDA機能付き携帯電話って、いまだに出ていないから。ちゃんとしたものが出れば、みんな使うと思うんだけどな」

柴田「ノキアでしたっけ、HPと一緒になってるやつ。ああいうの、ちゃんと日本でサポートするやつ、ほしいですよね」

塩田「そうね。一応IBMのWorkPadがPHS内蔵版をやるという話にはなっているんで、それがちゃんと実現すれば、まっとうなPDAと通信機能の組み合わせにはなると思うけどね」

編集部「パソコン初心者の友人に、なんでノートPCには電話機能がついてないのかって聞かれました(笑)」

塩田「だって住所録とか入れる気しなくなっちゃうよね。電話機能がないと(笑)」

柴田「そうですよね。情報が相互に流通しないと、断絶があると、そこでもう何もやる気なくなっちゃう」

塩田「紙のアドレス帳に電話番号が書いてあって見るのは許せるけど、何でコンピューターの画面でやってんだって(笑)。こっち側にある電子機器なり電話を手で操作しなきゃいけないんだみたいなね。そこはあるよね。そこいらへんの流通は、やっぱりみんな大いに疑問を感じるところが増えてくるから」

柴田「やっぱりつながってないものは全部だめだね」

塩田「Bluetoothみたいなのがちゃんと出てくれば、例えば携帯電話に電話帳が入ってたら、家に帰って来れば卓上の電話機でもそれが使えるとかさ、それぐらいにはなるんじゃないの。まあ、来年かどうかわかんないけどね。それぐらいのリンクみたいなものを相互に張れるようになったら、きっとそのときに何か組み込みOSみたいなのがどれにも入ってるという形になっちゃうと思うんだよね。それを解決できるものが、最終的にはマイクロソフトよりも数が出るということで、むしろそれが勝つのかもしれない」

柴田「ITRON(笑)」

塩田「そうそう」

編集部「ITRON大ブレイク?」

塩田「そういうのはあるかもしれない。あとは、日本のコンソーシアムとかが海外にどれだけ普及活動をする気があるかというところにかかってくると思うけどね。米国に、『日本からやってきたフリーのエンベデッドOSだ』って紹介したら、意外にガーッとウケちゃったりして」

柴田「米国で日本の家電はあれだけウケてるわけですからね。その家電に組み込んでしまえば、いやでも使う」

塩田「そうそう。で、『おまえら、すでに使っている』みたいに言われるとさ(笑)、『おお、うちも使おう!』となることはあるかもしれない」

柴田「台湾とか、あのへんのメーカーに全部配っちゃえばいいんですよ」

塩田「そうそう。BTRONでは勝てなかったからITRONで敵を討つみたいなね」

柴田「でも、だれも気づかない(笑)」

編集部「柴田さんは? “ITRON大ブレイク”のほかに(笑)」

柴田「じゃあ、希望的観測も含めてですね、国内某家電メーカーがBeOS内蔵テレビを発売する(笑)」

編集部「それ、いいですね」

柴田「いまセットトップボックスみたいなので、米国で安く売ろうとしてるのがあるんですよ。iToasterってやつなんですけど。けっこうユーザー対応もきれいにできてるんで。WebTVあたりとどういうすみ分けになるのかわからないですけど。ああいうサービス込みじゃなくて、一般的なブラウザとして使えると思うんです。でTVに内蔵に1票。この前、電気屋のある通路に迷い込んだら、14インチのビデオ付テレビって、全メーカーが同じようなのをブワーッと出しているんでびっくりしたんですけど、ああいうふうに」

塩田「例えばひとり暮らしとか始めたら、どっちも必ず買うから、1個これ買えば済むっていうことだろうね。部屋にテレビを置こうかとなったら、当然ビデオも置きたいねという話になるもんね」

柴田「BeOS内蔵テレビデオ」

塩田「今年はハードディスク搭載のリプレイテレビみたいのがわりと流行ったし、松下もたぶん出すんじゃない? だから、ああいうのにOSが入ってくるというのはあるかもしれないね」

柴田「BeOSじゃなくても、例えばWindows CEテレビとか、出るんじゃないですか。出ても不思議はない」

塩田「ただライセンス料が家電メーカーじゃちょっと高すぎる気がするな、Windows系は。そういう意味ではBeOSとか、ITRONとか、あっちのほうが可能性的には高いと思いますね。マイクロソフトがよっぽどまけるっていえば別でしょうけど。

いま低価格の300ドルとかのパソコン作るときに、コストが高いパーツが2つあって、1つはHDDで、もう1つはWindowsのライセンスなんです。HDDメーカーは低価格マシン用にどんどんHDDの値段を下げてるけど、Windowsのライセンスだけは下がらなくて、そこが最後の障壁って言われてるんですよ。だから、さっきみたいに、iToasterにBeOS使うっていう判断になっちゃうところもあるんです。

それを考えると、家電メーカーにとってはマイクロソフトのライセンス料は高すぎると思うんですよね。昼間電気を消すことで1円を浮かしてでもコストを下げようとする人たちに対して、あんなものを入れなきゃいけないのかっていうのはさ」

柴田「暴力的ですね」

塩田「マイクロソフトと家電というのは、そういう意味では相性悪いんじゃないかって気がするけどな」

編集部「では、ASCII24のOS市場2000年大予想は、“組み込みOSのさらなる激戦化”と“ITRON大ブレイク”、そして“BeOS内蔵テレビの登場”ということで締めたいと思います。長時間ありがとうございました」


・【年末特別企画OS対談Vol.1】「Windows 95/98ユーザーはWindows 2000にはそう簡単に移行しない」「Mac OSが本当に変わるのは2000年から」
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/1999/
1222/topi01.html


・【年末特別企画OS対談Vol.2】「アップルは関連製品すべてを自社で揃えてしまうかも」「サーバーとしてみた場合、Windows NTとLinuxなら現状はLinuxのほうに分がある」
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/1999/
1224/topi03.html

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