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【第1回デジタルフロンティア京都 Vol.2】英米の実例を紹介するプレゼンテーション

1999年12月27日 00時00分更新

文● Yuko Nexus6

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“デジネットエキスポ”では注目のW-CDMAを展示

併催の“デジネットエキスポ”会場では京都の地場産業である染織技術をデジタル化するウペポ&マジ(株)など意欲的な取り組みが紹介されていたが、やはり目立っていたのはNTTのブース。NTTドコモが2001年にスタート予定のW-CDMA(ビジュアルコミュニケーションが可能な携帯)に注目が集まっていた。講演者のほとんどが話の前振りで「あのテレビ携帯は人々のデジタルコミュニケーションを一層日常化させるだろう」と取り上げていたほどだ。

ISDNによるテレビ電話、W-CDMAによる“テレビ携帯”を出展したNTTのブース
ISDNによるテレビ電話、W-CDMAによる“テレビ携帯”を出展したNTTのブース



小さなカメラ付き、腕時計型ワイヤレスディスプレーを採用したW-CDMAモデルの展示小さなカメラ付き、腕時計型ワイヤレスディスプレーを採用したW-CDMAモデルの展示



また展示場の一角では将来有望なクリエーターを発掘するため選定された“第1回京都メディアスケープ/学生賞”の受賞作品も展示されていた。映像部門、CD-ROM部門ともに、学生の目を通して“京都”を新鮮な感受性でとらえた作品が多く、いい意味で“古き伝統の都”という定番化した京都のイメージからズレている。こうした多様な感性で作られた個人作品を、いかに京都市が進める文化のアーカイブ化とリンクしていくか、注目されるところだ。

学生の受賞作品を展示するコーナー。京都の日常的な音と映像をマルチメディア作品化した正村堅太郎氏の『借景』など、意欲的な作品が並ぶ
学生の受賞作品を展示するコーナー。京都の日常的な音と映像をマルチメディア作品化した正村堅太郎氏の『借景』など、意欲的な作品が並ぶ



NINCHとNINCHの戦略

21日午後、最初のスピーカーはデービッド・グリーン博士。米国文化遺産情報ネットワーク(National Initiative for a Networked Cultural Heritage)、略称“NINCH”(http://www.ninch.org)の創設事務局長である。米国には日本の文化庁にあたる中央組織がないかわりに、文化芸術に関わる各種団体がそれぞれ活動している。

「デジタルツールは道具にすぎないので、常に再考を続けねばならない」と語るグリーン博士。全米規模のデジタルアーカイブを推進するには、根気強くきめ細かなコミュニケーションが不可欠だ
「デジタルツールは道具にすぎないので、常に再考を続けねばならない」と語るグリーン博士。全米規模のデジタルアーカイブを推進するには、根気強くきめ細かなコミュニケーションが不可欠だ



こうした団体をネットワーク化すべく学会代表者、図書館関係者、情報技術者、デジタルアートに関心の深い団体などを組織して'90年代初頭に誕生したのがNINCHである。グリーン博士はNINCHの戦略として“コミュニティーづくり”、“政府や人々に対して主張すること”を挙げている。

すなわち互いに利害や活動内容を異にする団体をネットワーク化するには交流の場を作ることが大切。NINCHではメーリングリストやウェブでの活動内容公開、講演・調査活動、コンピューターサイエンスと人文科学の円卓会議などを盛んに行なっている。またデジタルアーカイブづくりの重要性を理解してもらうために自分たちの考えをはっきりさせ、主張することが大切であり、政府から金をもらってデジタル化すればできるというものではない、と強調した。

「文化遺産のデジタル化というと著作権問題のカベは避けて通れません。そこで人々がコピーライトやフェアユースの考え方についてどの程度知っていて、どんな意見を持っているのかNINCHで調査したことがあるのですが、その結果は実はしっかりした知識を持っている人は極めて少ないというものでした」

そこでNINCHはコピーライトについての教育と意見を交換を目的としたタウンミーティングを全米各都市で行なっている。またNINCHによるデジタルアーカイブの具体的プロジェクトとして、「分散型のデジタルエクスプロラトリアム(体験参加型のミュージアム)が計画されている」と語った。

「私が京都の人々に提言できることがあるとすれば、まずマッピングです。文化のために誰が働いているのか? 図書館や大学、博物館で働く人、彼らをもれなくマッピングしなければならない。また新しい文化のリソースを作るのが誰なのかもはっきりさせねばなりません」とグリーン博士は締めくくった。

UK全土のミュージアムを結ぶ“24時間博物館”

続いてルイーズ・スミス氏がヨーロッパの事例を紹介した。彼女は英国博物館文書協会のディレクターであり、'99年5月、英国文化省より世界初のバーチャル国立博物館に指定された“24時間博物館”(http://www.24hourmuseum.org.uk)の立役者である。

毎月40万件のヒットを数えるこのサイトは、英国全土のミュージアムを結ぶゲートウェー。行きたいサイトに素早く飛べるだけでなく、付加価値として文化関係のマガジン発行、そして“場所”、“年代”、“芸術様式”など様々なキーワードで検索し、あらゆる博物館のコレクションをつなげてツアーすることもできる。

デジタルアーカイブの1番ホットな実例といえる“24時間博物館”を立ち上げたスミス氏。現在はイタリアでのパイロット版を準備中
デジタルアーカイブの1番ホットな実例といえる“24時間博物館”を立ち上げたスミス氏。現在はイタリアでのパイロット版を準備中



「多くのミュージアムが、どうやって自分たちのコレクションをデジタル化すべきかという点でヘルプを求めています。コピーライトの問題、どんなフォーマットで行なうか、などなど。この要求に答えるのが私たちなのです」(スミス氏)

スミス氏はまたヨーロッパ全体の事情にも触れた。

「EUに統合されることで、各国の文化が均質化してしまうのではないか? という危惧が持たれています。EUの経済問題についてはよく議論されるのにひきかえ、文化面の議論があまりなされていないのは問題です。だからこそ文化のデジタルアーカイブ化は加盟国それぞれの文化を守り、活性化させるものでなければなりません。それには十分なコミュニケーションが必要です」

デジタル社会は、地球のグローバルビレッジ化を進める一方で、文化を画一化してしまう力も持っている。全世界の出版物のうち英語で書かれたものが20パーセント程度であるのに対し、英語で書かれたウェブが84パーセントにのぼるというのはその一例だ。画一化の問題については、続くシンポジウムでも議題された。

グローバル化と文化のアイデンティティーを考える

21日最後のシンポジウムはグローバル化と文化のアイデンティティーを守ること、この異なるベクトルをどう考えるかについて盛んに意見が交わされた。目立った発言を挙げていこう。

本日のスピーカー全員が顔をそろえたシンポジウム。表題は“文化のアトラクティブネス――多文化主義の中の日本”
本日のスピーカー全員が顔をそろえたシンポジウム。表題は“文化のアトラクティブネス――多文化主義の中の日本”



左:武邑光浩氏(東京大学)がモデレーターを務め、柏倉康夫氏(京都大学)もパネラーとして参加
左:武邑光浩氏(東京大学)がモデレーターを務め、柏倉康夫氏(京都大学)もパネラーとして参加



月尾氏「昔のコンピュータープログラムは作者が自分の腕前を誇りつつ無償で公開するものだった。いわば共有の社会。パソコン時代になるとそれが“違法コピー”となる商業の論理が支配しはじめた。デジタルコンテンツの時代に、利益をあげるシステムだけが社会にとって本当にいいのか、“文化の共有”をいかに実現するか考える時期に来ている」

グリーン氏「物理的なモノの保存は技術さえあればできるが、文化は静的なものではない。文化はダイアログ(対話)がなくなれば消えてしまうのです。たとえば、ほとんどのウェブは一方通行のパンフレットのようになってしまっている。止まってしまったネット上のコンテンツにコミュニケーションを復活させることが大切です。私はむしろNINTENDOのゲームのように双方向で機能するテクノロジーに興味がありますね」

柏倉氏「たとえば京言葉のように、すぐに核心には触れない、どうかすると最後まで核心に触れないしゃべり方、というのも文化のあり方です。こうした文化が今のデジタル社会に生き残れるのかというと正直不安ですね」

ベルトマン氏「偉大なミュージアムのコレクションのうち9割は非公開だという事実を知っていますか? たとえ大英博物館に出掛けても、見られるのはほんの一部。そして自分たちのコレクションですらちゃんと把握していない館員もいるのです。京都の素晴らしいお寺には何ギガにもなりそうな日本語の説明書きがあるのに、英訳されているのはほんのちょっぴり。文化遺産を世界に広げるには、あらゆる人が簡単に自由にアクセスできるアーカイブづくりが必要ですね」

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