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【京都合宿セミナー Vol.4】オフラインの刺激が再びネットワークに還元され、新しい力へとつながっていく――“情報革命の衝撃:台頭する21世紀型ベンチャーとNPO”パネルディスカッションより

1999年12月13日 00時00分更新

文● 野々下裕子 

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NPO研究フォーラム、関西ベンチャービジネス研究会、日本サスティナブルコミュニティセンターという3つの団体の共催により、3日、京都の本願寺で開かれた合宿セミナー“情報革命の衝撃:台頭する21世紀型ベンチャーとNPO”。セミナー第1部の後半は7名のパネリストを迎えてパネルディスカッションが行なわれた。本稿では、その後半と最後のまとめを紹介する。

京都・本願寺の会場風景。ハードなセミナーにも関わらず満席状態
京都・本願寺の会場風景。ハードなセミナーにも関わらず満席状態



パネルディスカッションのパネリストの面々
パネルディスカッションのパネリストの面々



日本社会の7割はアナログ人間?

大阪大学の跡田直澄教授の話は、自分はまったくのアナログ人間と公言することから始まった。

「自分はまったくのアナログ人間」という視点からの意見で会場を沸かせた大阪大学の跡田教授「自分はまったくのアナログ人間」という視点からの意見で会場を沸かせた大阪大学の跡田教授



ネットワークや情報社会に関する話が続いた後だっただけに、日本社会の7割はアナログ人間、という言葉にはかなりインパクトがあったようだ。しかし、跡田教授はマイナス思考の話をしているのではない。モノからサービスへ劇的に変化している、一物多価というように、人それぞれに価値観があり、技術一辺倒にとらわれてはいけないと提言しているのだ。

さらに、跡田教授は“あたたかいサービス産業”が活性化の道につながり、これからはNPOやボランティアの活動が増えていくとしている。また、前半のセミナーでも話があったように、NPOやボランティアも企業と同じく組織体であり、スタッフの働きに対しては有償であるべきで、役員報酬のようなところを非分配にする方法がいいだろうとした。

日本からグローバルスタンダードが生まれる必要性

そうした役員的な立場としては、エンジェルのようなものがあるが、続く(株)関西ベンチャーキャピタルの代表取締役である森脇弘之氏は、頭も使う、金も出すのがエンジェルだと話を切り出した。

関西ベンチャーキャピタルの森脇氏は、共催団体の1つ、関西ベンチャービジネス研究会のメンバーでもある
関西ベンチャーキャピタルの森脇氏は、共催団体の1つ、関西ベンチャービジネス研究会のメンバーでもある



「今の日本では企業に入社することさえもベンチャーというぐらい不安定である。では、そこで何を見て企業を選ぶかといえば、将来性にかけるしかない。2、3年後には次の夢が始まるはずと考え、そこに投資するのがキャピタリストたちの役割である。投資を活性化するには、日本でもっと成功者が生まれなければいけない。海外ばかりに目が行っているが、日本からもグローバルスタンダードが生まれれば、大きく変わっていくだろう」

成果が認められる重層的な価値評価システムを作る

しめくくりのフリーディスカッションでは、慶應義塾大学大学院の國領二郎助教授が、日本からグローバルスタンダードを誕生させるには、インフラコストを下げるしかないと提言。定額でいつでも誰でも回線がつなげるようにならなければ、物理的な壁は越えられないとした。また、こうしたネットワークづくりは、民間の手でも可能だという。

その発言を受けて、国内の地域情報化に詳しい通産省の加藤敏晴氏は、岡山県の県内イントラネットや高知の無線LANネットワーク、富山の山田村などの例を上げ、「環境づくりは自ら動くしかない。動くのはタダだし、人をつなげる原動力にもなる」とコメントした。ただし、動いてもそれが客観的に評価されなければ長続きしないとも。そこで、重層的な価値評価システムを作るべきだと言う。
「貨幣+αの価値が、コミュニティービジネスという新しい形を生み出すこともできる。具体的には地域がNPOを作り、それを金融、ユーザー、株価の3点で評価する。そうすれば成果も認められ、なおかつ資金援助の道も生まれる。評価はとても大切で、信頼と実力の向上にもつながる。1つの具体例として、企業のアウトソーシング先としてSOHOをマッチングさせて、実際の仕事の中身で評価するといった実験を来年1月からスタートする予定だ」

コミュニティーへの貢献がベンチャーの在り方を変える

日本のこうした状況に対し、eBayの大橋進氏は、アメリカ生まれのものは世界で通用するが、その逆はほとんどないとコメント。ただし、日本でもグローバルスタンダードになれるものは数多くあり、そうした世界的な評価も大切になるだろうとした。たとえば、eBayでは来月日本語サイトを立ち上げるが、日本語で使い方に慣れれば海外のサイトも使えるようになる、とeBayのねらいはあくまでもユーザーの視野を世界規模に拡げていくことにあるという。

そこで加藤氏は、そうした世界的な評価を受ける1つの例として、コミュニティーへの貢献があるとした。子供向けの無料ブラウザーを開発しているシリコンバレーのベンチャー企業では、収益の75パーセントを地域の小学校へ寄付するというスタイルで注目されている。それでいったいどうやって収益を上げているのかといえば、ライセンスの販売や他の企業の投資によるというのだ。実際、日本でもバンダイをはじめ、多くの企業が出資し、成長ビジネスとして注目されているという。日本でもこうしたスタイルができれば、ベンチャーの在り方も大きく変わっていくことだろう。

第1部では、各パネリストが短いながらも、ベンチャーとNPOをテーマに、多くの刺激的な発言が飛び出した。参加者らは、その興奮もさめやらぬまま、後半のひざ詰めトークセッションに入っていった。トークはまさしく朝まで続いたのだが、そこでの出会いや話は、第1部以上に刺激的だったにちがいない。

今回のセミナーでは、ネットワークがあったからこそ実現したものだが、だからこそ人との出会いが大切だということを、参加者はまさしく肌身で感じたことだろう。オフラインの刺激が再びネットワークに還元され、新しい力へとつながっていく。21世紀型ベンチャーとNPOのスタイルの1つも、きっとこのようなところから生まれていくのだろう。

学生ボランティアたちからも感想が述べられた学生ボランティアたちからも感想が述べられた

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