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【Content Japan1999 Vol.5】GPSが広がらない3つの理由――セミナープログラム“携帯端末を中心としたモバイルコンテンツビジネス”より(下)

1999年12月07日 00時00分更新

文● モバイルニュース 山田道夫

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1日から3日まで、東京・北青山のTEPIAにおいて、(財)マルチメディアコンテンツ振興協会(MMCA)の主催により“Content Japan1999”が開催された。本稿では、3日に行なわれたセミナープログラム“携帯端末を中心としたモバイルコンテンツビジネス”の模様のうちセイコーエプソン小型情報事業推進センター小型マーケティンググループ課長、鴨居達哉氏の講演を中心に報告する。

GPSの消費電力を最小にしたロカティオ

セイコーエプソンは、先進的な製品を出して、水に石を投げることをよくやる企業である。

ロカティオは、位置情報機能を搭載した携帯情報端末である。アメリカでは、FCCという公的機関が、日本の110番、119番にあたる911を押したら、どこに位置があるかを分からせないといけないことを決めた。鴨居氏は、「来年から、街の情報端末として、現在位置表示を行なう。また、独自のリファレンシャルGPSシステムを開発して、位置情報の精度を高める工夫もしている。将来的にはピンポイント天気予報などを可能にしていきたい」と述べた。

セイコーエプソン小型情報事業推進センター小型マーケティンググループ課長の鴨居達哉氏
セイコーエプソン小型情報事業推進センター小型マーケティンググループ課長の鴨居達哉氏



ロカティオの重さは280gぐらい。デジカメが1番バッテリーを食う。最新モデルでは、連続使用時間が17時間くらいになった。GPSはバッテリーを食うモジュールだが、独自に低消費電流のGPSユニットを開発した。最初のモデルは、9万円。3週間前に発売した最新モデルが5万9000円、デジタルカメラ付きのモデルが6万9000円となっている。

GPSはカーナビに利用されている。時間差による測位を行なっている。GPS用の衛星が4つ分かれば測位が可能だ。cdmaOneの場合、基地局にGPSを持っているので、2つ分かればよい。

もともとGPSは軍事衛星として開発された技術を利用したニッチな分野だった。GPS用の衛星は、24個もアメリカの国防省が打ち上げている。維持費に130億ドルくらい掛かる金食いシステムだ。冷戦や東西対立が終わり、アメリカとロシアの戦争の可能性が小さくなってから、商用に利用しようということになった。そのため、カーナビのGPSの衛星使用料は払っていない。

ロカッティオのコンセプト。世界最小消費電力GPSの開発と製品化、位置情報ネットワークインフラの構築を目指している
ロカッティオのコンセプト。世界最小消費電力GPSの開発と製品化、位置情報ネットワークインフラの構築を目指している



GPSが広がらなかった3つの理由

鴨居氏は、カーナビ用途だけではなくて、もっとさまざまな分野に位置情報が広がってきていいのだが、広がってこなかった理由として、3つの大きな原因があると指摘した。

1つ目は、GPSシステムが電力を大幅に消費するためである。手に持つとか、ウェアラブルPCだとか、腕時計、携帯電話に入れてしまうには、電力消費量が大きすぎた。そこで、最初は電力消費量を落とすことから始めた。セイコーエプソンでは、腕時計部品の製造をしていることから、もともと部品を小さくするノウハウがあった。そこで、小さなパワーで動くようにしよう、と考えた。

2つ目は、移動している人たちが、精度をどのくらいまで求めるかということが問題だったからである。軍事用なので、民間で利用する場合には、意図的に誤差をつけて位置がずれるようになっている。また、衛星が2万キロの高度にあるところからの誤差もある。ビルの影なども誤差を大きくする。100メートル、200メートルの誤差が生じてしまう場合もある。車の場合は、簡単に誤差の補正が可能だが、携帯端末の中でどう補正していくかが問題だった。今は、インターネットを利用することで誤差を補正できる。

編集部注:戦争が近づくと衛星から来るGPS用データの精度が上がると証言しているコンピューターマニアもいる

そして、最後の問題はコンテンツだ。ここからは将来のビジネスが発展するかどうかが課題となる。

この点について、鴨居氏は、「昨年、全日空とトライアルプロジェクトを実施していた。ロカッティオを旅行者に貸し出し、彼らがどういった行動をするかを調査した。グループで来ていれば、相手がどこにいるか、自分がどこにいるかを知らせたりする使い方が意外に多かった。今は修学旅行ナビが好評だ。修学旅行では中学生も高校生も自由時間が長いので、自由行動をしている生徒にロカティオを持たせる。自分がどこにいるかが分かるし、先生にとっても生徒がどこにいるかが分かる。修学旅行生が集合地点にどんどん向かってくるのを眺めていたら、上からアリを見ているかのようで面白かった。これを一般の人にも使えるようにしていこうと計画している」と述べた。

たとえば、「釣りで大きな魚を釣ったよ」と、どこで釣ったかを示してコミュニケートしたり、といったことが可能になる。

修学旅行ナビのコンセプトイメージ
修学旅行ナビのコンセプトイメージ



プロバイダサービス『i-Point network』で、さらにロカティオの機能を引き出す

さらに、『ココ! コミュニケーション』と名付けているが、ボタンをクリックすると、その位置情報の地図が表示されるようになる。ゲームボーイにGPSのようなものが載ると、インターネットの情報を取りながら遊ぶことが可能になる。“サイバーワールドとフィジカルワールドのブリッジ”のような位置づけでいたい、という。

また、ロカティオの機能を引き出すエプソンのプロバイダサービス『i-Point network』では、関東エリアを中心に行きたくなるような場所の情報を毎日発信している。i-Point networkサービスのコンセプトは、位置情報を利用した実用度の高いサービスをコミュニケーションインフラで強化、オープン化し、位置情報付きのコンテンツの充実と利便性を高めていくことである。

鴨居氏は、「実際に見に行った人たちも自分で情報を上げてくれています。私たちは“地球の歩き方”方式と読んでいますが、枠組みだけを作ってユーザーが情報を追加していく形もある」と、ユーザー参加型の情報提供のメリットを挙げた。

ロカッティオは、セイコーエプソンの中では新規事業として、他の事業とは比べられないくらい金を掛けている。“ハードウェア”としてのロカッティオではなく、“サービス事業のi-Point”に大変な重点を置いている。ハードウェアオリエンティッド一辺倒でなく、コンテンツの重要さを意識しているのだ。ハードウェアの場合は、どんなに先進的な製品を出しても、結局は値段の叩き合いになってしまい、メーカーがお互いに疲弊してしまう。ネットワーク側の重要度は今後ますます増してくる。位置情報ビジネスの中で、位置情報をプラットフォームにした、マッチングプラットフォームを目指している。

i-Pointを使って位置情報を生かして場所が簡単に紹介できる
i-Pointを使って位置情報を生かして場所が簡単に紹介できる



さらに鴨居氏は、「位置情報を提供することで、事業者とともに利益を得たいと考えている。インフラのライセンスビジネスを考えている。それは、他社製も含めたものでザウルスや、PDA、ノートPCなどにも開放していきたい。最初のロカッティオを開発したとき、“ペットの位置情報サービスを行ないたい”という会社が多くてびっくりした。GPSでは、自分の位置が分かり、相手の位置が分かる。単機能用途に広がっている」と述べた。

cdmaが広がると、位置情報がキラーアプリケーションになっていく。インターネットの中でワントゥーワンという言い方をしているが、実際には、買った人がどういった製品を購入したかといった程度のプッシュにすぎない。

最後に鴨居氏は、「位置情報が分かることで、ダイナミックワントゥーワンが可能になり、その人の欲しい情報を流すことも可能になってくる。今後の大きな課題は2つある。1つは、デザイン的にも価格的にも女性が使えるようにする必要があること。また、セイコーエプソン以外で、位置情報を作っていく仲間を探している。低消費電力GPSシステムなどのOEMをさらに展開していこうと考えている。いろいろな会社を巻き込みながら広げていくことが今後の課題だ」と、今後の課題を述べ、セミナーを締めくくった。

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